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13 あなたしか見えない 後編

後半まるっと書き直しました。

ごたごたしてしまって本当に申し訳ありません。



これでちょっとは恋愛成分が入ったかと思われます。

「おはようございます、聖女様」



動揺した様子が一切ないロイエが開いたままの扉を支えてヴィックを中へと招く。その後ろ姿を眺めていたトレーネはゴクリと生唾を飲み込み、震える唇で言葉を紡ぐ。



「ロイエ…………もしかして…」


「会うのも話すのも嫌じゃないんでしょ?なら俺が警戒する意味無いよね?」


「……ロイエ……」



何が、とは言わなかったものの通じてしまった会話に一瞬裏切られたと思ってしまったが、よくよく考えれば間違ったのはトレーネの方だった。


昨日確かに会うのも話すのも嫌ではないと言った。そして視線の先に居るのが、何よりもトレーネを優先し、トレーネが白と言えば黒だとしても白と言い張るような男だったと思い出した。

ロイエの中には《トレーネが危険でないなら》とか《トレーネが嫌がっていないなら》だとかの判断基準が存在する可能性に今更気付いてしまい、トレーネは額に手を当てて呆れたように息を吐きながらも口元は緩んでいた。



「お姉さん、どうぞ。ちゃんと説明するよ」


「トレーネ君……」



グラーニエを呼んで2人を部屋に入れ、“沈黙の民”である事やグランツに保護された事等をざっくりと話し、知らせたくない事以外の質問をいくつか答えた。



「起きてご飯をたべたらゼクスさん……庭師さんの手伝いをして、お昼からは街に行ったり本をよんだり…かな?」


「……トレーネ君」


「ん?」


「もう隠してる事ない?わたし達、仲良くなれる?」


「あるけど……うん。俺もお姉さんと仲良くなりたいな」


「よかったー!!ねぇ、トレーネ君は何かしたい事はある?わたしね、また一緒にお菓子を作りたいし街にも行ってみたいし、あっ!!庭師さんの手伝い?わたしもやりたいわ!!」


「やりたい事……えっと、俺……よく、分からないんだ。何でもやっていいって言われたの、陛下がはじめてだから…」



気まずそうに苦笑いを浮かべたトレーネに、ヴィックはぱちぱちと数回瞬きをするとゆっくり息を吸って明るい声で話し始める。



「わたし、やりたい事があるの。すごくすごくやりたい事」


「やりたい、事?」


「わたしね、恋がしたいの。最初で最後でいいから、とびっきり素敵な恋をしたいの!!だって初恋もまだなのに聖女様なんかに選ばれちゃったのよ、神様の花嫁になる前に恋したっていいじゃない?」


「あ、えっ…?」


「ふふっ、びっくりさせちゃった?でもわたしには、どうしてやりたい事なのよ。あっ、陛下にはナイショよ?」


「…………お姉さん」


「はい?」


「俺にもあった、やりたい事。手伝ってくれる?」


「もちろんよ」



話をする為におあずけになっていた朝食をとってゼクス宛てに今日の手伝いは午後になるとロイエを使いに出して厨房が片付くのを待ち、トレーネとヴィック、グラーニエと戻ってきたロイエの4人で厨房に移動する。



「リョーリチョー、おねがいがあるの」


「はい、トレーネ様」


「あのね、お姉さんとまたお菓子作りたいの。リョーリチョーのスコーン、好きだから……えっと……ダメ?むずかしい?」


「いいえ、大歓迎ですとも!!少々お待ちください」


「うん!」



料理人達が器具や材料を準備している間トレーネ達は邪魔にならないように入り口の辺りで待ち、料理長に教えてもらいながら皆でスコーンを作った。

気付いた時には失敗した時用にと多めに用意されていた材料を全て焼き上げており、屋敷内で消費するには多すぎる量に声を上げて笑った。



午後からはソワソワしていたヴィックも誘ってゼクスの手伝いをして過ごしお茶の時間になると午前中に作ったスコーンを食べ、翌日も残っていた分は大きめのカゴいっぱいに詰め込んで神殿に持って行く事にした。



