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10 ロイエ・アオフガーベ





いつからこんな事になっていたのか、俺は知らない。

いつの間にか売られ、いつの間にか買われ、またいつの間にか売られるのを繰り返してきた事だけは覚えている。



ある時は子供が居ない老夫婦に買われた。年老いた身体で出来なくなった作業をさせる為に買われた俺を、本当の孫のように扱ってくれた。とてもとても、とても優しい人達だった。

老夫婦は強盗に殺され、俺は再び商人に買われた。大好きだった老夫婦に、感謝も好意も告げる事は許されなかった。



ある時は若い夫婦に買われた。産まれた子供の世話で母親に出来なくなった家事をする為に買われた。とてもとても、とても仲のいい家族だった。

母親が買い物帰りに強姦されて精神を壊し、夫婦は離婚して俺は再び商人に買われた。最後にはギスギスしていた夫婦が再び笑える日を、俺は祈っていた。



例外は無く、行く先々で俺が好きになった人達は不幸な末路を辿った。時には人が死に、時には家庭が崩壊した。

最初の方は買われる努力をしたが、次第に買われないように願い始めた。俺はもう、誰も不幸にしたくない。


いつしか心を闇が巣食った。





「俺は彼がいい」





初めてだった。

俺がいいと言ってくれた人は初めてだった。


それが俺よりも小さな子供でも、誰かに必要とされるのは嬉しかった。しかし、それと同時に彼を不幸にしてしまう可能性に恐怖した。



……初めて、だった。





「僕はアイト・ゼーンズフトです。君にまずしてもらいたいのは、トレーネ君を最優先する事です。その他の仕事は、暇な時間に少しだけ手伝ってくれる程度で結構です。あくまでも、トレーネ君が最優先ですから」





この子のローブや持ち物が高そうなモノだと、装飾品に詳しくない俺でも分かった。

しかし、あんな小さな子供が城に住んでいるだなんて、あの場の誰が想像しただろう。





「はい」


「それから、近日中に護身術を身につけてもらいます。トレーネ君は街にも行きますから、護れない者は要りません」


「はい」


「あとは、立ち振舞いを。今は屋敷の周囲の小さな世界で生活していますが、今後も公式の場に出ないとは断言出来ませんから。とりあえずは必要最低限で構いません、残りは少しずつ覚えてください」


「かしこまりました」


「言っておきますが、ロイエ君に攻撃の仕方を教えるつもりは今のところありません。君に教えるのは攻撃の避け方と、逃げ方です」


「何故ですか?」


「君の最優先はトレーネ君の身の安全だからですよ。極端に言えば、彼が無事であればロイエ君が怪我をしようと死亡しようと問題ありません。それが主従であり、ロイエ君に求める、トレーネ君との関わり方です」


「……かしこまりました」


「とはいえ、ロイエ君が思っているよりも遥かに高度な技術を要求します。トレーネ君から危ない事はしないようにと言われましたが手を抜くつもりはありません。もしかしたら死にたくなるかも知れませんし、生半可な覚悟で訓練していると判断したら殺すつもりです。やめておきますか?」


「いえ、お願いします」


「はい、お願いされました」





その子は、屋敷の誰からも愛されていた。国内では幼子でも知っている、残虐非道な“沈黙の民”の筈なのに愛されていた。


屋敷に来た当初は全く理解出来なかったが、少しずつ分かるようになってきた。


数十年、もしかしたら数百年を生きた筈の少年は《愛される》という事を知らない。当たり前に親が教えていた筈の感情を知らない。


その事に気付いた時、“沈黙の民”に対して俺が(いだ)いたのは嫌悪感だった。





『ちょっと待って、ロイエ。あのね、ケイゴいらないからね。俺エライ人じゃないから、普通にお話しして?』


『しかし……』


『じゃあ、“メイレイ”です。ケイゴは禁止、ね?』


『……かしこまりました。これからよろしくね、トレーネ』


『うん、よろしく!』





……………たく……い……


この子だけは、殺したくない!!



おそらく俺よりも上だろう年齢に合わない幼い容姿、腕を引っ張る小さな手、長という立場を強いられた壮絶な過去、不老長寿故の孤独。話を聞けば聞く程トレーネに()かれていった。



殺したくない。

殺したくない。



俺の傍に居れば必ず不幸になる。

しかし俺はトレーネに買われた奴隷であり、自ら命を()つ事は許されない。



殺したくない。







殺したくない(コワシタクナイ)













「どうか…………どうか、俺を処分してください。どうか……」



地面に額を擦り付けるように深く頭を下げるロイエを見下ろし、ゆっくりと開いた口が言葉を紡ぐ事は無かった。



「……ロイエ、は……“コレ”が何かわかるでしょ?」



たっぷり時間を掛けて聞こえてきた声にロイエが顔を上げるとトレーネは街から戻ったばかりで被ったままだったフードを肩に落とし、軽く頭を振ると特徴的な色の髪がふわりと踊った。



「……はい」


「“ちんもくの民”は力を求めすぎた、そして国にほろぼされた。これより、ワルい事なんてないよ」


「ですが!!」


「ねぇ、ロイエ。1つだけ、いい?」


「はい」


「ショブンしてって事は、俺を殺したくないって事でいい?」


「…………はい」


「なら、居ていいよ」


「……トレーネ、様……」


「私は“沈黙の民”最後の長、トレーネ・ゲミュートだ。一族でただ1人生き残った私を、お前の(ごう)で殺す事を許す。私を殺してみろ、ロイエ・アオフガーベ」



ロイエの返答に嬉しそうに表情を緩めたトレーネは瞬き1つ分の時間でガラリと雰囲気を変え、遥か上から見下ろすような威圧に再び頭を下げながらも、トレーネならもしかしたら…と希望を(いだ)かずにはいられなかった。



「っ…………確かに、承りました。我が心は主と共に、我が命は主の元に。この命尽きるまで、未来永劫トレーネ・ゲミュート様にお仕えする事を誓います」


「うん、よろしくねっ」




いつも閲覧ありがとうございます。



さて、次はどんな話にしようかなー。

例の女の子?まだ出す気はありません、すみませんww




【追記】



今から面倒くさい話をします、自分には関係ないと思う方は読み飛ばして下さって構いません。


以前から大好きて読んでるシリーズの書き手さんが諸事情により筆を折ってしまわれました。それは悪意かも知れません、善意かも知れません。部外者でしかない私には想像する事しか出来ません。



ですが、もしかしたら居るかも知れない、私の小説を読んで下さっている書き手さん。

筆を折っていいんです、更新が止まってもいいんです。「続き書かなきゃ、早くアップしなきゃ…」なんて思わないでいいんですよ。


でも作品を作るのが嫌いになって、自分の作品が嫌いになって消すのだけは止めて下さい。



もしかしたら明日、もしかしたら来年、もしかしたらお祖母ちゃんになってから。ふとした瞬間に「あの小説の続き書きたい!」となるかも知れません。

それまでゆっくりお休みして下さい。いっぱいご飯食べて、ゆっくり寝て下さい。



読み手としては、書き手さんが「書いてるの楽しい!」ってキラキラしている姿が1番嬉しいです。

楽しんでいる貴方が1番見たいんです。





お目汚し大変失礼しました。

この話はTwitterでも流しました。

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