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第8話 奈々美の推理

「帝都建設をちょっと調べてみたんですよ。」

川上奈々美は操作したタブレットを青山健太の方に向ける。そこには帝都建設の他に帝都グループの各企業が業種とともに一覧表示されている。

「財閥系の巨大コンツェルンだからなぁ。何でもやってるな。」健太は一言感想を述べた。

「でもね、賃貸管理をやってる会社はないんです。」

テナントであれ、賃貸マンションやハイツ、月極め駐車場もそうだが、一般的には宅建業者が間に入り管理をすることで収入を得る。個人で店子を募集するのも困難だし、業法の縛りもある。手数料は家賃の1割ほどしかないから、管理物件を多数抱えなければ安定的な収入は見込めない。個人事業主の街の不動産屋ならともかく、大きな会社はたいてい別会社を作っている。三和ホームも資産活用や特建が建てたハイツや賃貸マンションは三和リビングという管理会社に任せている。

「確かにそうだな。帝都エステートって会社が不動産やってるけど、仲介と売買で管理は記載がないもんな。」


昼を回って店内は学生やOLと思しき客が増え、反比例してビジネスマンなどは減っていた。彼ら特有の喧騒を嫌ってのことだろう。

「でしょ。」奈々美は身を乗り出すようにして話を続けた。

「管理部門もないのに、なんでテナントビルなのか?その方が都合がいいからじゃないですかね?幽霊企業を隠れ蓑にすれば中で何やっててもわからないじゃないですか。」

奈々美の力説に健太は思わず笑ってしまった。まだ3年目なのに、良く知ってるとは思う。しかし、さすがにドラマの見すぎじゃないか。

「いや、悪い。突飛すぎたから。」

「言うんじゃなかった。」

奈々美は頬を赤らめて俯いてしまった。

「ごめんて。でもさ川上。誰が何の目的で?ちゃんと聞くから聞かせてくれ。」

奈々美の顔を下から覗き込むように健太は言った。

「コーヒー、冷めちゃったろ。新しいの買ってくるよ。」

健太は空になったマグカップを持って再びレジカウンターに並びラテを2つ注文した。席に戻ると1つを奈々美に手渡した。それを両手で包むように一口飲んだのを見計らって健太はもう一度「聞かせて?」と言ってみた。


奈々美はマグカップを机に置くと、タブレットに別のページを開き健太に向ける。まとめサイトのようだ。そこには、帝都重工の化学兵器開発だの人体実験などという言葉が並んでいた。帝都重工はグループの中枢とも言うべき旗艦企業だ。

「都市伝説だろ?」

健太の問いに奈々美は頷きながら、

「だと思います。大きな会社にはこういうのってつきものだし。でも帝都はやたらあるんですよ、この手の話。全部は見れてないんですけど、中には信憑性が高そうなのもあって気になるんです、わたし。」

そう言う奈々美の顔は真剣そのものだった。

「中で何やっててもわからない、か。あのビルの3階より上は結構ガラスが嵌められてるけど、全部遮熱ガラスだからか、全く中が見えないもんな。」

とは言え、と健太は机の上で肘を曲げ両手を組んだ。

「監視カメラが12個もあるんだろ?その内のいくつかは道路を写してる。こんなことないだろうけど、もし中で普通じゃないことをしてるとしたら。川上。」

そこで一旦言葉を切って健太は真っ直ぐ奈々美に視線を向けた。その視線が奈々美と交わってから続けた。

「ビルの前で立ち止まって中を窺ったり、覗き込んだりするなよ。」

奈々美は不満そうな顔を見せたが、こくんと頷いた。

「わかりました。それなら所有者から当たりましょう。」

この時の健太は奈々美に付き合ってやる、くらいの軽い気持ちだった。奈々美は控え目に見ても美人だ。一緒に何かするのに断る理由はなかった。


「謄本、中に入れてるんだ。」

PDF化した登記簿謄本をタブレットで開き、旧所有者の住所をiPhoneの地図アプリで検索する。

「あ、ここから近いですね。行ってみよ?」

そう言うと奈々美はさっさとタブレットをバッグにしまうとコーヒーを一気に飲み干し立ち上がった。

「今から?」

「もちろん。わたしの車、ここに置いとくんで乗せてってください。」

出口に向かう奈々美の後ろ姿を見ながら、健太も慌てて立ち上がった。

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