1.人生終わりました
平凡な日々だった。
毎日同じ時間に起きて同じ道を使い会社に行く。会社に行ってからもいつもと変わり映えのない仕事をこなし、夜遅くまで残業する。稀にある休日は少ない趣味を満喫し、明日はまた仕事かと思いながら一日を終える。
そんな日々は退屈でもあったが楽しくもあった。個人的には不幸が無いってだけで幸せなことだと思ってたし、毎日の衣食住は不自由無かったから。
こんな毎日が続くと思っていたが、それはある日突然崩れた。
その日もいつもと同じように駅で電車を待っているときだった。特に変わり映えもなく、昨日もこの人いたなぁとかどうでもいいことを考えながら時間を潰していた。
電車が到着する時のアナウンスが流れ、座りながら待っていた人たちも席を立ち列に並び始める。いつものことだから、特に気にすることは無いはずだったが、なぜか一人の女性に目が行った。荷物を持っておらず、お世辞でも綺麗とかそういえる人ではない。
彼女は列に並ぶ……と思いきや、電車の出入り口が止まる場所ではない所に歩いていく。さすがに様子がおかしい事に周りも気づき始めたのか、ざわつき始めたがそれは遅かった。そしてその女性は線路へと飛び降りた。
……一番前に並んでいた自分の手を掴んで。
電車の走る音、誰かが叫ぶ声、間近に迫る電車。そんな何もかもがスローモーションのように感じた。そんな中ではっきり聞こえた「ごめんなさい」という言葉。
……ああ、人生ってこんなにも簡単に終わるんだな。それも他人の手で。まだあれが完成してないのに。そんなことを死ぬ間際に考えていたせいか、走馬燈なんてものは見れなかった。一生に一度は見るものだと思っていたから残念だ。そう思いながら目を閉じ全ての考えを捨てた。
そしてそんな短いが長い一瞬の時間が終わった。
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これが覚えている最後の記憶だ。確かに死んだはずだけど意識がある。初めは天国かとも思ったけど、こんな真っ暗闇な天国なんてないだろうと思い、だったら今はどんな状況なのか考えてみる。
意識はある、五感は触覚が微かながらあると思う。だけど下半身が何か固いもので固められているようでピクリとも動かせないし、上半身は動くには動くがなぜだか思い通りに動いてない気がする。
もしかして生き残ったは良いもののかなりの重症なんじゃないか?それだったら今の状況にも合点がいく。
これはたとえ治ったとしても後遺症が確実に残るレベルだろう。一生病院暮らしもあり得るかもしれない。そうなってしまえば趣味も満足にできないじゃないか。
まずは生きてることに感謝するべきなんだろうけど、これからのことを考えると憂鬱だ。
とまあ、色々考えてたら苦しくなってきた。なんというか呼吸がし辛くなったそんな感じ。やばい、これは死ぬんじゃないかと思ったけど、それなりの時間がたっても大丈夫だったので、これも怪我のせいだということにした。電車に轢かれたんだから肺に問題があっても不思議じゃないからね。
しばらくすると苦しくなくなってきたし、きっと峠を越えたとかだろう。
……暇だ。体が動かないくせに意識だけは保っている。寝るっていうことも、体を使ってないからか必要ないみたいだ。それに一日の感覚がわからない。少なくとも呼吸が苦しくなって治ることが五回ぐらいあったぐらいだ。
前は仕事や趣味のおかげでここまで暇になることもなかったんだけど、さすがにこんなのは初めてだね。
でも、こんなのも悪くないね。何もしないってのは何も考えないってことじゃなく、逆に今まで考えなかったこともゆっくりと考えれるし、趣味で作ってたあれの完成を脳内シミュレーションをしてる時とかは結構楽しい。
さあ、今回も呼吸が苦しいのがなくなったから脳内シミュレーションを再開しよう。ここまでできたから、後はこれを付け足して終わりだね。
……ふう、頭の中でとはいえここまで完璧にできるとは、もう趣味の領域じゃないね。
【スキル:『想造』を手に入れました】
ん?これは……声?男女のどちらとも取れないような声が聞こえた。いや、聞こえたんじゃないな。頭の中に直接響いたみたいな感じだ。
というかスキル?ゲームにそんなのがあるって聞いたことはあるけど、どういうことだ?あと想造?想像の想と創造の造か?こんな言葉は知らないな。造語としてならありそうだけど。
むう……訳が分からないな。想い造るってことだから適当に妄想でもしとけばいいのかな?
