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夏生詩集2

かなしいもさみしいもなく

作者: 夏生

タイトル変更、内容一部変更しました。

家の中で寝たきりになった

祖母と

顔を覆いながら泣いている母の姿


私は幼く

泣いている母をどうにか慰めようと

いや、泣いている母をみて

こわくなったから泣くことを

やめてほしさに玩具を

母の前に並べた


家の中は

朝も昼も夜も同じ顔をして

私は母や祖母を見上げて

兄の苦しげな咳を背後に

聞いていた


かなしいもさみしいもなく

私は湿った部屋の中で

時をぐるぐる回して遊んでいた


ある日

部屋が薄暗くなった

祖母の胸には鞘におさまった短刀が

鎮座していた


短刀にはきっと祖母の血がついている

かなしいもさみしいもない母の顔


母が祖母に短刀を突き刺したと

思った

母が終わらせたのだ、と


幼い心は残酷を知らない

母は空気を入れ換えるために

窓を開けた、と思うのと

感覚は同じだったのだ



母が真っ白い布を取ると

真っ白な祖母の顔があった

鼻の穴に真っ白な綿がつまれていた


私はかなしいもさみしいもなく

祖母の鼻の穴を不思議な気分で

眺めていた


静かに壊れた音が流れて

私はこわくなって父の手を握った


長い箱の中から祖母の顔だけが

見えたとき

魂の抜け殻の、入れ物の

真っ白なものを突きつけられた

と、身が震えてしゃがみこんで

しまった


箱の蓋がしめられ、杭を打つ音が

止めを刺す激は

生きている者と亡くなった者とを

引き裂いた


祖母は病で亡くなった

短刀は黄泉の旅路のお守りだった


祖母の命日がくるたびに

顔を覆って泣いていた母を

かなしいもさみしいもない

母の顔を思いだし

幼い心の中で見た

祖母の血に染まった短刀を

思いだす






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