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一周年記念 夜会と少女

※本編数年後設定です。

その日、トレーネは急遽昼寝の予定が入った。

城で夜会があるらしく、もし良ければ参加してみないかとグランツに問われたのだ。視線を落として悩んでいたトレーネだったが、髪を隠す為のローブ着用でもいいのなら、と珍しく前向きな返事をした。







**********







その日の夜会は凄くドキドキしながら両親とお姉様と一緒に馬車でお城へ行ったわ。私に婚約者が出来てから、初めての夜会。婚約者様と素敵に踊るお姉様が羨ましかったから凄く嬉しい。


何度も何度も悩んで仕立てたこのドレスで、婚約者と踊る光景を思い浮かべながら馬車を降りた。











あぁ……なぜ、こんなことに……。



「カメーリエ、君がロートに対して行っていた数々の嫌がらせは既に知っている。よって、婚約を破棄させてもらう」


「ゲルブ様、私は……!!」


「私が嫌がらせをしていた相手の婚約者にも関わらず、ロートは友人として接してくれた。それどころか自分に悪い所があったのだから怒らないでくれと優しさまであった。それなのにお前は!!」


「私は何もしていません!!ロート様にお会いしたのは初めてです!!」


「まだ言い訳をするか!!」


「きゃっ!!」



ゲルブ様に突き飛ばされた。タイミング悪く後ろを通った給仕の男性とぶつかり尻餅をつくと、彼が持っていたお酒や割れたグラスを頭から被る。


あぁ、なぜなの?私はただ……。



「……くしゃ、と…………ダンスを…」



私の呟きは誰にも聞こえなかったらしい。代わりに、隠す気のない周囲のクスクスという笑い声が耳にこびりついて離れない。馬車を降りる前まで想像すらしなかった情けない姿に涙が溢れて止まらない。

このまま消えてしまえたら…、とすら思い始めた頃、夜会に参加するには幼すぎる程の小さな男の子の声に顔を上げた。



「お姉さん、大丈夫?」


「えっ………」


「立てる?ケガしてない?」


「あ、だいじょ……ッ!!足が……」


「ちょっとだけ我慢しててね」



未だに状況が把握出来ていない私にいくつか質問をした少年は、足首を(ひね)った事を伝えると少し考え込んで両手を軽く広げ、何かを持ち上げるようにゆっくりと腕を上げる。

すると私の身体がふわりと宙に浮き、あたたかい魔力に包まれて足首の痛みが消えたと思うと再びゆっくりと降ろされる。よく見れば被った筈のお酒も綺麗に消えているので、浄化と治癒を使ってくれたらしい。



「お、おそれいります」


「他にケガはないかな?大丈夫?」


「はい」


「床もキレイにしないと。お兄さん、何か器を持って来てくれる?」


「コレでは不足でしょうか?」



そう言ってグラスが消えたトレイを差し出す辺り、彼も未だに混乱しているのだろう。


小さく笑った少年は代わりに1杯の水を頼むと受け取ったグラスを横に払い、水を撒き散らした。しかし水は宙に浮いたまま徐々に形を変えてボール型の氷になると給仕のトレイに乗り、少年は魔法で床を浄化すると集めたグラスの破片を氷の器に入れる。



