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第二話 真っ白い部屋で

真っ白い天井がうっすらと目に映る。照明器具はついていないようだ。あれ、何してたんだっけ。綾瀬コウはそこではっきりと目を開けた。横たえた体を起こしてみる。やや頭が重いが体に痛みはない。まず目に飛び込んできたのは、同じように横たわった女性だ。うつ伏せで長い髪が頬にかかり顔はわからないが、背中が呼吸で動いているので寝ているようだ。その女性以外、部屋には何もなかった。いや、そもそも部屋と呼べるのか。6畳ほどの空間は床も壁も天井も白く窓がない。それどころか出入り口らしきものがない。なぜこんな所にいるのか。


コウは立ち上がってみた。天井までの高さは3mほどだろうか。自分の身なりを確認してみた。ジーパンにチェックのシャツにジャケット。スニーカーを履いているのが不思議な感じがしたが、どれも自分のものに間違いなかった。身につけた衣服の他には何もなかった。財布も時計も鍵もスマホさえも。コウは再び腰を下ろし、思い出そうと努力した。ここに来てどれくらい眠っていたのかは不明だ。その前は家にいたはずだ。前日が金曜日で仕事。今日が土曜日なのであれば休日。家ではたいていスエットでいるはずなのに、わざわざジャケットを着ていることを考えると出掛けていたのだろうか。そうだとすると所持品が何もないのはおかしい。誘拐でもされたか。と、思いながらパニックにもならず比較的冷静に分析している自分にコウは苦笑した。


どうやら女性も気がついたようだ。

両手を床に踏ん張るようにして体を起こした。顔にかかった髪を分け、その目がコウを捉えたとき、お互いはっと息を飲んだ。知った顔だったからだ。

「...綾瀬さん?」

「椎名...。」

椎名さくら。何年か前まで同じ職場で契約社員として働いていた女性だ。彼女が辞めた後も半年に一度くらいのペースで食事に行き、他愛のない内容のラインのやり取りくらいはしている。さくらもコウと同じように辺りをキョロキョロと見渡し、服装を確認してから思い出そうとする仕草を見せた。


「なぁ、俺たち今日会ってた?」

その質問にさくらは首を傾げ、しばらく考える素振りを見せた後、左右にかぶりを振った。

「や、会ってないと思う。」

「だよな。」

「ここ、どこ?」

「わからない。おれもさっき気がついたんだ。何も覚えてないし、思い出せない。」

さくらはフラフラと立ち上がり壁際に歩み寄ると、確認するように壁を触りながら部屋を一周した。

「...綾瀬さん、この部屋どうやって出るの?」

コウはゆっくり首を振った。

「わからない。」

一周した隅でさくらはへたり込むと声を殺しながら泣き出した。これが普通の反応だろうな、とコウはさくらの後ろ姿を見て思った。解決策を持たないコウがさくらにかけてあげられる言葉はなかった。


改めてコウは何もない空間を観察した。壁も床も叩いてみるとコツコツと音はするが、部屋の内部で響いているだけのようだ。コウが暮らすマンションのような空洞があるようには思えない。材質も木なのか、鉄なのかさえ分からなかった。誰かが何かの目的で二人をここに幽閉したとするならば、向こうから何らかのアクションがあるはずた。トイレも水さえもないのだから、それはそう遠くない時に起こるだろうとコウは思った。そのアクションが救助であればこの上ない。


さくらにそのことを話すと不安げながらもようやく彼女は泣き止み、こちらを向いた。歳はさくらの方が1つ上ではあるが、守らなければならない。そのとき、コウの後ろ側、短方向の壁面がモニターに変わった。

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