朝鮮誅伐3
「一刀。ハッキングは終わった。運送会社は予想した通り敵と組んでる」
「よし。王輝はこのまま南へ後退。江原道で止まり、こちらの指示があるまで中央線戦を横広に展開。敵の侵入を防がせろ」
「あいよ」
一刀の指示を、シャーレイは他の者たちへ電子通達。二人の前に広がる画面上に映る仲間たちのうち、王輝がコクリと頷き、皆へ指示を出している。
「でも、運送会社までグルだったなんて」
「驚くことでもないさ。この会社が設立されたのが今から約八十年前。当時の創設者は王家からの援助のもとにこの会社を建ち上げたらしいからな」
「つまり、恩義のため?」
「と言うよりは忠節かな。元々縁のある関係を築いていたのは知っていた。創設者は王家の元騎士だったとかなんとか。ホントかどうかはわからないが、王家の存在を邪魔と考えていた者たちによる幾度かの暗殺計画を阻止してきたのがこの会社の面々なのは確かだ」
モニターに映る仲間たちの動きを見ながら、一刀は淡々と言う。画面の中では自身直属の影組織たちが、一方では敵組織を殲滅し、もう一方では敵の後を追い、車を走らせていた。
「ハッキングした情報はこの大手が直轄して全てを管理しているのか?」
「どうやらそうでもないみたい。彼らが所持していたのは売買利益、年間予算と収支表。後は子会社たちの社員情報の一部のみだけみたい。経営戦略の方針は大手が考えるみたいだけど、その戦術は子会社たちが独自で作り上げていくそうだよ」
「戦術次第で運搬の行動も変わるか……」
一刀は手に顎を乗せ、さも不愉快そうに額に二本の横ジワを作った。
「今更子会社を狙いに行かせるのは愚策だな。二組織を忠清道海岸沿いに展開。できるだけ高いビルに昇り、この運送会社と契約関係にある中小企業たちの運搬状況を把握しろ」
彼の次の指示に、朝鮮南地帯で待機していた者たちが承諾。朝鮮南右側の慶尚道に一組織を置き、残りは忠清道海岸沿いに広く陣形を取り始める。
「一刀。この戦い。もしかしなくても王たちに地の利があるよね」
「ああ。運送会社に大手に情報の全てを寄越させなかったのも、この来る反乱に備えての行動だったんだろう。
交通経路断絶。増設。舗装。昨今よく作られていたのはこのためか。運送会社の社員たちもとい、影組織の面々に経路を覚えさせたのも全部が反乱のため。ここで、二極傘下の者を打ち倒せば、朝鮮の権力は名実ともに奴らの者になる。そして裏組織としての昇格ももしかすれば――いや、もしかしなくとも決定事項だろう」
「彼らが裏組織として認められるの? 寧ろ他の組織たちを敵に回し兼ねない状況に陥るんじゃないの?」
「そこら辺は、王自身も考えてるだろうよ。私怨のためとはいえ、いきなりそれがなせるとは考えてはいまい。だからまずは実力を見せる。実力を見せ、自分たちにはこれだけの力があるのだと証明した後、二極へ謁見し、謝罪の意を込め偽りの忠誠を誓う。不審に思われはするだろうが、幾度かの戦で貢献していくことによって蟠りを失くさせ、信頼を勝ち取る。そして頃合い今かと判断した時、二極を殺す」
「二極暗殺の果て、自分が再び極位の座に返り咲くって戦法ってわけか。中々良く出来たシナリオじゃない」
口では言いつつも、シャーレイの表情に感心したような色はない。何の感情も抱かず、ただ目の前にある情報と仲間たちの行動を照らし合わせる作業に入りこんでいた。
「でもそれって。過去に例があるの? あたしはそんなの聞いたことないけど」
「あるじゃないか。お前のすぐ近くにいる人間が、それをやり遂げた有名人だろ」
「え?!」と言う声と共に、シャーレイは座っていた椅子を反転させて一刀を見る。最初は驚きで目を見張っているも、やがて何か理解したかのか、椅子の向きを元に戻して作業に戻った。
「あ。彰から通信が入ってる」
「繋いでくれ」
作業に戻った矢先。画面右端にコールの表示が出される。一刀に促されたシャーレイはすぐに通信に繋ぐと、大きな爆発音が二人の鼓膜に襲い掛かった。
「いっつ! ちょっと何!?」
『すまんすまん。今ちょっと一悶着あってな。とりあえず終わったから気にすんな』
突然の衝撃音にシャーレイは強い頭痛を感じながら画面を見やる。彰との通話が繋がった画面の大半は、道路が燃えていた。辺りに車の部品らしきものが乱雑し、彼が率いていた組織の者たちが忙しなく動いている。
「彰。状況は? 進展はあったか?」
『まあな。ともかく犯人たちは全員捕縛した。だが最悪だったな。こいつら朝鮮人じゃねぇ。中国人だ』
「何?」
『嵌められたんだろうな。俺たちもこいつらも。こいつらが王たちと関わりがあったのは事実だが、伯蓮の野郎は初めから彼らを囮として起用してただけみたいだ」
衝撃の事実。彰の表情にも曇りが見て取れた。
『これから荒れるぞ。この半島は』