11 あなたしか見えない 前編
大変遅くなってすみませんでした。
しかも、まだ続きます本当にすみません。
「最近のトレーネはどうだ?」
「屋敷に来た頃から思えば落ち着きましたよ。ただ、レンが旅立ってしまったので少し落ち込んでいるみたいですね」
「そうか。以前言っていたアレは出来そうか?」
「……僕達は構いませんけど、本当にいいんですか?来月から聖女様がいらっしゃる時期に許可しては、トレーネ君に悪影響だと思うんですけど」
「あっ!!」
「また忘れてたんですね……屋敷の調整は既に出来ています」
「すまない。関心が薄い事柄だと、どうも頭から抜け落ちるみたいだ」
「仮にも皇帝なんですから抜け落ちないように努力してください」
「私の周りには支えてくれる者達が居る、問題ない」
「ようこそ、聖女様。歓迎しよう」
「…………」
「今日から2ヶ月、儀式の準備を進めながら此方に滞在して頂く。不満に思う事や足りないモノがあれば遠慮なく言ってほしい」
「…………わたし、育ちがよかった訳じゃないから気取った話し方は出来ないんだけど…」
「構わない」
「そう?良かった。わたし聖女様なんてなりたくなかった、天啓があった時は夜通し泣く程絶望したわ。まぁ、2ヶ月後に儀式ってなったら流石に諦めたけど。そりゃあ小さい頃は憧れてたけど、聖女様がどんな存在か知っちゃったもの。神様なんて大キライよ。わたし……やりたい事があるの。最初で最後でいいから、すごくすごくやりたい事が…」
「ちょっと、ヴィック!!」
「だってお姉ちゃん、聖女様は……」
「だからって皇帝陛下に申し上げる事ではないでしょ!?」
「いや、私が許可を出したのだ。気にするな」
「申し訳ありません」
「それで?わたしはお城に居ればいいの?」
「私の屋敷にも部屋を準備してある。ただ、屋敷には幼い子供が居るので少し騒がしいかも知れない。静かな方が良ければ城に用意した部屋へ案内しよう」
「子供?小さい子が居るの?陛下のお子さん?」
「いや、保護しているだけで私の子供ではない」
「そう…………お屋敷がいいわ」
**************
その日は、いつも通りの日だと思っていた。トレーネが起きた頃にはグランツは既に城で仕事を始めていて、朝食の後は庭師のゼクスの手伝いをして過ごしていた。
昼食後ロイエと一緒に図書室で読書をしようか街に行こうかと話しているとアイトに呼ばれて移動してみれば玄関ホールに居たのは城で仕事をしている筈のグランツと、アイトと年の近い少女が2人、そして彼女達の護衛らしき数人の近衛だった。
最も幼い少女の髪は淡いピンク色から毛先に向かって色が濃くなる、トレーネが見た事のない髪色をしていた。その髪色の珍しさもあったが肩下で切り揃えられた髪が、彼女が動く度に柔らかく舞う様子に目を奪われた。
じっと見ていたトレーネの視線に気付いたのか少女はキョロキョロと周囲を見渡し、そしてゆっくりと振り返った。
「トレーネ、紹介しよう。今年の聖女様のヴィック嬢だ」
「ヴィックでいいわ、お嬢様じゃないもの」
「っ、えっと……その……」
小さく息を飲み反射的にアイトの後ろに隠れたトレーネは困ったように眉を下げて視線を泳がせる。
使用人達が普通の子供として接してくれるのに甘えて屋敷ではローブを着ていない為、“沈黙の民”の証である白銀の髪は晒されている。
彼女達が何故屋敷に連れて来られたのか分からないものの、世間的に“沈黙の民”がどういう存在か知っているトレーネが思わず隠れてしまったのも仕方ない。
「申し訳ありません、遅くなりました」
「っ、ロイエ!」
不意に聞こえた声と共に視界が暗くなり、思わず顔を上げるとお出掛け用のローブを持って来たロイエがフードを被せた所だった。
急いでローブを着せてもらい、いつもより目深にフードを被ってから恐る恐るアイトの背後から顔を出す。
「ヴィック、あの子供が私が保護しているトレーネだ」
「ヴィックよ。イデー大神官様と同じ12才よ、よろしくね」
「そして、ヴィックの姉君の…」
「グラーニエと申します、トレーネ様。儀式の日までヴィックの世話係りとして滞在させて頂きます、よろしくお願い致します」
「……トレーネ、です……よろしく…」
「トレーネは少し人見知り……というか、人間嫌いな所がある。慣れるまで逃げるかも知れないが、仲良くしてやってくれ」
「はい」
「あの…………セイジョ様、って…?」
「あぁ、トレーネは聖女様を知らなかったか。そうだな……少し長い話になる。今の季節なら南の東屋が見頃だろうから移動しようか」
出迎えに出ていた家令にいくつか指示を出したグランツはくるりと振り返ってトレーネに手を差し出し、一瞬きょとんと目を丸くしたものの小さく笑って駆け寄ると手を握る。
トレーネの手を引いて歩くアイトとロイエを羨ましがっていると、旅に出る前にヘルへーレンがこっそり教えてくれた。
