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河童の消えた村  作者: マジコ
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河童の消えた村 その1

「あー暑い。」


夏休み前の最後のホームルーム。僕は暑がりながら下敷きで顔を扇ぎながら先生のありがたいお話を聞いている。窓際の席で外を眺めながらぼやいた。

今このクラスには先生を除いて5人いる。所謂、廃校寸前の過疎化したよくある学校である。人数が少なく小さい頃から一緒に遊んでいたのでこの学校の生徒は仲が良く結束力が高い。

僕が窓の外を眺めていると先生がやって来た。出席表で頭を軽く叩いた。


「痛いですよ先生。体罰ですよ。」


恨めしそうに僕は先生を睨んで訴えた。


「お前が人の話を聞かないからだろ。」


僕の訴えを全く聞かずどこ吹く風だといった感じだ。昨今の教育現場とはかけ離れた言動だ。法律で親でも体罰は禁止なのに。


「心外だな。ちゃんと聞いてましたよ。」

「じゃあ、何を話していた。」

「夏休み中の心構え。」

「こら。」


また、出席表で叩かれた。


「痛い!」

「それっぽいこと言って誤魔化そうとするな!」


そう言われると僕は黙るしかなかった。

隣の席に座る我が校のアイドル宇佐美さんがくすくす笑っていた。その笑みはとても可愛くて胸を打つ。冗談で笑わしたの僕のギャグセンスは素晴らしいな。そう得意気に思った。


「痛い!」


また、先生に叩かれた。


「お前は本当に学習能力がないな。」

「ふっ、学校の物差しでは僕の本当の実力は測れませんよ。」

「じゃあ、何なら測れるんだ?」


先生の如何にも胡散臭いものを見る目で僕のことを見ている。ここは上手いことを言って切り抜けよう。


「そうですね。IQとか?」


思い付いたのが、それしかなかった。後は昔テレビで見た時刻表のテストとか、外国語の検定くらいしか思い浮かばなかった。


「はぁ、お前はもう少し世の中の勉強しろ。」


溜め息して先生は何か諦めたように哀れな人間を見るような眼差しで教壇に戻った。上手いこと切り抜けたと僕は思ったが、横を見ると宇佐美さんは無表情だった。2度目はなしか。

ちょっと心に傷を負った僕を置いて先生は夏休みの宿題の話をしていた。ああ、この話をしていたのか。うん、わかってたけど。


「後は自由研究だがまぁ頑張れ。」


先生の最後の言葉が耳に入った。漢字ドリルとかなら楽勝だが、好きにやれていうのは難しいな。束縛がある方が反ってやり易かったりする。自由というのらとかく人を惑わす。ある人は悩み、ある人は怠惰に陥る。自由を貫徹するというのは難しいのである。僕が哲学を頭の中で流していると先生がこっちを見た。また、叩かれるのかと思い、頭の頭頂部を先生の方へと向けた。顔は見えないが溜め息が聞こえた。そして、こちらに歩いて来る足音がした。僕の席の前で止まる。頭を出席表で頭を叩かれた。今度はさっきより強めだ。


「何で先生が話している時にふざける。」


くっ、ふざけすぎたか。僕はまだ、ほんのり痛みの残る頭頂部さすりながらちょっと反省した。僕の高踏なジョークに先生は付いてこれなかったようだ。その時、ふと横を見ると宇佐美さんが冷たい無表情でこっちを見てた。まったく、宇佐美さんもこれが分からないとはまだまだだな。

この後も先生とコントをして時間は流れた。放課後、僕は家路についた。学校から家はそれほど離れていない。家に帰ると両親はの祖父と一緒に農作業していた。我が家は大根を栽培している。結構評判が良いようで都会の高級スーパーでも売られている。家に入ると祖母が出迎いてくれた。


「おばあ、ただいま。」

「お帰り。明日から夏休みね。」

「うん。のんびりできるよ。」

「のんびりする前に宿題を終わらせなさいね。」

「ぼちぼちね。」

「夏休み前半のうちに終わらせなさい。」

「へいへい。」


祖母に忠告された僕は2階の自分の部屋に入った。まぁ、今日はまだ夏休みじゃないから寝ようと思い、部屋着に着替えてベッドに潜り込み夕飯の時間まで寝た。

次の日から僕は真面目に勉強机に向かった。朝食の時に祖母から口酸っぱく宿題を早く終わらせるように言われ、うんざりしてどうしたらいいか考えたらさっさと夏休みの宿題を終わらせるのがベストだと気づいた。ということで夏休みの初日から僕は真面目に勉強しているのだ。

宿題はいざ真面目にやると数日後にはあっという間にほぼ終わった。残った宿題は日記、読書感想文、自由研究だけであった。日記は毎日適当なこと書いておけばよい。読書感想文も読みやすそうな本を図書館で借りて時間をかければよい。だが、問題なのは自由研究である。自由というのが僕には難しいなと思う。何かいい案はないか考えたが、さっぱりだ。さっさと決めないと夏休み中に終わらなくなってしまう。どうしようかと思考を巡らした結果、何かを調べようかと思った。何がよいだろうか。歴史?いや苦手だ。あれこれ考えてると下から声がかかった。


