月刊異世界業務2月号 当社取材記事③
※①②を執筆された、取材記者の立花さんのブログ記事です。
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【すたんだっぷ↑↑ふらわ~】
≪異世界取材に行ってきました!≫
2017-02-10 22:00:00
テーマ:取材のこと
ども!たちばなです!
「月刊異世界業務」2月号に、
私が担当した取材記事が載ってます!
買って!読んでくだされ笑
で!今回のブログは、記事に書いてない「裏話」的なことを書いちゃおうかな、と…
榎本さんとのランチ!そのときのこと、書きますね!(あ、許可はもらってます笑
☆☆☆☆☆☆☆☆
…ここで、いいんだよね…
「僕は作業を片付けてから向かいますので!」
榎本さんから指定されたのは、ふもとの町のラーメン屋。
看板には「麺屋 五分五分」とある。メモの店名も住所も間違いない。
私は現実世界では、食べ歩き系ライターとして、結構な数をこなしてきた。
中にはとんでもない店もあった。この店は、それらを一瞬で凌駕して
ランキング堂々の1位。いろんな意味で。おめでとうございます!
ボロボロの外装…周囲に漂う生臭さ…一言で言い表せば、「豚小屋」。
『ブヒッ!』
ホントに豚がいるし!
店の脇から、私を威嚇するかのように、見たことも無い大きさの豚が咆えていた。
豚にせきたてられ、意を決して足を踏み入れた。
ガラガラッ(開けにくい
…客全員が、私に視線を向けた。今思えばあれは歓迎、だと思ったほうが泣かなくて済んだのかも。
店内にはカウンターとテーブル席があり・・・よくあるラーメン屋を想像してほしい。ほぼ満席。
昼間のオフィス街でサラリーマンの御用達ラーメン、という店なら期待もできるだろうが、
私に視線を向けていたのは、満座のゴブリンたち。客、全部、ゴブリン!
幼稚園児くらいの大きさの、小汚い肌の…「いかにも」なゴブリンが店を埋めている。
そして私という、人間という異物に、好奇とも軽蔑とも侮辱とも殺意ともとれる、
ハイブリッドな視線を向けている。
(ここ、人間様おことわり、じゃないの…)
一瞬、店主…青黒い肌の、ゴブリンである…と、目が合った。店主はすぐ視線を手元に戻すと、厨房で黙々とムラサキネギを刻みはじめた。他のゴブリンたちも、私から視線を外しラーメンを食べはじめた。
店には、店主がムラサキネギを刻む音と、ゴブリンたちがラーメンをすする音と、ゴブリンたちの小さいが下品で甲高い笑い声…おそらく今いちばん瞬な話のネタは「ゴブリン御用達のラーメン屋に迷い込んだ人間の女」だろう…が、響いていた。
どうしようもなく立ち尽くしていると、うしろから罵声が飛んできた。
「ネエチャン!見えねえよ!」
声の主は、丁度私のうしろに座っていたゴブリンだ。いったい何のことか、と思ったら、店に置かれていた「水晶玉テレビ」の画面を、私がさえぎっていたようだ。
す、すみません!
油か何かでぬるぬる、いや、ドロドロの床にふらつきながら、壁際に身を寄せる。
と、とりあえず、座らねば…
運良くカウンターの一番はしっこに居場所を見つけた。
イスに腰を落とすと、どっと疲れが出てきた。
ラーメン屋でこんな疲れたの、初めて!
