表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/49

2章 8話 ヒーロー

 風紀委員室でカレンと落ち合い、割り振られたコースのパトロールをしていると、前方に人影が見えた。

 校内で有名な不良の先輩で、時代錯誤な言い方をすれば、番長みたいな存在だ。


 上背があり、筋骨隆々というわけではないが、喧嘩慣れしていそうな体つきをしている。

 骨張った手や、鋭い眼光がより凶悪な印象を与えている。

 それ自体は問題ないが、髪が金色に染められている。さすがに看過できない。


「カレン、ちょっとここにいてくれ」


 不思議そうな顔をするカレンにそう言い残し、不良先輩の前に立った。


「すみません、風紀委員ですけど、ちょっといいですか」


 不良先輩は露骨に不機嫌な表情を見せた。


「なんだよ」

「金髪、校則違反ですよ」

「あ? だからなんだよ」


 威圧的な声色で凄み、立ち去ろうとする。


「待ってください。髪の色、戻してもらっていいですか」


 不良先輩が顔をしかめ、睥睨してくる。


「さっきから何なんだよ、そもそも誰だ、テメーはよ。何様だ、コラ!」

「二年の谷河です。今は風紀委員補佐なんで、金髪は無視できないです」

「年下かよ、黙ってろよ」


 強い力で胸倉を乱暴に掴まれる。

 眉間に皺を寄せた不良先輩の顔は、さすがに迫力がある。


「猛丸!」


 カレンが心配そうな顔で駆け寄ってくる。

 廊下にいる他の生徒も、俺と不良先輩の諍いに気づき始めた。

 腕を振りほどこうとしたそのとき、


「何をしている」


 凛とした声が耳朶を叩いた。

 声がした方向を見ると、美志緒先輩が立っていた。

 先輩は厳しい眼差しで不良先輩を見据え、一直線に向かってきた。


「その頭髪、一度注意をしたはずだが」

「偉そうに。うるせーんだよ」


 不良先輩は俺から荒々しく手を放した。

 美志緒先輩と不良先輩が、至近距離で睨み合う。

 先輩は女性としては長身だが、それでも頭一つ分不良先輩の方が高い。

 割って入ろうとする俺を不良先輩は突き飛ばし、美志緒先輩を高圧的に見下ろす。


「どいつもこいつもうぜーんだよ。女だからって容赦しねーぞ。覚悟しろ、この野郎!」


 大声でまくし立てた後、右腕を振りかぶって殴りかかった。


「美志緒先輩!」


 咄嗟に叫んだ俺が見たのは、美志緒先輩の流れるような華麗な動きだった。

 振り下ろされる不良先輩の右腕を取り、素早く懐に入った。

 その過程で体勢を崩した相手をおんぶするような格好になる。

 不良先輩の足が床から離れ、その体が綺麗な弧を描き、背中から床に叩きつけられた。


 ――完璧な一本背負いだった。


 校内一恐れられている男をいとも簡単に制圧してしまった。

 不良先輩は愕然とした表情で、投げられた形のまま天井を見上げている。

 痛めつけたというより、いなしたという方が正しい。


 風紀委員長が単純に暴力を振るうのでは示しがつかない。

 だから、力で恫喝するのではなく、力の差を見せつけ、抵抗する気を失わされるという行動を取ったのだろう。

 たぶん美志緒先輩の選択は、この状況で最も冴えたやり方なのだ。

 フェンスから落下するミニカレンを助けたときも思ったが、本当にヒーローみたいな人だ。


「頭髪を染め直してくるように。これに懲りたら、校則は守ることだな」


 美志緒先輩は仰向けで横たわる不良先輩にそう言い捨て、俺へ歩み寄ってくる。


「怪我はないか?」

「大丈夫です。ありがとうございました」


 そこにカレンが興奮した様子で、駆け寄ってきた。


「美志緒凄かったね。カッコよかったよ」


 不良先輩を一蹴した美志緒先輩の勇姿に、痛く感激したようだ。


「カレンも無事か?」

「大丈夫だよ。猛丸が待ってろって言ってくれたから。猛丸、ありがとう」

「俺は何も」


 事実として美志緒先輩が不良先輩をやっつけたわけだし。

 俺は胸倉掴まれたり、突き飛ばされたりしただけだ。

皆さん台風大丈夫でしたか?

何事もなく執筆できるということは、本当に幸せを感じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