更地の空き家
右を見ても更地。
左を見ても更地。
下を見ても更地。
上を見れば晴天。
さて、ここはどこだろう。
見渡す限り更地のここには、人影なんて一つもありはしない。私だけだ。
「…ん~」
私は人の目を気にする必要が無いとわかったので、素肌には刺激が強い気もするが、その場に胡座をかいた。
いや、痛いよ?けど立ってるの疲れたんだよ、足に血が溜まってるのよ。
「ここ、なんか見たことあるんだよねぇ」
これだけ何もない更地で、見覚えがある無いも関係ない気もするが、私はそう感じた。
「テレビかな?……写真?」
直接ではない気がする。間接的にこの場所を見た気がするのだ。
何で見たのか…全く思い出せない。
私はうんうん唸りながら、手で地面に意味をなさない何かを描く。
しばらく考えたが、無理だった。
「なんだったかなぁ本当に…」
もやもやしているのが気持ち悪いが、思い出せないものは仕方が無い。私は溜息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
「とりあえず、服だな」
普通なら喚くところだが、あいにく宮元はそんな人間じゃない。
女子力欠如、未確認生物。そう呼ばれた女を舐めるな。
不幸中の幸いとして、更地の土はサラサラとしていた。歩いても痛くない。
毒を持つ生き物がいない事を祈りながら、さっさか歩くことにする。
「…………あれ」
暫く歩くと、更地にぽつんと建つ一軒家を発見した。やはりどこか見覚えのあるデザインで、さらに首を傾げることにはなったが、とにかく建物がある。
「…刺激的すぎるかな」
中にいる人がロリコンだったらどうしよう、なんてことをわりと真剣に考えながら、その一軒家に近づいた。
こっそり中を覗くために窓を覗いてみる。
「あれっ?!空き家?!」
無駄になったが。
思わず窓に張り付いた。中が明らか空き家だったからだ。
黒く変色した木で作られた椅子とテーブル、ボロボロになったカーテン、虫食いだらけの壁、色んな破片の飛び散る床。
つい最近のものではない雰囲気が漂っていた。
壁に沿って歩くと、これまたボロボロになった扉を2つ見つけた。比較的大きい方は押しても引いても上げても下げてもスライドさせても開かなかったので、ぐるりと一周しながら小さい扉の方に戻る。
小さい扉から少し離れたところに看板が立っていたが、今は無視した。
「神は私に押せと言っている!」
私はそんなことを呟いて、扉を押してみた。
ぎしぃい
軋んだ音が大きく響き、人一人が通れるくらいの隙間があく。
AとBの中間サイズな胸を持つ私の敵ではない。
すんなり入った。ちょっと殴りたくなった。
中に入ると、思いの外明るい。そして、やはりどこか見覚えのあるものだった。
私がいるのは、水道があるのを見ると、どうやら台所らしい。この扉は勝手口だったのか。なるほど。
「……あれ、この花……」
台所を出て、リビングらしきところに出る。そこには枯れた植物が生けられた古い花瓶があった。ぎりぎり花に見える。
「…いや、でも、……!棚!」
見覚えのある花を見かけて、私は一つの仮定を考えた。が、それはとても現実的ではないものだった。
嫌な考えに流石の私でも冷や汗が垂れた。
それをどうにか否定しようと、リビングに置いてある棚に駆け寄った。その中にとある物が入っていれば、もう、仮定は仮定ではなくなる。
この時点で私は気付くべきだった。というか、なぜ気付かなかったのか。
「…癒しの草…ある…」
見覚えのある更地。
見覚えのある一軒家。
見覚えのある家の中。
見覚えのある、花。
どうして忘れていたのか。どうして気付かなかったのか。私はあんなにもハマっていたのに。極めていたのに。
私はたまらず、勝手口から外へと飛び出した。
少し離れたところに立っている看板に駆け寄る。
「……嘘」
『更地の空き家』
そこには、全世界共通オンラインゲーム『キーパー―語り継ぎし血―』の最初のステージの名前が記されていた。