第四話 死のゲーム
④
『エンペラーガーディアンへようこそ』
真っ白い壁がモニターなのか、黒い文字が浮かび上がった。振り返ってその文字を目で追った綾瀬コウは、途端に体が硬直するのを覚えた。エンペラーガーディアン、皇帝の守護者。訳すならそんなところか。隣の椎名さくらはへたりこんだままの姿勢で両手で鼻から下を隠すようにして、息を飲んでいる。高鳴る鼓動が自分にも聞こえてきそうな、そんな感覚に囚われながらもモニターから目を離せないでいる。救助、という淡い期待は文字通り泡と消えいこうとしていた。そしてそれは次に表示された一文で露と消えた。
『このゲームは死の危険を伴います』
死ぬ?俺たちに何をさせようというんだ。。
「どういうこと⁉︎なんで死ななきゃいけないの⁉︎」さくらが悲痛な叫び声をあげる。
「落ち着こ、まだ殺されると決まったわけじゃない。これがゲームならヒントがあるはずだ。」
コウは自分に言い聞かせるように片膝をつき、さくらの目を見て言った。が、さくらの黒目は萎縮しモニターの文字を捉えて離さないようだった。そう、ゲームというからには何かしらのヒントがありクリアの方法があるはず。もしかしたら端末やコントローラーを操作する類かも知れない。
次にモニターに映された文章をコウはさくらを励ますように肩に手を置き2人無言で黙読した。全ての文章を頭に叩き込まなければ。そんな気がしていた。またそうする他に方法もなかった。
『エンペラーガーディアン ルールその1
①このゲームは2人1組複数同時プレイのゲームです。
②ゲームフィールドは大東亜戦争の各戦地で、プレイヤーの所属兵科部隊、装備は戦場により異なりますが最初の階級は少尉となります。
③クリア条件は戦闘終了もしくはプレイヤーが1組または1人となった場合です。
④ゲームクリア後、戦果総合判定を行います。
⑤プレイ中のNG行為やNGワードの発言は即ゲーム中止となり、当該プレイヤーは死に至るので注意が必要です。
⑥ゲームスタート前には一定のブリーフィングタイムが設けられています。情報を共有することでゲームを有利に進めましょう。』
「戦争に行かされるってこと?」
生気を失った虚ろな表情でさくらが口を開いた。どうやらルールを見る限りそうらしい。モニターには1つづつルールが示され、全て出揃ったのか6つの文章が表示されている。震えるさくらの肩をポンポンと優しく叩き、コウはゆっくりとした口調で話し掛ける。
「なぁ、なんでこんなことになったのか、それはもちろん俺にもわからないよ。でも、死ぬと決まったわけじゃない。そうだろ?」
「わたし、死にたくない。」
モニターを見つめるさくらの目から涙が零れ落ちる。
「俺だって。」
肩にかけた手に力を入れてコウは言った。これが本当にゲームでこれから始まるのだとしたら相当大掛かりだ。1人や2人で出来るものではないだろう。だとすると、主催者又は開発者は必ずしもプレイヤーを殺そうとしているのではない、根拠はないがコウの勘がそう言っている。
「椎名、きっとこれはデスゲームじゃない。攻略法があるはずだ。だからルール説明がある。そう思わないか?」
「どういうこと?」
泣きっぱなしだからか、少し腫れた目をようやくこちらに向けてさくらが聞く。彼女の横で胡座をかいて向き合ってコウは感じたままのことを話そうとしたとき、モニターの画面が変わった。
「ちょっと待って!」さくらがモニターを指差した。