「お願いね」


「かしこまりました」


「ねぇお兄さん、さっきそのお姉さんが優しいって話をしてたよね?」


「あ?あぁ、そうだ」


「そうかな?そのお姉さん、お兄さん達がケンカしてる時ずっと怖い顔で笑ってたのに、ホントに優しいの?」


「えっ?あ……」


「そのお姉さんが優しいのなら……その……お父さんとお母さんには悪いんだけど、よっぽど愛されてなかったんだね」


「っ、小僧!!」


「忘れてるかも知れないけど今日は皇帝陛下のパーティーだよ?お兄さん達が怒られるだけでおわるといいね」


「ッ!!そ、それは……」


「ねぇお姉さん、一緒に来る?」


「ぁ…………」



ローブを被った少年が差し出す手を見下ろす。夜会に居る筈のない幼すぎる、しかもフードを目深に被って顔を隠した子供から怪しさしか感じない。

だが、今より状況が悪くなる事はないだろうと手を取ると少年の口元が嬉しそうに笑った。



「お姉さん、お名前は?今日は誰と来たの?」


「カメーリエ、と申します。両親と姉と一緒に参りました」


「アイト、ロイエ」


「「はっ」」


「アイト、お姉さんのお父さんとお母さんに、お姉さんはワガママな子が連れてっちゃったって伝えて?お姉さん悪くないからね、俺が悪いんだからね」


「かしこまりました」


「ロイエは中庭の東屋にお茶の用意を。あっ、お姉さんご飯たべた?」


「いえ、まだです」


「じゃあお姉さんのご飯もね。俺もまだケーキ食べてない」


「お食事が途中です」


「ケーキ……」


「お食事が途中です」


「うぅ……じゃ、それも…」


「畏まりました。お飲み物は何になさいますか?」


「ミルクティー」


「お嬢様は?」


「わ、私も同じモノを」


「かしこまりました。気を付けて行ってらっしゃいませ」


「お姉さん、行こっ。俺はトレーネ、よろしくね」



アイトと呼ばれた青藤色の髪の青年は指示を受けると人混みの中に消え、ロイエと呼ばれた白っぽい金髪の私と同じくらいの少年は深く頭を下げて私達を見送った。



少年――トレーネに手を引かれてテラスから中庭に出ると彼方此方でライトアップされ、歩くのに問題が無い程度には明かりが確保されていた。トレーネは此処によく来るのか、彼処には何が咲いている、其処はもうすぐ花が咲くと色々説明をしてくれる。


暫く歩くと東屋に着き、先に移動を始めた私達よりも早く先程のロイエが準備を終えて私達を待っていた。



「いつの間に……」


「お待ちしておりました。大変勝手ながら、侍女を手配させていただきました」


「お嬢様、どうぞ此方へ」



背凭れの無いベンチに座るとすぐに目の前のテーブルに鏡やメイク道具が並べられ、使った事も触った事も無いような高そうな容器に身体が固まった。私の髪飾りを外した侍女は時折会話を交えながら手際よく髪をまとめて髪飾りを着け、せっかくだからとメイク直しまでしてくれた。



「如何でしょうか?」


「とても素敵です、ありがとう御座います」


「お気に召されて何よりです。それでは私は失礼させていただきます」



侍女が道具を片付けると同時にテーブルに料理の皿が並べられたのだが、その数に目を見開いた。

前菜からデザートまで、やや少なめに盛り付けられてはいるものの明らかに3人は食べられそうな料理に驚いていると、ロイエが気恥ずかしそうに苦笑して説明してくれる。



「お嬢様の好みが分からなかったので、勝手にご用意させて頂きました。お好きなモノをお召し上がりください」


「ありがとう御座います」


「ロイエ……ケーキ……」


「完食されてからです」


「むぅ……」


「ふふっ」



まるで、手のかかる弟を世話する兄のような2人のやり取りに思わず笑みが零れた。従者の格好はしているものの、想像よりもトレーネとは気安い間柄かも知れない。

そんな事と考えながら顔を上げるとトレーネが何故か嬉しそうな顔で私を見ていた。



「お姉さんが笑った!」



無邪気そうな声に、やっと思い出した。消えてしまいたい、とまで思っていた私を、この小さな少年が笑えるまでに引き上げてくれた。真っ直ぐトレーネを見つめて微笑むと、トレーネは日向のように明るく笑い返してくれた。

今の私は彼と同じように笑えているだろうか。



「ありがとうございます、トレーネ様」


「お姉さんが笑ってくれてよかった」



それから2人で普段何をしているのか、何が好きかといった話をしながら食事を終え、ロイエが淹れたミルクティーを飲みながら一息ついた。紅茶を淹れる事に慣れていないのか味はいまいちだったものの、トレーネに似た気遣いが感じ取れる優しい味だった。


ふと、パーティー会場から漏れ聞こえる音楽に視線を向ける。



「…………私、夢だったんです。お嬢様と婚約者様が踊っている姿を見てから、ずっと……私も婚約者と、素敵なダンスを踊ってみたいと思っていました。なのに……」


「お姉さん、ホントにさっきのお姉さんをイジメたの?」



込み上げる涙を(こら)えながら俯き、ドレスにシワが出来るのも構わず強く拳を握り締めて首を横に振る事で返事をする。口を開けば、気を抜いてしまえば泣いてしまいそうだった。


少しの沈黙の後、誰かが移動する靴音に気付いて顔を上げるとトレーネの横に移動したロイエが何かを耳打ちして離れ、東屋から出て少し歩いた所で此方に背を向けたまま足を止める。