えーと、木製の丸型で大きさは……テニスボールぐらいでいいか。これぐらいなら簡単に想像できるな。
思い浮かべると、力が抜けてなんか眠く感じる。今までこんな事は無かったのに突然どうしたんだろう?原因としてはさっきのだろう。よくわかんないけど何かが起こったみたいかな。
とりあえず眠気が限界だから素直に寝かせて貰おう。おやすみなさーい。
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おはよう。とは言っても朝か夜かわからないから、寝起きって意味のおはようだね。
眠気はきれいさっぱりなくなってるね。あと、久しぶりに寝たおかげか前よりも体調がよく感じる。これを続けていけば更に良くなっていくかもだし、どんどんやっていこう。
今回はもっと大きいのか複雑なのかだな。なんとなくだけど、大きくしたり複雑にしたりすると良い気がするからね。……よし、どっちもだな。効率良くやりたいから、欲張ってしまおう。
今回はそうだな、円錐にでもしてみるか。素材は鉄でなるべく先が尖っている感じのやつで、大きさは高さ一メートル底の直径が十センチぐらいかな。
想像すると前回と同じように力が抜けるが眠くはならない。そして、
【スキル:『想造』がレベルアップしました】
【ラーススモールラビットを倒したことにより、経験値を手に入れレベルが上昇しました】
【称号:『弱食強肉』を手に入れました】
【称号の獲得により、スキル:『格上補正』を獲得しました】
またこの声だ。今回はなんか倒してレベルが上がり、称号とやらを手に入れ新しいスキルが手に入ったらしい。
……本当にゲームみたいだ。体が動かない事をいいことにモルモットにでもされてるのかな?VR技術とかそんな話を以前友人から借りた小説に書いてあったっけ。だとするときっと失敗してるよねこれ。体の感覚がほとんど無いとか、全感没入型ゲームとかではありえないって。
あれ?そもそもVRって視覚だけだったような……まあいいか。
とりあえずさっきと同じやつをもう一回想像してみる。今回は力が抜けるのと眠気がやってきた。さらに、
【スキル:『複製』を手に入れました】
と、また新しいスキルが手に入った。これはたぶん全く同じものを想像したせいかな?そもそもさっきは何か倒したみたいだから、物理的にも何か変化があったはずだね。
想像したものが創造されたのかな?周りがよく分からないから、確かめようがないんだけど。
視覚がない状況で周りを調べるとすれば、蛇みたいな熱源感知とか蝙蝠みたいに超音波で位置を探るとかかな?
【スキル:『熱源感知』獲得にはスキルポイントが5必要です】
【スキル:『音波感知』獲得にはスキルポイントが3必要です】
……スキルポイントやらがあれば手に入るみたいだ。けど、そのスキルポイントは消費するのかな?だったら今どれだけあるかとか確認したいな。
【スキル:『自己ステータス閲覧』獲得にはスキルポイントが1必要です】
ふむ、確認するためにはこのスキルを手に入れろという訳だな。もったいない気もするけど、今後も使えそうな気がする。スキルポイントも1ぐらいなら大丈夫だろう。じゃあ、自己ステータス閲覧ってスキルを下さい!
【スキル:『自己ステータス閲覧』を手に入れました】
えーと、スキルは手に入ったもののどうやって使うんだ?適当に念じればいいのかな。
すると声とは違うが、頭の中に文字が浮かび上がる。
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名前:***** 種族:レッサーマイナープラント LV3
状態:-
ステータス
HP:135/135 MP:2/13
攻撃:5 物防:10 器用:13
魔力:15 魔防:6 知能:11
速度:2 幸運:7
振り分け可能ポイント:3/3
<アクティブスキル>
光合成LV3、想造LV2、複製LV1、自己ステータス閲覧LV-
<パッシブスキル>
言語理解LV-、貯水LV2、格上補正LV1
使用可能スキルポイント:3
<称号>
『異世界人』『意志ある植物』『弱食強肉』
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プラントって植物のことだよね?ってことはなに?今の自分は植物ってことなの?しかも称号の異世界人ってことは、元の世界とは違うってことだよね。
……ああ、なるほど、そういう設定ね。異世界に植物として生まれたとかそういうゲームなんだろう。変わったゲームを作ったもんだね。目標とかあるのかな?
それにしても、これで体の異常は説明ができるね。下半身は根っこで土に埋まってるんだろう。上半身はそもそも人の体と違うんだから思い通りに動かせないのは当然だ。五感がないのも植物に五感があるとは思えないしね。
さて、色々衝撃的なことがあったけど、今やるべきことは一つ。周りの様子を知ることだ。熱源感知を今は取れないから、音波感知をとることにしよう。
【スキル:『音波感知』を手に入れました】
あれ?ステータスで見た限りではパッシブのはずなのに、ほとんど変わってない。これが音波かな?と思えるものが見える程度だ。どうしてだ?
……あっ!よく考えれば蝙蝠って自分で超音波出してたんだっけ。
その辺を飛び回ってる音波を拾えても、どこに当たったとかが分からないと周りの様子なんてわからないよね。しかもこれレベルが低いせいか、細かくわからないし感知できる範囲もそんなに広くない。せいぜい一メートルもないな。
超音波出せるようになるスキルとかあるのかな?
【スキル:『超音波』獲得にはスキルポイントが7必要です】
あっはい。どうやってスキルポイントを手に入れるか分からないから、7ポイントがどれだけのものなんだろう。少なくとも『自己ステータス閲覧』七つ分だね。
はあ、選択間違ったなぁ。でもやってしまったものは仕方ないし、そろそろ眠気が限界なのでこの話は置いておこう。じゃあ、おやすみ。