それに緊張しっぱなしだったのか、喉がカラカラ。
あ、あの…お水…
店主が無愛想に、視線も向けずに、指をさした。カウンターの反対側に水の入ったツボが置いてある…セルフサービスなのね…ただ「サービス」という言葉で大丈夫なのか…
榎本さん、早く~;;
「こんにちは!」
まるで計ったかのようなタイミングで榎本さんが店に入ってきた。なんかもう、白馬の王子様…緑の作業着なんだけど…に見えちゃったわよ。
「店長さん、ご無沙汰してます!」
「おう、久しぶりじゃねえか」
榎本さんの元気な挨拶に、無愛想に見えた店長が初めて口を開いた。榎本さんは私の姿を見つけ、隣に座った。
「すみません、立会いが長引いてしまって」
いえ、大丈夫、です(もう大丈夫だってことにします)。あの笑顔ですみませんなんて言われたら、だいたいのことは許せるんじゃないかしら。なんて考えていたら店長が話しかけてきた。
「なんだオメエ。カノジョさんか?」
!!??←←←←
「やだなあ店長、違いますよ」
榎本さん、私が言葉を出す前に否定するのは、ちょっと、悲しいから、やめて下さい。
「前に、僕、結婚してるって言ったじゃないですか~」
あ…そうなんですか…(白馬の王子様が走り去っていきましたとさ。
榎本さんは、ご結婚されてて、もう2歳の娘さんが…あはは、お仕事頑張って下さーい
「どうかしましたか?」
「あー。いえ。なんだか榎本さんが輝いて見えるなーって。ははは」
「そうですかね?…でも、ありがとうございます!」
さっきのゴールデンオークさん、榎本さんの個人的な連絡先聞こうと思ってた私を殴り殺して下さい。
「ここはラーメンしかメニューがないんですけど、おいしいんですよ!」
はい。ということで、気を取り直して。ラーメン2つ。
「いろんな異世界を回ってますから、いろんなお店を知ることができます。それは、仕事柄、嬉しいことのひとつですね」
旅先でおいしいものに出会う感覚に近いという。しかもこっちは異世界。普通の人にはできない体験だものね。
榎本さんの趣味は、旅。学生時代は、あてもなく知らない国まで赴くような、バックパッカーだったという。
「今はとても旅行できるような休みがとれないんで悲しいです(笑)」
いろいろな仕事を経験してきたらしいが、何故今この仕事に?
「就職してから、なんだか、仕事の成績とかノルマとか…あと人間関係が、嫌になってしまって」
意外な過去が出てきた。とてもそんなふうには、思えないのだが。
「仕事を辞めて、次はあまり、人と関わらない仕事を、って考えて、清掃のアルバイトを始めました」
それが異世界清掃サービス株式会社との出会いだったという。
「知らない異世界での清掃を重ねるうち、旅の醍醐味だった、一期一会の喜びを、取り戻すことができました」
真面目な働きぶりが認められて、社員へ。
「社員として、大変なことも多いですが、毎日が大冒険ですし、楽しいんですよ」
人と関わるのが嫌で、清掃業を選ぶ人も多いというが、巡り巡って、天職を見つけたんだなぁ…
「このお店も、初めて来たときは、ラーメンのスープにされるんじゃないか、って。ハラハラしました」
さっきの私と同じような体験をしたんだね(笑
「刻んでメンマにしちまおうと思ってたんだけどよ」
私達の前にドンブリを2つ、ドン!と置きながら、店長が言う。
「ユニコーンの角と、フェニックスのガラでスープをとってるんです。これ1杯で10年長生きできますよ」
よかった、これでさっきから縮みっぱなしの私の寿命も回復できるわね。
「いただきます!」
榎本さんがラーメンをすすり始めた。私もひとくち。ずずず…えっ?おいしい!
「いろんな異世界ラーメンがありますけど、ここが一番ですよ!」
そういえば、異世界グルメサイトの「グルメホライズン」が、ここを0点とか書いてたなあ…やっぱりおいしいものは、自分の舌で確かめなきゃ。
店長は、どこかうれしそうに、こちらを見ている。
「そういえば店長、ぜんぜんお店の掃除してないじゃないですか。いいかげん床清掃させて下さいよ!」
「バカヤロ。こんな汚ねえ店、今更掃除してどうすんだ。金と時間の無駄だぜ!」
「そんなことないですよ。お店を綺麗にすれば、女性のお客さんだって来やすいと思います。せっかくおいしいんですから、たくさんの人に知ってもらわないと。」
「いちいちうるせえんだよ、おめえは…だいたい俺は、人間なんてデェキレエなんだよ!」
「でも店長、いつも僕が来たら嬉しそうにしてるじゃないですか。今日は立花さんもいるから、いつもよりもっと嬉しそうで…」
「バッキャロォ!麺が伸びらぁ!とっとと食って帰りやがれ!」
店長の怒鳴り声と、客の下品な笑い声で、店内は包まれた。ああ、でも、嫌いじゃない。こういう雰囲気。
そして、短い食事の時間からでも、榎本さんの人柄というのが、少し垣間見れたような気がした。
最後に。榎本さん、このラーメン屋の名物(笑)だという、油まみれで動かなくなった換気扇の、清掃の約束をとりつけたという。あの店長相手に仕事を勝ち取ったのだ。勇者榎本。やりおる。