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河童の消えた村  作者: マジコ
4/9

河童の消えた村 その4

しかし、橋本先生は頬を弛めて笑っていた。窓の外には照りつける太陽光が差している。外は暑いだろう。資料室も暑いから。


「えーと確か。」


橋本先生は楽しげに日誌をめくる。どこかのページを探しているようだ。本当に学校の宿直の日誌に河童のことが記載されているのか。僕は橋本先生を息を飲んで見つめた。


「あったあったこれだ。」


そういうと橋本先生は僕に河童について記載されているページを見せてくれた。

そのページにはこう書いてあった。

それは真夏の熱帯夜のこと。暑い宿直室で過ごしていた。窓を開けて少しでも涼しくならないかと気休めをしていた。昼間は生徒たちの明るい声で元気をもらうが、夜の校舎は静かで気分はだるい。だるい気持ちを胸に私は見廻りをしに宿直室を出た。まずは2階から見廻りをした。いつものことながら何もない。静かな闇が広がっている。頭をかきながら私は一つ一つ教室を見て回った。教室内の机は綺麗に揃えてあって掃除も行き届いている。うちの生徒は真面目なやつが多いんだろうな。そんな感覚に襲われた。生徒数がそこまで多くないのもあるだろうが、素行不良の生徒はいない。日誌にこんなことを書く必要はないと思われるかもしれないが、これを書いている時の私は饒舌に語りたいと思っていたのだ。2階の見廻りを終えた私は1階の見廻りに行った。校長室も職員室、図書室、保健室も何の違和感のない平和そのものであった。何か事件でも起こらないか思ってしまう。それだけ穏やかな日々がこの学校では流れている。暇だなと思いつつ1階の廊下を歩いているとふと水が点々と落ちていた。誰か水を溢したのかなと思ったが、よく見ると水はプールの方へと点々と落ちていた。不審に思った私は辿って行くことにした。水を溢して行くというのは泥棒にしてはお粗末だし、生徒だとすればなにが面白くてこんな水を溢すだけの悪戯をするのだろうかと思った。そう考えると水が溢れているのは何故かよせば良いのに水が溢れた跡を辿って行くことにした。

水滴を追うとプールまでやって来た。プールの方を見ると何か泳いでいる音がする。鋭い水泳選手のような水の弾く音がした。誰かいるのか?そして、何故プール?疑問点を頭の中で整理しつつ私は屋外プールに足を踏み入れた。そこには緑色の肌をした頭頂部の剥げたまぁ河童がいた。私は怪奇的なものを信じない質だったのでその光景にびっくりした。腰を抜かす勢いだった。誰かが変装しているのではないかと思ったので私は強い口調で声をかけた。


「おい!そこにいるのは誰だ!?」


何も反応はなかった。私はなんだか腹が立ったきたので怒鳴るように声をかけた。すると河童はこちらを向いた。


「キー!」


人間の演技とは思えない声を河童は発した。これはまさか本当に河童かと思った。河童はこちらに多分古式泳法と思いしき泳ぎ方でやって来た。


「キー。」


見た目から誰かがふざけて変装しているようではないことがわかった。声もやはり人間のものではないと思える。


「だ、誰だ!」


私はすっかり怯えた。河童のような妖怪など見たこともないし、いるのかなと思うようなこともなかったからである。ビビりながら私は後退りをした。すると河童はぺたぺたと水道に行き、2本のキュウリを手に取り、こちらに向かってきた。私は恐怖のあまり逃げ出すこともできず、少し後退りするもほとんど身動き取れなかった。この学校周辺には今は私しかいない。叫んでも誰にも気づかれないだろう。泣きたくなった。私が硬直していると河童は私の目の前に来て手をとった。河童の手はすべすべしていた。何だかキュウリっぽい。キュウリを食いすぎだからなのかと現実逃避のような感覚でふと頭に浮かんだ。死をも覚悟していたのにである。臭いは生臭く魚のようだった。基本的に水の中で生活しているからだろうか、川を思い出す臭いだった。ちょっときつい。手をとった河童はそこにキュウリを握らした。何故キュウリと私は思った。そして、


「キー。」


不気味さを感じさせるその声だが優しさで私を包み込むような穏やかさを感じさせた。襲うつもりなにようだったので、ホッとした。


「キー。」


河童はもう一本のキュウリを食べた。美味そうに食べていた。本当に河童はキュウリが好きなのだなぁ思った。そして、ジェスチャーで私に渡したキュウリを食べるようにと促した。先にキュウリを食べたのは毒味ということか。私は促されるままキュウリを食べた。美味かった。


私は河童と仲良くなり宿直室に案内した。お礼に酒でもやろうかと思ったのである。本当はいけないが、酔っぱらわない程度に密かに飲んでいる。今日、持ち込んだのは有名な銘柄の日本酒である。河童は酒を飲むのかなぁと思いつつ宿直室に着くと河童は興味津々といった感じでキョロキョロしていた。


