違和感
「宵大臣にでも呼び出されましたか?」
天迅は話してもいないのに眞郢が宵に呼び出されたことを気づいていた。
つまりはそれほどに宵をよく知っているのだ。
「あぁ。余を呼び出せるのは宵大臣くらいのものだ。」
「何のお話でしたか?」
天迅は笑顔だが、眞郢にも悟られぬよう目の光を強くする。
「牙狼の伝説について少し聞いてきた。」
天迅の動きがほんの、ほんの一瞬止まる。
が、話の内容について未だに考えていた眞郢はそのわずかな変化に気付かなかった。
「天迅は牙狼の伝説は本当にあったことだと思うか?」
珍しく天迅の受け答えに間が出来る。
「…私は情勢など興味もなく暮らしてきたのでなんとも言えませんが、火のないところに煙はたたぬとも言いますからね。きっとそいつはとんでもなく冷たい人間なのでしょう。」
眞郢は天迅の答えにかすかな違和感を感じ取った。
「…天じ、」
「眞郢様、そういえば課題はもちろん終わっているんですよね?」
否を許さない天迅の笑顔に眞郢はついこえを洩らす。
「うっ、それは…そのだな。」
「貴方なら出来る量と内容のはずなのですがねぇ」
天迅の笑顔が黒くなる。
その日結局眞郢は違和感のことを思い出すことも出来なくなるほどの課題を言い渡されたのだった。