9.趣味は至高の暇つぶし
目標かあ。今までも細々とした目標を決めていたけど、今回決めるのは生き方とかの人生設計だ。これは簡単には決めれる話じゃない。すでにいくつか候補はあるけど、多めに目標を立てておきたいから少しずつ増やしていく形でもいいかもしれない。
今思いつく目標は3つだ。
まずは〔ゲームから脱出する〕こと。
現実じゃ重症かもしれないけど、帰れるなら帰りたいんだよね。やり残したこともあるし、ゲームしながら死ぬとか嫌だ。けどこれは自分の意思ではどうにもならないことだから、この目標はほぼ達成不可能だと思う。
次は〔人並みの行動を取れるようになる〕だ。
今は植物だけど自分は人間だ。だからこそ、この目標は叶えたい。達成する方法も大体予想できている。
きっと進化していけば完全な人とはいかないけど、似たようなものになれると思う。最低限、自分の足で歩き回り、自分の目で見て、自分の手で触りたい。簡単に言えば五感がちゃんと機能したら十分だ。
最後は〔ゲームを楽しむ〕かな。
折角だから楽しむ。それ以上の説明はいらないだろう。
現実ではできないこともいっぱいだし、全てが新しい。草だから制限もあるけど、遠くを見て回る方法もある。ゲームなんだから、ゲームとしての目標もあるかもしれない。時間なんて気にせず遊び倒せるんだから、ニートよりも遊べるんじゃないかな?
これが今の目標だ。最後のは目標とは違うかもしれないけど、自分の生き方として上げておく。
さて、目標も決まったし、何しようか。と言っても、現在進行形でいつもの香りコンボや『音波感知』関連は使ってるから、何もすることがないとは言えない。だけど、やってることは全部受け身だからね。正直、暇になってくる。
んー、そろそろあれに手を出してみようかな?眼もあるし、近くの木の浸食が終わっているおかげで力もある。必要なものは揃えることができるし、いっちょやってみますか。
現実での休日にやっていた趣味を。
仕事が無ければ暇だったから始めたのは、いわゆる製作だ。何を作っていたのか問われたらいつも、「模型を作っている」と答えていた。その模型は車やヘリ、電車なんかの乗り物や、犬とか猫みたいな生き物を小さくしたものだ。
けど、自分の作っていた模型はそれだけじゃ終わらない。なんと本物のように動かせるように造るのだ。つまり自作のラジコンを作っていることになる。
乗り物系は資料とかを見て作れたけど、生き物は大変だった。せいぜい立ったり座ったり、首や尻尾を振らせるのが限界だったしね。だけど、作った模型を親戚の子供にあげたらすごく喜んでくれたので、結構上手く作れているという自信はある。
それにしても、製作途中だったやつは趣味の集大成みたいな気持ちで作っている生き物の模型だったから、作業の再開ができないのは非常に残念だ。
そんな趣味をゲームの中でやってみようと思う。『想造』を使えば完成品がすぐに出来上がるけど、やっぱり部品から組み立てるのが楽しいだろう。だから『想造』は材料を出す時ぐらいしか使わないでおく。
今回は久しぶりだし簡単な物にしておこうかな?失敗しても材料ならいくらでも出せるし問題は無いけど、リハビリは大事だからね。
そんな訳で、趣味を満喫して時間潰しをすることにした。
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……や、やりすぎた。
自分の前にあるのは車。そう、車だ。しかも1/1スケールの人が乗れるサイズだ。
初めは普通のラジコンサイズを作ろうとしてたんだよ?だけどね意外と木の蔓を操るのって難しいんだ。言うなれば重機を使っている気分。細かい操作はできないし、力加減を間違えて材料を駄目にしてしまう。
だから徐々に大きい部品になっていった。そして最終的にはこのサイズに落ち着いたという感じだ。
……言い訳はこれでいいかな?うん。今までのは完全に言い訳だ。本当は楽しくてついやってしまっただけだ。
だってさ、現実では手に入らないサイズの材料を『想造』なら簡単に出せてしまう。こんな状況でロマンを求めないなんてありえないでしょ。ただ、今回は自重したよ?作ろうと思えば戦車だって大型船だって作れるんだ。車で収まっただけマシってものだ。
さて、どうしようかこの車。
車体が太陽光パネルの役割をしていて、燃料無しでも常に走ることができる。もちろん『想造』で造ったもので、現実でも作られていない未来の謎技術だ。
だけど動かすつもりは今のところないかな。
よほどの世界じゃない限りこの車は、世界観をぶち壊すだろう。だから、人の目に触れないように隠しておきたい。処分?そんなのする訳無いじゃないか。完成品は捨てないようにするのが自分のポリシーだからね。
隠せる場所……ないね。この森の中じゃどこに置いても目立つし、地面に埋めるには大きすぎる。
よく木を隠すなら森の中っていうけど、車を隠すなら轟の中?自分で考えておきながらよく分かんないね。
むう、せっかくのソーラーカーだけど仕方ない。草をたっぷり付けた車カバーでもかぶせておくか。これなら、葉っぱが山盛りになっているようにしか見えないはずだ。
【スキル:『想造』がレベルアップしました】
【スキル:『罠作成』がレベルアップしました】
『想造』はともかく、『罠作成』?今のどこに罠の要素があったの?