「カゴは私が持つから、ヴィックはトレーネ様と手をつないでてちょうだい」


「はぁい」


「重いので私が持ちます」


「あら、ありがとうございますロイエ様。ですが……」



一度言葉を切ってロイエへと身体を寄せたグラーニエは、ヴィックとトレーネに聞こえないように小さな声で問い掛ける。



「トレーネ様の護衛である筈のロイエ様の両手を使えなくしてしまっては、いざという時に護れないのでは?」



身体を離したグラーニエがクスクスと小さく笑いながら改めてカゴを持つ。カゴの中にはスコーンの他にも孤児院には在庫が少ないであろうジャムやクロテッドクリームのビンもある為、ロイエの言う通りとても重い。


重い物を女性に持たせてしまう事もだが、何よりも護衛としての自覚が足りなかった事実に落ち込みながら深く頭を下げた。



「私が持ちますね」


「……申し訳ありません、よろしくお願いします」


「先程の内容としては失格ですが、男性としては素敵でしたよ」


「精進します…」



普段トレーネとロイエが神殿へ行く時は徒歩だが、流石に荷物を持った女性を歩かせるのは気が引ける為アイトに馬車を手配してもらった。

神殿へは何事も無く到着し、顔見知りとなった門番達に挨拶をして中へ入る。


手を繋いだままどんどん奥へと進むトレーネに戸惑いながらも後を着いて歩いていたヴィックは、廊下の奥に見えた人影に思わず足を止めた。



「いらっしゃいトレーネ、ロイエ。そしてようこそ、当代の聖女様」


「大神官様!」


「はじめまして。ヴィックでいいわ」


「そう?じゃあヴィック、ゆっくりしていきな」


「俺コジインの子達のトコ行くけど、お姉さん達は?」


「儀式の事で聞きたい話があるから後でいいわ」


「じゃあロイエ、よろしくね」


「気を付けて」



ロイエをその場に残して大きく手を振りながら駆け出していったトレーネはあっという間に姿が見えなくなった。残されたヴィック達はイデーの部屋に移動し、グラーニエが持って来たカゴは神官に預けてある。


奥の扉から出てきた女性がテーブルに2人分の紅茶とお茶菓子を並べる。トレーネの護衛であるロイエはもちろん、ヴィックの世話係りとして付き添っているグラーニエも傍らに立ったまま、いくつか儀式についての確認をする。



「ねぇ、イデー大神官様……その……本人が居ないのにこういう事聞くの嫌なんだけど、トレーネ君ってどういう子?」


「んー?……あぁ、そっか。トレーネが“沈黙の民”らしくなくて戸惑ってんのか」



紅茶を飲みながらヴィックの居る方へ顔を向けたイデーはケラケラ笑ってカップをテーブルに戻す。ヴィックは能力で知ったのだろうイデーの指摘にぐっと息を飲んで両手を握り締め、少し視線を落としつつも続く言葉を待った。



「トレーネはねぇ、ある意味ではヴィックと同じだ。神様に気に入られて、わざわざ選んでおきながら、その神様にどうこうする力なんて無い。とても可哀想で、とても幸運な子だと思うぜ」


「幸運?」


「トレーネがグランツに保護されたってのは聞いたか?」


「えぇ、少しだけ」


「ある事を“沈黙の民”が計画してて滅ぼされたんだけどさ、その計画を知られさえしなければ“沈黙の民”と国は戦争を引き起こす事態になってたんだよ。何人死ぬかも分からなかった筈の戦争が一族の殲滅で済んで、孤独しか知らなかったトレーネは保護された」


「……なるほど。確かに幸運と呼べるかも知れないわね…」


「俺に話を聞くよりも自分で見た方が早いんじゃないか?グランツの屋敷で暮らしてんだろ?」


「…………」


「俺が知ってるあの子はただの子供だよ。親の愛情や親しい友人、気ままに遊んで過ごす筈だった無邪気な時間を奪われただけの小さな小さな子供だ。そしてヴィック、お前もな。君に神のご加護がありますように」



