王位を継ぐ者
青年は心底驚いていた。
教育係が付くことは王位を継承する皇子にとって珍しいことではない、むしろ後継者として認められたと喜ぶくらいだ。
だが、青年は違った。
王位を継ぐつもりもなかったし、嬉しくもなかった。
だから、わざと教育係からにげた。
逃げたのは3人目で、これまであからさまに逃げれば他のものは5日位で自信をなくしていた。
だが、今目の前にいる教育係は自分が葵眞郢だと分かってわざとこんな態度を取っている。
自信とは違うようだが、皇子である自分の前でも全く余裕な態度をとるものだ。
しかも、見たところ年はそこまで離れていない、あって10の差といったところだろう。
「皇子が現れないことに苛立ちはないのか?」
ついつい聞いてしまう。
「…もちろん、かなり怒っていますよ。ただ、その価値すらないともおもっているので。」
教育係の笑顔は崩れなかった。
下手すれば死罪となるであろう発言だというのに。
「ならば、何故まだここにいる?」
「別に、それが私の仕事で、命じられた事だからですよ。」
あぁ、またおなじなのか。
そう思っていたが、違った彼は待っていた種類の人間だった。
「ただね、このままでは私と同じ苦しみを味わう人間が出るのですよ。…国の為王の為、そういった言葉で誤魔化すことも許されない。
それは、嫌なんでね、だからわざわざ嫌な役を引き受けたのですよ。」
この言葉は宵にも話さなかった天迅の本音だった。
皇子がこれをどう受け取ろうと構わなかった。
国を変える気がこれっぽっちもない皇子だったら切り捨てるつもりだった。
「天迅と言ったな。この国は変わると思うか。私は変われるだろうか。」
天迅は小さく目を見張る。
「変えるつもりがあるのなら。」
天迅の言葉は短かった。
だが、やる気のない皇子にその言葉をかけるものはいなかった。
「ならば私は変わらなければ…改めて自己紹介しよう。余は葵眞郢、前王の末息子で唯一の王位継承者だ。権力に目の眩んでいない貴方に今日からは王になるべく教えを乞おう。」