3章 4話 映画館
映画館に到着し、チケット売り場を目指す。
ここに来るまでもそうだったが、三人で手を繋いでいるせいで、ずっと周囲の人達からの視線が痛い。
ひそひそ話の声や罵詈雑言が聞こえてくる。
しかし、俺が逆の立場だったら、同じような態度を取るだろうから、何も言う権利がない。
石動が選んだのは、恋愛映画だった。
チケットを買うとき、石動が「お二人のチケット代は、私が出します」と言ったが、俺もカレンも断った。
なんなら俺が出してもいい。
結局、それぞれ自分の分だけ支払った。
上映まで時間があったので、売店に寄った。
カレンは目を輝かせ、メニューを眺める。
そして、コーラ、キャラメル味のポップコーン、フライドポテト、チキンナゲットを全てLサイズで頼んだ。
家を出る前、俺達は昼飯を食べてきた。
チャーハンと中華スープで、結構重いはずだが、大食いチャレンジでもするのだろうか。
俺はコーラ、石動はアイスティー、それに加え、二人共塩味のポップコーンを注文した。
シアター内は、若い女性が圧倒的に多い。
男もいるが、それはカップルで来ている人だろう。
俺達の席順は、手を繋いで歩いていた位置取りと同じで、右からカレン、俺、石動だ。
映画が始まった。
テレビでも紹介されていて、付き合ってはいないが両想いの高校生の男女が、すれ違いながら、最後は結ばれるという典型的なラブストーリーだ。
映画館は久しぶりだから、思いの外楽しい。
中盤に差し掛かったとき、カレンが肩に寄りかかってきた。
もしかして、恋愛映画を観て気分が高揚しているのか?
そっと横を見ると、カレンはすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
食べ物は全て空になっている。
何しに来たんだよ。
「おい、カレン、寝るなって」
小声で言い、軽く肩を揺すってやると、
「んっ……猛丸ぅ、ダメだよ……」
と妙に色っぽい声を出して体をよじらせる。
誤解招くわ。
幸いなことに、石動はスクリーンに夢中で、カレンの寝言を聞いていなかったようだ。
物語も佳境に入る。
映画に見入っていて気付かなかったが、カップルで来ている男女がいちゃついている。
薄暗いシアターで、物理的な距離も近く、自然と盛り上がるのだろう。
「猛丸くん、手を繋ぎましょう」
石動が突然、そんなことを言い出した。
面食らう俺に、
「そうすれば、恋人達の気持ちが少しだけでも分かるかも知れません」
石動もシアター内の状況に気づいているようだ。
俺はそっと、石動の手を握った。
並んで歩いていたときよりも俺達の距離は近い。
往来で手を繋ぐのとは違う。
ここでは他人の目を気にしなくていい。
繋いだ手に、力がこもる。
仄暗い中で、スクリーンから発せられる光が石動の顔を照らしている。
石動は眉宇に困惑を浮かべている。
多分俺も、同じような表情をしている。
ふいに視線がぶつかり、そのまま見つめ合う。
その戸惑う眼差しから、繋いでいる手の熱さから、石動の存在を感じる。
この時間が永遠に続くかと思われたが――。
うさうさうさ、うさぴょんぴょん~。
そのアホな音楽で、一瞬にして我に返り、俺と石動は同時に視線を逸らした。
大丈夫だと分かっていても、誰か魔法に気付いたかも、と周囲を見回してしまう。
いつの間にか、映画はエンドロールを迎えていた。
シアターを出ると、カレンが、
「楽しかったね」
「嘘つけ。ずっと寝てただろうが」
他の観客達が席を立つ音で、ようやく起きたくせに。
俺もクライマックスは見てないから、あまり偉そうに言えないが。
ちらっと石動を見ると、ちょうどこちらを向いた。
「次は、喫茶店に行きましょう」
リアルの女の子が怖い若者は、無理に好きになる必要はないと思う。




