2章 7話 大活躍
ミニカレンは大活躍だった。
次々に違反者を取り締まっていく姿は、目を見張るものがある。
人員不足の解消と、ミニカレンの八面六臂の働きにより、校内の風紀は随分良くなっていった。
そして、最終日の放課後を迎えた。
教室の自席にいると、手持ち無沙汰になったミニカレン達が、まとわりついてくる。
体によじ登ってきて、
「ねぇ、ねぇ、あそんでー」
鞄の中からチョコレートを取り出し、功労者であるミニカレンたちに配る。
夢中になってビニールの袋を開け、チョコレートを食べ始める。
ミニカレンは俺の部屋で寝泊まりしている。
何も自発的に託児所にしようとしたわけじゃない。
それは初日の帰路に着こうとしたときに発覚した。
「ミニカレンって、一旦消せたりできないのか?」
「そんな都合の良いことできないよ」
俺の質問を笑い飛ばすカレン。
魔法自体が都合良いのに、変なところで融通が効かない。
ミニカレンの活躍を考えれば、文句など言えるはずもないが。
さすがに学校においていくわけにはいかず、俺達はぞろぞろと集団下校した。
落ち着きのないミニカレン達に目を配らせる俺は、さながら遠足を引率する学校の先生だった。
クロユリ荘に着き、どうするという段になったとき、美志緒先輩がミニカレン達に「誰の部屋に泊まりたい?」と聞くと、一斉に俺の名前を口にした。
俺は、生みの親であるカレンか、崇拝している美志緒先輩の部屋でいいだろと提案したが、声を揃えて「おふたりにはめいわくをかけられませんので」と恭しく言った。
俺には迷惑かけていいのかよ、と怒りが込み上げてきたが、話が進まないので不承不承、許した次第である。
そう言えば、カレンも最近俺の部屋に入り浸っている。
帰宅後すぐ俺の部屋に来て、夕食を食べて自分の部屋に戻っていく感じだ。
もしかすると、カレンとミニカレンは思考も近いのかも知れない。
ミニカレン達は、俺の言うことを何一つ聞かない。
ベッドは占領されるし、浴槽はプールにされるし、冷蔵庫の中は空っぽにされるし、踏んだり蹴ったりだ。
心の中で嘆息し、教室の机の上をビニールのゴミだらけにしているミニカレン達を眺める。
制服の袖を引っ張られた。
見下ろすと、一人のミニカレンがいる。
他のやつらがチョコレートに執心しているのに、こいつだけ興味がなさそうにしている。
俺の弁当を食べたミニカレンだ。
他のやつらと行動パターンが違うので、何となく区別できてしまっている。
無垢な瞳で見上げてくるので、水を向けてやる。
「なんだ? 何かいいたいことでもあるのか?」
「にんげんは、なんのためにうまれてくるの?」
そんな哲学的なことを聞かれても分からん。
教室を出て廊下を歩いていると、ツインのお団子頭が見えた。
「帰るのか?」
「そうだけど。そっちはあれだろ。風紀委員の手伝い」
「知ってたか」
火々野には話してないけど。
火々野は呆れた様子で、
「あんな目立つやつと一緒に行動してたら、嫌でも噂が耳に入ってくるぜ。ただでさえ銀髪が目に入るのに、大声出して校内を徘徊してるんだからよ。しかも、その大声で取り締まりやってんだから、風紀委員の手伝いしてるって分かるし、その隣にいるセンパイも同じようなことしてるって思うだろ」
言われてみれば、そうだな。
「ミニカレンたちが頑張ってくれたからな」
火々野の眉がわずかだが、ぴくっと動いた。
「あのいっぱいいる、小さいやつのことだよな」
「あぁ、ここにいるぞ」
ずっと俺の背中に張り付いて隠れていたミニカレンを掴み、火々野の前にぶら下げた。
火々野が上目遣いでこちらを見てくる。
「ちょっとだけ、触ってみていいか?」
俺に聞かれても分からないので、ミニカレンを見やると、すぐに頷いた。
ミニカレンを差し出すと、火々野は慎重に手に持った。
そして、頬をつついたり、むにむにしたりしている。
無抵抗のミニカレンは、されるがままだ。
火々野はひとしきり堪能すると、
「こいつ、連れて帰っていいか?」
「ダメだと思うぞ」
廊下の向こうからたくさんの足音が聞こえる。
視線を向けると、教室にいたミニカレンが俺達の方に向かってきていた。
「火々野、良かったらあいつらの相手をしてやってくれないか。もう出番がないんだ。だから遊んでやってくれ」
「いいのか?」
嬉しそうにする火々野。
俺は「たけまるー」「あそんでー」と、わらわらと集まってくるミニカレン達に言う。
「今日は火々野が遊んでくれるってよ」
すると、ミニカレン達が「ひびきー」と叫びながら、火々野に一斉に飛びつく。
火々野の体に、ミニカレンが隙間なくくっついたせいで、火々野の姿が見えなくなった。
「むー、むー」
火々野の呻き声のような曇った声が聞こえる。
顔に密集しているミニカレンを剥がしていくと、「ぷはっ」と苦しそうな表情の火々野が現れた。
「じゃあ、任せたから」
俺はそう言い残し、その場を後にした。
「おい! これあたし一人でどうにかなるのか!」
後ろから火々野の声が聞こえたので、一度だけ振り返り叫んだ。
「そいつらは、チョコレートが好きだぞ」
結局、押しかけ振り回し系の話になっている。