もしかして、フカフカの葉っぱの山だと思って突っ込んだら、凄く硬かった。とか、そんな感じの罠になるのかな?想像してみたら、すごく痛そうではあったけど。
車は隠せたし、今度は生き物型を作ってみよう。
モデルは白虎……はやめておいて、そこのウルフにしよう。『死霊術』のおかげで骨格なんかの体の構造が手に取るように分かるし、大きさもそこそこだから頑張れば作れるだろう。
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よし、とりあえず完成だ!こいつはメカウルフと呼んでおこう。
まずは見た目から。姿形は完全にウルフで、メカと付きながら機械っぽさは全くない。
毛の代わりとして腐ったりしない人工の毛皮を使用していて、左眼のところはなるべく本物に近くなるよう、眼球に似た物を現在作成中だ。ちなみに、右目は色んな機能を使うためにすでに付けてある。
中身はさすがに、内臓とかを表現する必要はないので作りこんでない。その代わり体を動かすための構造とかを沢山仕込んでいる。その分重くなってしまうけど、骨や筋肉なんかを軽くて丈夫な素材で作ったので、本物のウルフよりも軽くなったかもしれない。
問題の性能なんだけど、いい意味で想定外な事が発覚した。
『想造』で造ったものは浸食済みだと以前気付いていたね。当然このメカウルフも浸食済みなわけで、そして、浸食済みの物体は結構自由に動かせる。つまりこのメカウルフ、自分限定ではあるけど動力が要らないんだ。
動力をどうしようか悩んでいたけど、このおかげで一気に作業が進んだ。製作途中でも動かせたし完成後も問題ないだろう。
最後の眼球も作り終えたし、これを入れれば完成だね。
最後の作業は自分の手で、はできないから、『風魔法』で眼球を丁寧に運ぶ。そして、左目のところに押し込めば……完成だ。
【称号:『異形の作り手』を手に入れました】
【称号の獲得により、スキル:『生物生成』を獲得しました】
……へ?またスキルと称号が手に入ったけどなんだこれ。異形ってこのメカウルフのことか?手に入ったスキルから見て、異形ってのは何かの生物っぽいけどメカウルフは生きてないよ?
驚いて色々考えていると、メカウルフに違和感を感じる。
っ!ちょっと待って!メカウルフの浸食率が低下していってる!これはちょっとやばそうだね。なんとかしないと!
とりあえずメカウルフへと『浸食』を集中させる。それでも浸食率の低下速度が落ちただけだ。
これでは時間の問題だと思うから、ウルフの死体視点から様子を見てみる。メカウルフの周りをまわりながら観察すると、左目の辺りが緑色に光っているように見える。
原因はこれかな?だったら簡単な話だ。取り外してしまえばいい。だけど、結構ぴったりに作ったからウルフじゃ無理だね。仕方ないから壊してしまうか。頑張って作ったから勿体無いけど、背に腹は代えられないな。
ウルフの死体をメカウルフの目の前まで寄せる。そして、牙を眼球に突き立てた。少しずつひびが入って行き、それにつれて『浸食』の効果が上がっている。
最後に思いっきり力を加えれば、眼球は原型を失って割れて地面へと落ちていく。
割れた眼球はまるでメカウルフの涙のようだった。
……はあ~。びっくりしたよ。ホント何が起こるか分かったもんじゃないね。
今回の原因である緑色に光っていた眼球。たぶんあれのせいで魔物として完成しちゃったんだろう。それは手に入った称号とスキルが説明してくれているようなもんだ。
『異形の作り手』は今までにない新たな生物を、造った人が手に入れる称号。『生物生成』は造ったことのある生物と、スキルレベルに応じた生物を生み出すことができるらしい。
どっちも『死霊術』といい勝負してるんじゃないかな?もちろん悪い意味で。
さて、左目が無くなったメカウルフだけど、また造るのは面倒だしこのまま動かしてみようか。減っていた浸食率も元に戻っているし、問題なく動くだろう。
おっと、その前に試しておくことがある。このメカウルフにも『視界共有』が使えるかをね。
結果から言えば『視界共有』はできた。ただ片目なせいで少し違和感があるね。そのせいか、死体ウルフと同時に共有してても酔わないのはありがたいけど。
『視界共有』を繋いだまま、体を動かすように『浸食』を使用する。
【称号:『人形遣い』を手に入れました】
【称号の獲得により、スキル:『操作』を獲得しました】
メカウルフの体が動いたところで、称号とスキルが手に入った。
うんうん。やっぱり不穏な称号よりもこういうのが良いよね。
『人形遣い』は何らかの方法で人型や動物型の人工物を操るのが条件。『操作』は人工物を思い通りに動かせるスキルで、『死霊術』の別バージョンと言えるだろう。
必要な時に必要なスキルが手に入るってのは嬉しいね。
さっそく『操作』にメカウルフを任せてみる。……いい出来じゃないかな?隣の死体ウルフと変わらない動きができている。片目がないことを除けば結構かわいくて癒される。
波乱があった事を忘れて久しぶりの癒しを堪能しながら、趣味の時間は過ぎていった。