番外編 彼岸花のその後
拍手お礼画面へ掲載した小話を、加筆修正したものです。
時系列としては一応、9話のその後となります。
お母さんと娘の対話です。
「あらあら、まぁまぁ。珍しい花束ね」
十和の母は、娘が持ち帰った彼岸花を眺めて、おかしそうに笑った。
母の好意的な反応に、娘は不本意だと言わんばかりの顔になる。
「先生から押し付けられたというか……先生が、植物園で引っこ抜いちゃったものなの」
露芝家で「先生」と言えば、ほとんどの場合、三潮のことを指している。
だから母は、更にコロコロと笑った。
「みっちゃん先生ったら、相変わらずアナーキーなことをなさるのね。さすがね」
「さすが、じゃありません! 単に常識がないだけでしょうっ。こんな危なっかしい花を、素手で抜いちゃうだなんて……」
実年齢にそぐわぬ、暗い顔で呟いた娘の頭を、母は軽く撫でる。
「きっと先生はピュアなのよ、ピュア」
「お母さんって、いつでも前向きね」
「この年まで生きていれば、そりゃたいていのことは、前向きに済ませられますよ。それにお母さんも小さな頃は、彼岸花が大好きだったもの」
「そうなの?」
「だって素敵じゃない。真っ赤で、形も華やかで」
母に微笑まれ、十和は改めて彼岸花を見下ろす。ため息一つ、小さく肩もすくめる。
「何も知らなければ……可愛い、とは思うけれど」
「でしょう?」
物入れから素焼きの白い花瓶を取り出しつつ、母は続ける。
「別名もおめでたい感じの、曼珠沙華じゃない? 毒があるって知らなければ、なかなかどうして可愛いお花よ」
「ええ、まぁ、見た目はね」
花に罪はない、と十和の表情からも刺々しさが抜ける。
そこへすかさず、母が問いを投げかける。
「そうだ十和。あなた、彼岸花の花言葉って知ってる?」
台所へ向かいながら、十和は小難しい顔で首をひねる。
「花言葉、ですか? 彼岸花ですし、『別離』や『死者』かしら」
「うーん、惜しいっ。『悲しい思い出』っていうのはあるわね。あと赤いから、『情熱』とか」
「『情熱』って、なんだか意外」
受け取った花瓶に水を張り、十和は生真面目な顔でそれを聞いている。
その顔をじっくり眺めながら、母は最後に、含み笑いで言い放つ。
「あと……『想うはあなた一人』なんていうのも、あるのよ?」
「そう、なんだ」
しかし意外なことに、十和の反応は薄かった。
「あらあら。案外、素っ気ないのね」
からかおうと思ったのに残念、と母が、娘の顔を盗み見たところ。
満開の彼岸花にも見劣りせぬ赤面が、そこにあった。




