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9 処分してください

その後3人はトレーネの部屋に移動してロイエにはトレーネの事情について、アイトにはロイエと出会った経緯について詳しく話した。



「そうですか……まぁ、グランツ様なら構わないと言うでしょうね」


「あぁ……」



アイトとトレーネが脳裏に共通する人物を思い浮かべ、小さく溜め息をつく。面白そうだから、という理由でトレーネを保護したグランツの反応が手に取るように分かる。



「ねぇアイト、お願いしたい事があるんだ」


「なんでしょう?」


「ロイエの…えっと……コヨウケイヤク、ってのするよね?“奴隷”とか“買われた”っての、けせる?」


「まぁ、その程度でしたら可能です」


「ソレでお願いね」


「ちなみに、何故か聞いても?」


「……もしも、俺に何かあっても……ロイエに“道”がのこるでしょ?」


「トレーネ様……」


「分かりました、任せてください。その代わり、という訳じゃないですけど僕からもお願いしたい事があります。短くて数週間、長くて1年近く、教育の為にロイエ君を借りてもいいですか?」


「ロイエを?…………いいけど…」



そっと視線を上げたトレーネは背後に立つロイエを見上げて手招きをする。

疑問に思いつつソファーを回り込みトレーネの足元に膝をついたロイエの首に小さな腕を回し、グッと引き寄せながらも視線はアイトを睨み付けていた。



「ト、トレーネ様?」


「痛い事とかコワイ事とか、ロイエが嫌な事しない?」


「約束します」


「ロイエはもう俺のだからね?ちゃんと帰してね?」


「はい、もちろん」


「なら、ロイエがいいならいいよ」


「……意見を……聞いていただけるのですか…?」


「えっ?なんで?」



予想外のロイエの問い掛けによってトレーネの腕が(ゆる)んだ事により鼻先が触れ合う程の距離で見つめ合い、2人してきょとんと目を丸くして首を傾げる。

不意に向かい側から小さな笑い声が聞こえて視線を向ければ、アイトが口元に手を当てて笑いを噛み殺していた。



「い、いえ…ふふっ……同じ顔をしていたものですから、つい」


「むぅっ…」


「すみません。では早速、今日からお借りしますね。教育中の世話係りは別に手配しておきます。慣れないとは思いますが、よろしくお願いします」


「ん、わかった」


「ではロイエ君、行きましょうか」


「は、はい。よろしくお願いします」


「ちょっと待って、ロイエ。あのね、――…‥」















「トレーネ」


「ロイエ!おかえりなさい!」


「うん、ただいま」



きっかり1ヶ月で戻ってきたロイエの声に、いつものようにゼクスの手伝いをしていたトレーネは笑顔を浮かべて駆け寄ると膝をついて待ち構えてくれたロイエに抱き付く。

違和感のある感触に身体を離して服越しに撫でれば胸元や腕の辺りにゴツゴツとした触感がある事に気付いた。



「くすぐったいよ」


「……キョーイクって何してたの?」


「いろいろ、かな?」


「お久しぶりです、トレーネ君」


「アイト!」


「ロイエ君をお返しするのが遅くなってすみません」


「お帰りー、アイト」


「おや、まだ居たんですか」


「酷いなぁ、一応アイトが帰るの待ってたんだけど?」



旅に出る気配の無いヘルヘーレンはひらりと手を振る。


お茶の時間には少し早いものの話したい事が山程あるはずだとゼクスに促され、1ヶ月もトレーネを独占させてもらったからという理由で同席を遠慮したヘルヘーレン以外の3人はトレーネの部屋に移動して久しぶりのアイトのミルクティーを堪能する。

同席を許されているとはいえ、グランツと同様に扱われるトレーネと、使用人のアイトとロイエ。同じお茶を飲んではいるものの2人にお茶菓子は無く、トレーネにのみスコーンが用意されていた。



じっと目の前の皿を見ていたトレーネは不意にスコーンを手に取り一口サイズに割ってクリームとジャムを乗せ、少し身体を乗り出してロイエに差し出す。



「ロイエ、あーんして」


「……えっと……?」


「あーん、して」


「あ、あーん」


「おいし?」


「うん、美味しい」


「ふふっ。アイトも、あーん」


「おや、僕もいいんですか?ありがとうございます」



3人でスコーンを食べ終わると改て1ヶ月の出来事やロイエとトレーネだけで出来る範囲を再確認する。



「警備の都合もありますから今後ロイエ君と2人で何処かに出掛ける時は必ず行き先を言っておいてください」


「はーい」


「聞きたい事はないですか?」


「うん、俺はないよ」


「ロイエ君も」


「はい、大丈夫です」


「では、お話は以上です」


「じゃあロイエとおでかけしていい?」


「はい、もちろん。ロイエ君、資金はコレでお願いします。こっちがトレーネ君の、こっちがロイエ君のお小遣いです。1ヶ月毎に支給しますね」


「…………」



ポンッと無防備に手渡された袋はロイエの手のひらにズシリとした重みを伝え、ロイエは口を閉じたまま視線を落としてじっと手を見つめていた。



「ロイエ君?」


「あ、いえ、申し訳ありません」


「どうかしましたか?」


「……えっと……随分、簡単に大金を預けられたな…と…」


「……僕もグランツ様から同じように信頼を預けて頂きましたから」


「信頼、ですか?」


「はい。『私に出来るのはお前を信じる事だ。今後お前が私を知っていく事で信頼しても構わないと思ったなら、その忠義と行動で示せ』、と。その日からずっと、僕なりの忠義をもってお仕えしてきたつもりです」


「…………」


「今日まで教育に精一杯でゆっくり考える時間は無かったでしょうから、とりあえず1週間トレーネ君についててください。この子がどういう子か、よく観察してください」


「はい」



アイトのアドバイスに従い1週間、ロイエはトレーネと常に行動を共にしてきた。

その日にする事は特に決まっていない為ロイエが来る前とたいして変わる事は無く、ゼクスの手伝いをしたり屋敷の資料室で本を読んだり、街へ出掛ける事もあった。


常に行動を共にするようになってからロイエは時々何かに考え込むようになった。トレーネはもちろんアイトをはじめとする屋敷の人間も分かっていたもののロイエの中で答えが決まるまで放っておいた方がいいとのグランツのアドバイスにより、気持ちが落ち着くのを待ちながらもトレーネはロイエを連れて積極的に街へと出掛けていた。



「すっごく楽しかった!」


「……トレーネ…様……お願いしたい事がございます」


「むぅっ。トレーネでいいって言ったのに」


「どうか俺を処分してください」


「えっ……」


「俺…………っ、俺は貴方を殺したくない!!」


「……どういう、こと?」


閲覧ありがとうございます。

今回は特に遅くなってすみませんでした。





番外編を作ってみました。

注意書きは向こうにもありますが、本編に居ないキャラがしれっと居ますので注意してください。


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