何を、と思った次の瞬間雨が降り始め、あっという間に流れる水のカーテンが景色を覆い隠してしまった。



「これ……トレーネ様、が……?」


「うん。誰にも見えないし、何を話しても水の音がかくしてくれるよ」


「トレーネ様…………私…私、何も……ロートという方も、先程初めて…」


「うん」


「ゲルブ様が…話を……私……誰かを(おとし)めるような事なんて……でも…」


「うん」


「私…私は……私も……踊ってみたかっ……お姉様……」


「うん」



感情のままに吐き出し、聞き苦しい私の言葉に相槌をうってくれるトレーネはいつの間にか隣りに移動し、ハンカチを私に握らせると泣き止むまでずっと頭を撫でながら話を聞いていてくれた。

時折返事に困ったように笑った顔を思うと少し汚い言葉を口走ったようだが、彼のように優しく響く水音が隠してくれた筈だ。











「カメーリエ、大丈夫?」


「はい。ご心配をお掛けしました」


「いいのよ、そんな事」


「これからの事については陛下と話がついている。今日はゆっくり休みなさい、詳しい話は明日にしよう」


「ありがとう御座います、お父様」



パーティーがお開きになった後、アイトに東屋へと案内された家族と合流する。泣いた跡についてはトレーネが治癒してくれた為、余計な心配をかけずに済んだ。



これは後日聞いた話だが、私達が居なくなった後事情を聞くという名目で家族は別室で匿われていたようだ。おかげでゆっくり食事も出来たし陛下と今後の事について話し合う時間も頂けたらしい。



「トレーネ様、本当にありがとうございました」


「ううん、お姉さんが元気になってくれただけで嬉しいよ」


「お借りしたハンカチは洗ってお返しします。お礼をしたいのですが……私、刺繍が得意なんです。トレーネ様がお好きなモノを刺繍してお返ししたいのですが、お許しいただけますか?」


「えっと……ハンカチはあげるよ。もう俺に会わない方が…」


「私、甘えすぎてしまったでしょうか?」


「ちがっ、えっと…………“コレ”、知ってる?」



トレーネがフードを外した瞬間息を飲んだのは誰だっただろう。


明るいとは言い難い光に照らされてキラキラと輝く白銀は世界で唯一の民族を示す特徴だった。



「まぁ、やっとお顔が見れましたわ」


「あの……お姉さん…?」


「その白銀は“沈黙の民”の特徴ですね」


「…………うん」


「私が“沈黙の民”について知っているのはお伽噺程度です。野蛮で傲慢で、もしも出会ったら死を覚悟するように、と」


「…………」


「ですが、今日お会いしたのは私を助けて下さった小さな紳士ですわ」



しゃがんでトレーネと目線を合わせて微笑むと彼は泣きそうな顔をした。



「……お礼……1つだけ約束して?」


「はい」


「俺に会う時は家族と一緒に来て。連絡先はお父さんが知ってるよ」



彼の言葉を、私と自分を会わせるかどうかは父親に任せる、という風に受け取ったのだが父の顔を盗み見ると大きく間違ってはいないだろう。


きつく目を閉じて天を仰ぎ、深く息を吐くと父はトレーネを見下ろして苦々しく笑う。



「……陛下宛てに手紙を送れば彼まで届くだろう。トレーネ様、初回だけは家族全員で押し掛けてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


「ありがとうございます、お父様。トレーネ様、刺繍は何にしましょう?」


「鳥がいいな」


「私も鳥が好きです。心を込めて刺繍させていただきます」


「うん、またね!」

いつも閲覧ありがとう御座います。





更新が遅くなって本当にすみませんでした。


諸事情により2月から6月くらいまで予定が詰まってまして、毎年こんな感じの更新かと思われます。ご容赦ください。



ロイエについては次話を更新してから一周年記念を、と思ってましたが間に合いませんでした。重ねて謝罪します。





活動報告でこっそりネタ募集していた通り、●周年記念は本編では書かないネタを書こうと思っています。今回は、実はやってみたかった悪女ネタでした。一人称視点がしんどかった、とだけ言っておきます。



これね、これねww文字数めっちゃギリッギリなのww

ホントはパーティー始まってすぐくらいにグランツにお膝抱っこでアーンされるトレーネのシーンとか使いたい台詞とかあったけど、削ったくらいギリッギリww

長くなってすみません。悪女ネタはやりたかったネタではあるんですが、本編ではやらないだろうなーと思って。






【追記】19/08/30



あっ!!今気付いた此処7万字まで書けるお膝でアーン消さなくて良かった!!←普段メールで下書きしてる為上限1万字

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