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2章 6話 落とし穴大作戦

 カレンの指示に従い、俺達は中庭の一角に移動した。

 中庭は校舎に囲まれた場所で、授業中である現在は人影もなく、とても静かだ。


 良いアイディアとは何だろうと思っていると、静謐とした空気の中、カレンが地面に向かって、手をかざした。

 嫌な予感がしたその直後には、爆音がし、大きな穴が開いていた。


 あれ? 事態を収束させようとすればするほど、墓穴を掘っているような気がする。


「えっと、なにしてるんだ?」

「落とし穴だよ。これでミニカレンを捕まえるんだよ」


 カレンは、あっけらかんとしている。

 そして、開けた穴をどこからか持ってきた新聞紙で覆い、四方にミニカレンが乗れば落下する加減の重りを置く。


 その後、新聞紙が隠れるように砂を被せ、制服のブレザーのポケットからチョコレートを取り出した。

 それを余った新聞紙の上に乗せ、落とし穴の上に設置した。


「こんな古典的な方法で、本当に上手くいくのか?」

「大丈夫だって。こっち来て」


 俺はカレンに連れられ、近くのベンチの後ろに隠れた。

 他に良い案もないし、とりあえずじっと成り行きを見守る。

 しばらくすると、


「あ、ちょこれーとがある!」


 ミニカレン達がわらわらと集まってきた。

 ぱっと見た感じで、十人前後はいる。


「おいしそう!」


 と無邪気に落とし穴の上のチョコレートに寄ってきて、一斉に跳びかかった。


「きゃー」


 ミニカレン達の悲鳴が重なり、落とし穴に落下していく。

 まさに一網打尽だ。


 落とし穴を覗き込むと、ミニカレン達は一様に目を回している。

 隣でカレンが、嬉々として言う。


「大漁だね」


 自分の分身を罠にはめて、その発言はどうだろう。


「捕まえたミニカレンはどうする?」


 俺がそう尋ねると、カレンはこれまたどこかから持ってきたロープでミニカレンを縛った。

 可哀想だが、仕方ない。

 俺達は拘束したミニカレンたちを風紀委員室に運び入れた。


「次、行くよ」


 カレンはミニカレンが密集しているエリアで、落とし穴を作れそうな場所を見つける。

 そして、先程と同じ要領で、ミニカレン達を捕まえることを繰り返した。


「後どれくらい残ってる?」

「もうほんの少しだよ」


 大半のミニカレンを捕獲できたようだ。

 後は散らばっているミニカレンを一人ずつ捕まえていくことにする。


 そのとき、チャイムが鳴り、六時限目が終わった。

 俺達は小一時間、落とし穴に没頭していたことになる。

 なんて有意義なことでしょう。

 ミニカレンを追っていると、石動と会った。


 石動は体操服を着ている。

 上は半袖で、下は赤いブルマだ。

 触れると折れてしまいそうな細い四肢が、陽の光に晒されている。


「こんなところで何してるんですか。女子更衣室の覗きでもするんですか?」

「しねぇよ」

「男子更衣室の方でしたか」


 悠長に駄弁っている場合じゃない。

 ミニカレンを見つけないと、と思っていると石動のすぐ後ろにミニカレンがいた。

 ベンチに腰掛けて、うとうとと体を揺らしている。


 起こさないように、ゆっくりと近付く。

 すると、俺とミニカレンの丁度間にいる石動は、小動物のように警戒心を露わにし、


「何ですか。急に黙って。ち、近寄らないでください」


 大声を出したり、暴れたりしたらミニカレンが起きてしまう。

 俺は小声で、


「静かに。動くな」


 普段のクールな面持ちは姿を消し、石動は涙目になっている。


「そ、それ以上近づいたら通報します」


 一方の俺は、ミニカレンに集中していた。

 あと少し。

 もうちょっとで、手が届く。


 ここぞという距離で、一気に両手を伸ばした。

 そして、俺はミニカレンを捕まえることに成功した。

 安堵のため息をつくと、下の方から何か聞こえる。


「やめてください……」


 見ると、石動が膝を抱えて、矮躯を震わせていた。


「あ、悪い。もう大丈夫だから」


 俺が謝っていると、カレンが拘束したミニカレンを引きずってやって来た。


「猛丸も捕まえたんだね。あっちにいる子で最後だよ」


 石動にもう一度「悪かったな」と謝罪し、最後のミニカレンがいるという方に向かった。

 最後の一人は、学校の敷地を囲う高いフェンスの上にいた。

 俺とカレンに気づくと、揶揄するように笑いながら、逃げていってしまう。


「私に任せて」


 カレンがいつの間にか持っていた箒に跨がっている。

 なるほど。

 俺も二人を見上げながら、追いかける。


 カレンはあっという間にミニカレンに接近した。

 手を伸ばしたとき、それを察知したミニカレンがぴょんっとジャンプした。

 すごい跳躍力だ。


 ミニカレンは捕獲を免れたが、着地のときにフェンスから足を踏み外してしまった。

 金切り声を上げながら落ちていく。

 このままじゃ地面に叩きつけられてしまう。


 俺の位置からでは間に合わない。

 カレンも懸命に助けようとするが、届きそうにない。


 ミニカレンが地面と衝突する瞬間、俺は目を閉じた。

 間もなくして、ゆっくり目を開けると、美志緒先輩がミニカレンを抱えて立っていた。

 先輩は腕の中のミニカレンの頭を撫でる。


「危ないところだったな」


 俺とカレン、そして美志緒先輩は風紀委員室に場所を移した。

 先輩に事情を説明し終えると、先輩が助けたミニカレンが近寄ってきた。


「いっしょー、ついていきます」


 他のミニカレンも大きく頷いている。

 先輩の勇姿が知れ渡っているようだ。


 美志緒先輩は快活に叫ぶ。


「一同、整列!」


 先輩の掛け声に、ミニカレン達は統率された動作で見事に整列した。

 美志緒先輩は整然と並んだ様子を眺め、「頼もしいな」と満足そうに微笑んだ。

台風怖い。

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