「そんなに珍しいか?」


私が聞くと


「キー。」


と言った。何を言ってるのかわからないが、声のトーンと顔で多分珍しいと言ったと思われた。

宿直室に入ると早速棚から日本酒を出した。河童にコップを渡し、酒を注いでやると臭い嗅ぎ一口飲んでみた。


「キー!」


河童はびっくりしたようだ。まぁ、自然界にはない味わいだからなと私は思った。ところが、河童は目をギョロっとしたかと思うと、コップの中にある残りの酒を飲み干した。美味かったようだ。私と河童と飲み明かした。気がつくと朝になっていた。頭痛がひどく飲み過ぎたと思った。そういえば河童はどうしたかと思って周りを見渡したが、いなかった。一緒に飲んだ証拠のコップは一つしかなくあれは夢だったのだろうかと思わざる得なかった。


読み終わった僕は橋本先生に開口一番、


「冗談ですか?」


と言わざる終えない。大体こんなこと書いたら怒られて訂正させられるんじゃないかと僕は思った。

その質問に橋本先生は笑いながら、


「当時は笑って済ましたらしい。」


と言った。

時代というものなのだろうか。今、やったら説教コースだろう。古い紙の匂いを感じながら僕は呆れてしまった。

二つの話を知っていると橋本先生は僕に言っていたが、もう一つもこういう話だろうか。


「もう一つはどんな話なんですか?」

「気になるか?」

「折角ですから。」

「じゃあ、話そう。」

「また、教師のひょうきんな話ですか?」

「いや、もう一つの話は村の子供による冒険話だ。」


それは興味が湧く。今までとは違う話だ。これまでの話は河童とたまたま遭遇したという話である。まぁ、河童と日常的に接触しているわけではないので不用意の偶然の関わり合いという形になるのは仕方がない。しかし、それでは今回の自由研究の内容が単調になってしまう。でも、橋本先生の言う冒険話は人間からのアプローチと言えるだろう。それはただ河童と遭遇したとの話とはまた違うストーリーがあるだろう。


「橋本先生、聞かせてください。」

「おっ!興味が出たか。」

「面白そうですから。」

「では、話そう。心して聞くがよい。」


温かな笑みを橋本先生は湛えて話始めた。


それは武士の世の頃の話だ。いつ建立されたかはわからないが、寺があった。何故、いつ建立したかがわからないのかは一度火事で寺が全焼し、記録ごと灰になってしまったのだ。村人たちの協力でなんとか現在の姿にまでもって来ることができたのである。

さて、その寺にはうつけものと言われている住職の一人息子がいた。名は佐助と言った。佐助は村のはみ出し者を集めては野山で遊び回っていた。

その日も普段と変わらず佐助たち四人が近くの山で遊んでいたある日のこと。小川で魚を釣ろうと思った佐助たちは釣竿を持って小川に行った。小鳥の囀りをBGMに佐助たちはのんびりと釣りに興じた。どのくらい経っただろうか。一人がすっかり川辺で昼寝しだした。佐助はそろそろ飽きてきたなと思い、帰ろうかと考え始めた時である。子分の一人が何かを拾ってきた。


「なんだそれは。」


佐助は子分の一人が拾ってきた物をまじまじと見た。それは食いかけのキュウリだった。


「おいおい汚ないな。」


佐助はこんなもの拾って来るなんて馬鹿だろうと思った。しかし、子分は少々興奮しながら言った。


「いや、これ歯形がおかしいのですよ。」

「まあ、確かに。」


佐助は背中を曲げてまじまじと食いかけのキュウリを見た。確かに人間の歯形でも猪とかの歯形とも違った。

周りにいた他の子分2人も集まってきた。一体、何の生き物の歯形か議論となった。


「こんな生き物いるかな?」

「誰かの悪戯じゃないか?怪物の仕業という噂を広めようとしているんだよ。きっと裏の屋敷のばばあが俺たちが遊び回るのが目障りでこうやって仕込んだのさ。」


子分の一人は近所のばばあによる悪戯説を唱えた。

佐助は考える。釣りより面白いことを見つけた。にやりと佐助はした。


「ばばあはそんなに知恵が回らないよ。」


他の子分が言った。さらに理由については、


「だって、あのばばあ前に偽の火の玉で驚いて蒲団に駆け込んで3日間家に閉じ籠ったくらいだぞ。結局、孫の説得でなんとか家から出てきたけど。あそこまで迷信を信じ込む信仰心の篤い人が罰当たりに怪物の振りするかな?」

「それもそうか。あのばばあによく怪奇風の悪戯するが、一度も最初に気づいたことないからな。」


ばばあの悪戯説を唱えた子分は自説を引っ込めた。よくよく考えるとそうではないと自分でもわかったのだ。ばばあの知恵じゃこんなことは思い付かんだろうと思った。

もう一人の子分が口を開けた。


「カワウソとかオオサンショウオとかじゃないか?」

「これは生き物の歯形じゃないし、オオサンショウオのものでもないよ。」


と子分の一人が言った。この子分は生き物の生態に興味があり、結構詳しい。タヌキを飼っている。佐助たちも遊びに行くとよくタヌキとじゃれあって遊んでいる。食事も一緒に食べる。タヌキを飼っている子分も佐助たちもこのタヌキのことを家族、友人と思っている。その子分がそう言うのである。普通の生き物ではないと考えるべきだろう。


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