皇子の噂
「は?」
天迅は自身でも間抜けなこえを出したことを自覚していた。
「いった通りじゃ。次期皇帝の候補で残っている先代の息子は末の葵眞郢だけしかおらん。割りと世間にも出ている話しじゃぞ。」
「私は私はもうこんなところに来ることはないと思っていたので、情勢など知りませんよ。」
聞いた話をもう一度頭のなかで整理した天迅は今度は嫌味を込めてゆっくりと言う。
「で、なぜ貴方がいながらこんなことが起きたのです?」
「不可抗力ってやつじゃ、儂も先代には派遣争いへの介入を禁じられていたものでな。上3人のあには皇帝暗殺の容疑で処刑、眞郢の1つ上の皇子は誘拐されて行方不明。まぁ、こちらはある意味心配ないがの。」
宵の言葉に天迅が少し苦い顔をする。
「介入しないどころか傍観者を決め込んでいたのか。」
「仕方なかろう、人間の醜さは儂でもとどめられん。むしろ、入ってこじれるよりは良かろう。」
その言葉に天迅は返すことができない。
突き詰められれば、彼は傍観者どころか他人のふりを決め込んでいたのだから…。
「で、その眞郢とはどんな人柄なんです?」
「先代とは似ても似つかない馬鹿なヘタレという感じじゃ。」
…はぁ。
思わず天迅はため息をこぼす。
ただでさえ来たくも無かったのにダメ皇子のお守りをしなければならないなんて。
「今さらやめることはできないぞ。」
「辞めさせてください。」
「ダメじゃ。」
「お願いします。」
「天迅。」
「絶対に嫌です。」
「…戒斗。」
「!…」
宵に特別な名で呼ばれると
天迅は口を閉ざした。
「……わかりました。」
不機嫌さは増したものの、了承のことばを口にする。
「但し、どうしてもこいつじゃダメだと感じたら即刻切り捨てる。私の過去を振り替えって。」
「そう言うと思っておったよ。仕方なかろう。お前は狼じゃ。」
宵は静かに、そして、なぜか少し悲しそうに頷いた。