池の中の東屋へ移動する為に玄関先で近衛達とすれ違う際、トレーネに対して一瞬だけ怯えた気配を見せた彼等から視線を逸らして俯くと、グランツの手をぎゅっと握り直す。
「わぁ、すごくキレイ!!」
「ありがとう。優秀な庭師が居てくれて助かっているよ」
屋敷の周辺は皇帝であるグランツがいつ使いたいと言い出してもいいように、ゼクスが丁寧に手入れして最高の状態を保っている。
以前トレーネとグランツ、アイトの3人がお茶会をした頃とは花の時期が変わり植え替えをした為、随分と様子が違っていた。
以前ゼクスは写真付きの候補リストを大量に持ち込み、どういう庭がいいか考えてみろとトレーネに言い出した事があった。その時の希望は全てではないものの、ゼクスが調整を頑張ってくれたおかげで約7割が採用された。
ちなみに、ウンウン唸る程に悩んでいたものの楽しんでいた、というのはアイト談である。
「グラーニエも座ってくれ、給仕は使用人達に任せるといい」
「では、お言葉に甘えて」
「グランツ様はストレート、トレーネ君はミルクティーでいいですか?」
「アイトのミルクティー久しぶり!」
「最近はロイエ君がいれてましたからね。お2人はどうしますか?」
「わたしもミルクティーがいいわ」
「私も妹と同じモノを」
「少々お待ちください」
アイトが紅茶をいれている間に数人の使用人達がテーブルをセッティングする。
東屋へ行くには足元に石を並べた程度の橋しか無く、キャスター部分が引っ掛かってしまう為カートは使えない。池の手前に置いたカートからトレイに移して東屋へ運んでいる為少し時間が掛かり、用意が出来た頃に丁度アイトが紅茶をいれ終えた。
グランツ達は紅茶を飲みながら、ちらりと同じ方へと視線を向ける。
昼食からあまり時間が経っていない為たいしてお腹がすいていない事もあり、出された軽いお茶菓子をちまちまと少しずつ口に運んでは頬を緩めるトレーネを微笑ましそうに眺めていた。
「さて、何の話だったかな」
「あ、そうだった。セイジョ様って?」
「聖女様というのは……数十年に1人、天啓を受けた女性の事だ。前回は、確か……17年前だったか?」
「はい、合ってます」
「その女性が天啓を受けると、近くの神殿に保護されて約3年の聖女教育を受ける。正確には2年と10ヶ月だな。その後2ヶ月は城内で心穏やかに過ごしてもらい、2ヶ月後に儀式を行う」
「儀式?」
「あー…………その……」
「聖女は神の花嫁なの。神に身を捧げ、国の為に祈るのよ。天啓を受けた聖女が儀式を行わない場合は国が滅ぶらしいわ」
「お姉さん、すごいね。あ、セイジョ様って呼ばなきゃダメかな」
「そのお姉さんっていうの、なんかいいわね。下に弟も妹も居なかったから、いつも言う方だったもの。えっと……トレーネ君、だったかしら?君さえ良ければお姉さんって呼んで」
「えっと……お姉、さん?」
慣れない呼び方に戸惑いながらもたどたどしく口にするトレーネを見つめ、ヴィックは花咲くようにふわりと笑って頷く。
小さく息を飲み落ち着かない様子で視線を下げたトレーネの反応に首を傾げ、体調でも悪いのかと心配になったヴィックが席を立って近付こうとすると、護衛をしていた近衛の1人がヴィックを護るように間に割って入った。
「ちょっと、どいてちょうだい」
「聖女様、その子供に近付かないようにお願いします」
「……こんな小さな子供に対して失礼じゃない?」
「見た目に惑わされないでください。この子供は危険です」
「…………」
「…………」
お互いに引く気のない近衛とヴィックが睨み合い、暫くして深くため息をついたヴィックに一瞬安堵の表情を浮かべた近衛だったが、クッと顔を上げて背筋を伸ばした彼女の堂々とした姿に思わず怯んでしまった。
「貴方達、わたしのスケジュールは分かるわね?」
「は?あ、はい」
「ならいいわ、貴方達は必要ないから下がってちょうだい。1週間後の式典だけ護衛してくれたらいいから」
「そんな訳にはいきません」
「いい?わたしは聖女よ。誰がわたしを害せると言うの?」
「しかし……」
「貴方達は必要ないわ、帰ってちょうだい」
近衛といえども皇帝と同等の立場として扱われる聖女に勝てる訳がなく、渋々ではあるが全員城の方へと帰って行った。
閲覧ありがとうございました。
この姉妹の名前は花の名前を使ってます。
ヴィック:スイートピー
花言葉:門出・別離・ほのかな喜び・優しい思い出
グラーニエ:ゼラニウム
花言葉:君ありて幸福
ついでに一周年記念の女の子。
カメーリエ:椿
花言葉:控えめな素晴らしさ・気取らない優美さ
【追記】
祝!!初めての!!!!感想!!!!!!
ありがとうございます本当にありがとうございます亀更新ですんません!!
わりと本気で泣いたのは内緒やで?ww




