狼牙伝説
「宵大臣、わざわざ呼び出して何の用だ?」
眞郢に用があって、わざと呼びつけるようなことをする人物はこの老人くらいなものだろう。
前王の側近だけあって他の官吏たちからの信頼や尊敬が大きいからできることだ。
「天迅が教育係についたことでの、ある程度ぶたいが整ったのじゃ。」
老人はニヤニヤと笑いながら意味ありげに伝える。
「何のことだ?」
「眞郢様は狼牙についてどこまでご存知かな?」
「…国の伝説の暗殺者だと。その者は恐ろしく強く、反逆者をたった1人で何百も殺し、国の汚れ仕事を一身に背負って国を支えた影の英雄だと。そしてその者は父に付いていたと。」
宵はなるほど、というように頷く。
「間違ってはいないのう。だが、大事な情報が欠けておる。」
「大事な情報?」
「その者は、国を守護する7人の神に寵愛を受けて育った。その事もあり、その者は皇帝の選定に重要なあるものを託されている。それがなければ王にはなれない。」
宵は眞郢が王を本気で継ぐ気になっていることを知ってこのように言う。
「狼牙は今どこにいる?」
「クックックッ。そう、慌てなさるな。それを探し認めてもらうことが貴方の試練となるのじゃ。私が手伝ってしまえば認めてはもらえないでしょう。」
さもおかしそうに笑う宵に眞郢は苛立ちを見せる。
「そう、怒らないで下さい。その者も自分がその役を受けていることを知らないのです。だから、あまり吹聴すると難しくなりますよ。」
宵はさらに追い討ちをかけるともう話はないとばかりに奥の部屋へと姿を消した。
「狼牙はただの伝説だけではないのか。」