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僕はアパートの入り口に立った。
梶谷瀬斗・306号室と書かれたプレートを見る。
僕だけの名前が書かれている表札。妙な感じが募るが、僕は首を振って気持ちを変えた。
引越しやさんが行ったり来たりしている横で、僕も部屋に入った。
小さめだけど、一人なら十分のスペースがある。
僕は心からおじさんに感謝した。
いつか、恩返ししなきゃな、なんて考えながら窓の外を見る。
500メートルぐらい先に学校が見えた。
僕は強く脈打ち始める心臓を落ち着けると、もう一度学校を見た。
ちゃんと通うんだ。
それがおじさんとの約束だし、両親の望んでいたことだから。
それに、学校で自分自身が見つかるかもしれないし。
それでも、心臓のどきどきは止まらなかった。
僕は、はぁ、と大きく息を吐いた。
「今日はみんなに新しい仲間が出来ました、梶谷瀬斗君です」
先生が僕のことをありきたりの言葉で紹介した。
僕は一歩前に出ると、
「梶谷瀬斗です。これからよろしくお願いします」
といって、一礼した。
新しいクラスメイトは僕のことを勝手に評価している。
そんな言葉にお構いなく、僕は先生の指定した机に座った。
転校生がよく座る、窓際の一番後ろだ。
僕はそれから先生がぐちゃぐちゃ言っていたのはまったく聞かず、クラスメイトの視線を感じながら黒板を見ていた。
「梶谷瀬斗」
と大きく書かれている。
ふと、父さんと母さん、それに泰葉の顔が浮かんできた。
僕はあわてて首を振って、気持ちを切り替える。
ここは学校だ。
家族は関係ないさ。
自分自身にそう言い聞かせて、教室を見渡した。
前にいた学校より、みんな騒いでいる。
ただ「明るい」という言葉だけでは表せないような雰囲気。
僕は自分が自然に微笑んでいるのに気づかなかった。




