第五話 NGワード
⑤
椎名さくらが示した先のモニターには、いよいよゲームが始まるであろう文言が並んでいた。
『エンペラーガーディアン Cブロック1回戦
占守島の戦い 1945年8月15日 難易度C』
文字の下にはカウントダウンを告げるデジタル表示。60分から始まり、1秒づつ減りだした。同時に支給品↓という文字とともにモニターの下のパネルがスライドした。綾瀬コウがさっと近づくと中には腕時計が2つ。ブリーフィングタイムは1時間のようだ。
コウはさくらの横に座り、語りかけた。この表示を見て、勘が確信に近いものに変わっていた。
「さっきの続き。デスゲームじゃない理由。」
さくらは無言で小さくうなづく。
「これからどうなるのかは分からないけど、クリア条件の1つに戦闘終了って書いてあったよな。ということは、何人同時にプレイしようが誰も死ななくて済むかもしれない。」
「あ!プレイヤー同士の殺し合いなんかじゃないってこと⁉︎」
「そう。敵はいるけどプレイヤーじゃない。開発者、いや主催者は何も闇雲に殺そうとしてるわけではないと思う。だからルールやヒントを示してるんだ。」
我ながら説得力のある合理的な説明が出来たように思えた。その証拠に先ほどまで蒼白だったさくらの顔に赤味が戻り、目に生きようとする力が湧いているように見えた。
「まずは6つのルールを検討しよう。」
コウとさくらは真っ白な天井を見つめ、1つづつルールを確認していった。
「まずは2人1組複数同時ってやつ。」
コウが言う。
「何人くらいなんだろうね。でも今ここにはわたしたちしかいないから、考えるだけ無駄だね。」
少しずつではあるが、さくらはコウの知ってる以前の雰囲気に戻っているような気がする。
「椎名の言うとおりだな。じゃ、2つめのルール。大東亜戦争だったか、太平洋戦争のことだよな。」一般的には第二次世界大戦や太平洋戦争と言われてるのに大東亜戦争という表現にコウは少し違和感を感じていた。
「でも、どうしよう。わたしこのナントカ島って知らない。。」
「俺も詳しくはないけど、ウィキレベルでなら少し知ってるから後で。」その程度の知識が役に立つのか甚だ不安ではあったが、何も知らないよりはマシなはずた。情報を共有してゲームを有利に進めましょう。これが吉と出ればいいのだが。
「一番の問題はNGワードとかだよね。」
そう、他のルールは始まってみないと分からない。しかし、NG行為やNGワードはあらかじめ予防線を張らなければならない。何せ死に直結するのだから。
さくらは両手の平で体を支え、中空を見つめ考える仕草を見せている。
「逃げたり捕虜、とか負けるって口にする。とかかな。。」コウは胡座を組んだままの姿勢で体を前後に動かしながら口にした。
途端にさくらは怯えたような表情に変わる。
「え、ダメなの?わたし終わるまで逃げたり隠れたりすれば助かるって思ったよ。」
うん、と頷いてからコウは話を続けた。
「主催者は俺たちに戦争ゲームをさせたいんだ。だとすると逃げられたり、降参されたらゲームにならない。映画なんかで見る日本軍は降伏することが許されなかったみたいだし、負ける、なんていう発言は禁句だ。あと当たり前だけど、同士討ち。これは他のプレイヤーに狙われることもないと言えるからプラスだな。」
よほど陰鬱なのだろう。さくらは体育座りした膝に顔を乗せ両手を脛に回しふさぎ込んでしまった。それも仕方のないことだ。
限られた時間しかないなかで、多くをさくらに伝えなければならない。コウは一拍置いて先を続けた。
「それと世界観は分からないけど、ゲームプレイヤーだとかも言わない方がいいだろう。じゃあ、肝心のシュムシュ島について。」
さくらは同じ格好のまま、顔だけコウの方に向けた。