そう言って目隠しの包帯越しに、イデーは柔らかく微笑んだ。







**********







屋敷から明かりが消え、周囲は闇に包まれて細い線のような月が薄ぼんやりと周囲を照らす中、ヴィックはレース編みのショールを羽織って部屋を抜け出した。



明日はいよいよ儀式の日。

早朝から準備で城へ行かなければイケない為、本来なら早く寝るべきなのだが目が()えてしまった。


見つからないようにこっそりと屋敷から出て中庭に設置されているベンチに座り、深くため息をつきながら身体の力を抜く。



「お姉さん、ねれないの?」


「っ…………トレーネ、君……」



不意に声を掛けられて思わず身体が飛び跳ね、誰も居ないと思っていた正面に(たたず)むトレーネを見つめる。


周囲が満足に見渡せぬ程の僅かな明るさしか無いにも関わらず、その特徴的な白銀の髪はキラキラと光を集めていた。まるで現実ではないような幻想的な光景に、自分が都合良く作り出した幻じゃないかと錯覚する。



「トレーネ君こそ、寝ないの?」


「もうちょっとしたらね。お姉さんは?明日はギシキじゃないの?」


「…………ん……」



トレーネに問い掛けに、ヴィックは曖昧に微笑んで俯いた。トレーネは周囲を見渡して椅子を見つけるとヴィックの正面に移動させて座り、ぶらぶらと足を揺らしながら彼女が落ち着くのを待つ。


ふと顔を上げたヴィックは少し気まずそうに口をもごもごと動かし、少しして覚悟を決め両手を握り締めながら口を開いた。



「そういえば、トレーネ君に謝らなきゃイケない事があるの」


「なに?」


「イデー大神官様に、トレーネ君ってどういう子?って聞いちゃった。ごめんなさい」


「えっ?なんで謝るの?」


「嫌じゃない?自分の居ない所で勝手にアレコレ話をされるの」


「だって俺、コレだもん。俺の一族が何をしてきたか知ってるし、今さらイヤじゃないよ」



そう言ってトレーネが軽く頭を振ると、キラキラと輝く髪が軽やかに踊る。“沈黙の民”という名前は、その特徴的な髪色と共に国中で知られている。

この国で生まれた子供は全員《白銀の髪に出会ってしまったら死ぬ覚悟をしなさい》と親から言われて育つ。逃げても無駄だと、男も女も大人も子供も関係なく殺されてしまうという噂のどれ程が本物だろうと、目の前の子供と接する度に思うのはヴィックだけではないだろう。



「トレーネ君は強いね」


「そんな事ないよ」


「力じゃなくて、心の話。トレーネ君くらい強かったら……ちゃんと諦める事が出来たのかな…」


「諦めなきゃダメなの?」


「……うん」


「お姉さんはどうしたい?」


「わたし?……わたしは……」


「なんでもいいよ、やりたい事」


「…………もっと、いろんな事がしたかったわ。旅行にだって行ってみたかったし、勉強だって、結婚だって…………やってみたい事だらけよ…」


「なら、俺がつれて逃げてあげようか?」


「えっ……?」


「俺ね、魔力だけはいっぱいあるの。お姉さんを逃がすくらい、カンタンだよ?お姉さんがギシキをしなきゃ国がほろぶなら、一緒に遠いトコロに行こう」



無邪気な声で話すトレーネはピョンと椅子から軽く飛び降りて片手を差し出した。明日には“聖女”として儀式をしなければイケないヴィックにその手はとても魅力的で、おそらくトレーネならば手を取ればヴィックを逃がす事くらい出来るだろうとも思う。


暫く考え込んでいたヴィックはゆっくりと手を伸ばし、差し出された手首に触れてそっと押し返す。



「ごめんなさい。わたしは決めたのよ、逃げないって。……そうよ……決めたのよ、自分で。最後まで聖女として胸を張って儀式をしようって決めたのはわたしよ」


「大丈夫?」


「えぇ、もう大丈夫」


「ロイエ」


「はい」


「お姉さんをお部屋におくってあげて」


「かしこまりました」


「トレーネ君、本当にありがとう。もう逃げたいなんて思わないわ」


「おやすみなさい。また明日」


「えぇ、おやすみ」



いつから居たのか、もしかしたらトレーネが姿を見せた時には既に居たのかも知れないロイエにエスコートされて部屋に戻る。


抜け出す時は果てがないように見えた廊下は同じくらい真っ暗ではあったものの、もう息苦しくなかった。



いつも閲覧、評価ありがとうございます。



結局納得出来なくてスルッと飛ばしてしまった辺りを書き直しました。おかげで中途半端な事をしてしまい更新がぐちゃぐちゃになってしまった事、心から謝罪します。

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