「おーい。昼食できたよ。」


祖母の声だ。そういえばもう昼食時か。ふと、思った。祖母に聞けば何かヒントが得られるかもしれない。そう思ったらいてもたってもいられなくなり急いでドタドタと階段を降りてリビングに行った。祖母に廊下を走るなと怒られた。

祖母ほ作った昼食は和食であった。地元で採れた野菜を使っている。祖母の腕もいいが、野菜自体が美味しい。ご飯が進む。

おっと、忘れるところだった。

僕は祖母に訊ねた。


「なあなあ、おばあ。」

「なんだい?」

「自由研究でなんかいい題材ないか?」

「うーんそうだねぇ。」


祖母は考え込んだ。まぁこの村は特別何かあるわけではないので、中々いい案が思い付かないのだろう。


「そうだ!」

「びっくりした!」


祖母が急に大声を出したのでびっくりした。


「なんだよ急に!」

「悪い悪い。そういえばうちの村は河童に関するお話が多く残っているのよ。」

「河童?」


それなら聞いたことあるな。学校でも先生がそんな話をしていた。ちょっと年寄り臭いが悪くないと思った。祖母はこれならという感じである。


「河童の話なら先生への聞えも無難じゃないかしら。逸話は多いから適当に詳しそうな人二、三人に聞いて回ってまとめれば体裁は整うわ。」

「でも、人に話を聞くなんて面倒くさそう。」

「それくらいの労苦は負いなさい。」

「はーい。」


僕は祖母の提案した河童の話を収拾するというテーマにした。他のテーマを考えるのが面倒だったのもあるが。食事を終えた僕は自室にあるまだ使ってないノートを机の中から引っ張り出し、表紙に河童研究と題を書いた。

誰から話を聞こうかと考えた僕は民俗資料館に聞きに行くのが、一番良いだろうと思った。それと村の人にも話を聞こうと考えた。まずは身近な祖母に聞いてみることにした。1階のリビングに行くと祖母が茶を啜っていた。


「おばあ、早速だが取材をさせてくれ。」


「では、早速おばあ。何か話はないですか?」

「そうだねぇ。一つあるね。」

「聴かせてよ。」


どんな話だろうか。つまらなかったらやめてしまおう。そう心の中で決意した僕は祖母の話を聞いた。


「それはね私がまだ未就学児だった頃の話さ。」


それは新月の夜のことだ。

当時我が家には小さな社があって、そこに神様を祀っていた。どんな神様かはもう分からなくなっていたのだがね。ただ、河童と仲が良くよく一緒に川遊びをしていたという話は聞いていた。この地域で河童というのは妖怪で恐ろしい存在であるのと同時に神様に匹敵する敬う存在でもあった。いわゆる、畏敬の念を村人は河童に対して抱いていたのだ。

家の近くには小川が穏やかに流れていた。静謐という言葉がぴったりな静かな夜だった。昼間の騒々しい蝉の大合唱も鎮まりかえっている。ただただ小川のせせらぎが耳に響いてくる。そんな夜のことだ。

母に神様への今日のお供えものを持っていくように言われた。私は面倒だなと思っていた。どんな人でもそうかもしれないが、若い時分には信仰というのはどこか離れたところから眺めているようなあまり興味を抱く対象ではない。特に私は歴史とかには興味がなかったのだ。不信心者と呼ばれても仕方のないような兎に角当時の私は神頼みして何か変わるのかそもそも神など存在するのかと斜に構えて神様のことも含めて見ていた。

今日のお供えものは饅頭だった。村唯一の饅頭の専門店の饅頭である。美味しいことで評判で村外からも買いに来る人もいる。帰省すると必ず買うという人もいる。私も好きであった。つまみ食いしようかと思ったが、ばれると面倒なので我慢することにした。星が眩く光り耀く夜私は社に供物を供えた。

供え終えた私は家へと戻った。母に供物を供えたと報告すると母は困ったという顔をしていた。どうしたのかと話しかけると母曰く今日は新月だから供えてはいけなかったと言っていた。そういえば新月に供物を供えてはいけないという言い伝えがあったと私は思い出した。確か河童が最も活動的になる日で供物を持っていってしまうということだった。母は私にすぐ回収してきなさいと言った。私も慌てて取りに行った。

我が家の社に行くと水が点々と落ちていた。ちょっと気味が悪いなと私が思いつつ木々のほのかな風による音を聞きながら社の奥に行くとそこには河童がいた。私は驚きのあまり固まってしまった。河童は供物を抱えて逃げようという場面だった。私は慌てて家に駆け込んだ。母にその話をすると母はきゅうりを台所から持って来てこれと交換してもらえと言った。その時の私は怯えていたが、母に言われるがまま持って行くことにした。社に行くと河童はまだいた。


「キー!」


こっちを威嚇してきた。そんなにお腹が空いているのかと思うとちょっと可愛く思えた。頭頂部には皿があり、その周りに毛が生えている。見た目は昔本で見た絵そのままという感じだ。剽軽そうな印象を受ける。一部の漫画のキャラクターとは違い妖怪然とした感じである。

私は取り合えずきゅうりを見せた。


「キッ、キー!」


ちょっと反応した。やはり河童はきゅうりが好きなのか興味を抱いているようだ。私はきゅうりをこれ見よがしに振って河童の反応を見た。河童はきゅうりの方をジーと見ている。これはいけると私は思った。

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