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三周年記念 蛍火祭り

「…………ほたるび……まつり…?」



今日のおやつのチョコクッキー片手に、トレーネがきょとんと目を丸くした。

最初はアイトさんが同席していたトレーネのお茶会は俺の役目になり、最近ではトレーネの気まぐれで手の空いた使用人達を集める事もある。



「あら、トレーネ様はご存知なかったのですか?」


「うん、知らなーい。里ではやってなかったよ」


「毎年行われるのですけど……あっ!!去年は確か!!」


「聖女様がいらしててバタバタしてました…ね……」


「すっかり忘れてました……」



何人かの落ち込んだ様子にオロオロしてるけど……ごめん、トレーネ。ソレ、大人達がトレーネの反応で遊んでるだけって知ってるけど黙っとくね。



「蛍火祭りは元々、鎮魂のお祭りだったそうです。大きな焚き火の周りで厳かに食事をするだけでしたが、いつしか願い事を天に捧げるお祭りになったとか」


「屋台が出ますし、旅芸人も彼方此方に居てとても賑やかなんですよ」


「へぇー」


「家令、トレーネ様にも準備される予定ですか?」


「えぇ。陛下から皆にも配るように、と」


「わぁっ。楽しみですね、トレーネ様」



チョコクッキーを食べながら蛍火祭りについて話を聞いては目をキラキラさせてるトレーネを横目に、アイトさんと家令がこそこそ話をしているのが視界の端に見える。

大人げない大人達が本気出すんですねオメデトウゴザイマス。











「コレが蛍火?」


「昔の魔道師だか魔術師だかが開発したらしいよ」



テーブルに並べられた蛍火から視線が外れないトレーネに小さく笑いつつ、年々増えてる気がするな……と思いながらトレーネの為の蛍火を選ぶ。


魔道師のような杖タイプだったり、ただのアクセサリーに見える指輪タイプだったり、様々な形状の蛍火を眺めていると見覚えのある形を見つけて思わず手に取った。



トレーネが握り込めるくらいの、小さなカードを2つ折りにしたようなソレは蛍火だと言われなければ分からないだろう。



膝をついてカードを開き、少し悩んでポケットの縁を挟むように引っ掛ける。するとカードから顔の半分程の大きさの蛍火が出てきて本物の蛍のようにトレーネの周りを飛びながらフワリ、フワリと光っては消える。


楽しそうに蛍火を目で追ったトレーネは急に走り出して壁際に控えた使用人の1人に抱き付き、ゆったりと追い掛けてくる蛍火にキャーキャー笑いながら走って戻って来た。

俺も小さい頃にやったなぁ。何処まで着いてくるのか走り回って実験したくなるよねー、分かる。



……でもね



「今から走り回ってると夜までに疲れるぞ」


「夜のお祭りなの?」


「そう。この蛍火に願い事を託して空に飛ばすんだ。凄く綺麗なんだよ」


「たのしそう!」



幼子らしく笑うトレーネの頭を撫でると、まるで自分も撫でろと言うように蛍火が俺の手にまとわりついてくる。

蛍火に意思があるなんて話は聞いた事無いけど……、と思わずアイトさんを見た俺は悪くないと思う。















「蛍火まんじゅう、出来立てだよー」


「蛍火焼き、蛍火焼きはいかがー?」



夕方になってから街に来ると、大通りの彼方此方から売り子の声が聞こえてくる。少し歩いただけでもまんじゅうや焼き菓子、匂袋から布まで様々な商品が露店で売られている。



いつものローブにフードを目深に被っているからトレーネの顔は見えないけど、多分また目をキラキラさせてるんだろうなーと思いながら近くの露店で果物飴を1つ買って持たせてやると夢中になって舐めた。


こういう所は“普通の子供”っぽくて可愛いと思う。







暫くうろうろ歩き回って露店で買い物をして、神殿に行くと既に軽い人集りが出来ていて慌ててトレーネに声を掛けながら駆け寄る。


人集りは神殿の少し手前から出来ていて、階段の上にはイデー大神官様や神官達と一緒に子供達が時間を待っている。

よく見ると孤児院の子達も居るらしく、皆焼き菓子や果物飴を食べていた。



「さ、トレーネも上に行っておいで」


「えっ?」


「時間になったらイデー大神官様が合図してくれるから、蛍火を持って、心の中で願い事を言いながら空に放つだけだよ」


「う、うん、わかった」



少し不安そうなトレーネの背中を押すと階段を上って来る姿に気付いたようで、孤児院の子達がわいわい騒ぎながらトレーネを出迎えた。

世話を焼きたい子がこの後の流れをペラペラ話すのを聞いているうちに、イデー大神官様が片手を上げると辺りが静まり返る。



「さて、今年も蛍火祭りも迎えられた事を喜ばしく思う。皆ご苦労。……とまぁ、堅苦しい挨拶はこのくらいにして、願いを空に託そう」



イデー大神官様の合図で蛍火を一斉に空に放つ。ふわりふわりと柔らかな光が少しずつ大きな流れの一部となり、夜空に消えていく光景は何度見ても美しい。


今頃は城でも陛下が貴族達を集めて蛍火を飛ばしている筈だ。





トレーネは……、と視線を向けた先に居た少年は子供達に話し掛けられているにも関わらず、ただただ空を見上げていた。


彼が何を蛍火に託したのか、俺は知らないけれど、きっとあの光りのように優しい願いだろうと思う。

いつもありがとうございます。


タイキ様リクエストの《夏祭りか花火》でした。



なんとなく語感イメージは送り火から。映像イメージは某海外アニメの塔に監禁された髪の長い少女のアレです(これで分かったらスゲェわ…)



今後の予定ですが、いっそ延期してた例のシリーズやっちまおうかなーと思ってたのですが別のシリーズやります。ただ、見切り発車上等なのでまた月1投稿が難しいかも知れませんがよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れ様です\(^_^)/ リクエスト、ありがとうございますm(_ _)m トレーネの子供らしく蛍火祭りを楽しむ姿に癒されました(o´艸`o)♪ トレーネは何を思い、空を見上げていたの…
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