タイトルなし
『う、うぅーっ、菜採ーっ』
『何をいつまでも哀しんでいるの……ユナ』
『うぅぅーっ、ひっく……だってユナがぁ』
『煩いな、ユナは。アレはあんたがしたんじゃない』
『え? ユナは何もしてないよ?』
『うぅーっしたよーユナがぁ菜採をーっ』
『ああ、煩い。さっさと黙れよ泣き虫ユナ』
『何も覚えてないならユナが思い出させてあげる』
『フフッやっぱりユナは優しい』
『うぅーうぅー菜採ぃー』
『ユナ、アナタが菜採のハラワタを引きづり出していたじゃない』
『うぅーうぅー、やっぱりユナがやったんだぁーっ』
『ああ……思い出した。確かにそうだったな』
ごぽ
「……そうか、で、私のハラワタは何色だった?」
ごぽごぽ
『……え』
クシャ
――――
ごぽっごぽごぽ
「ああ、またか。めんどくさいな」
今日はよく雨樋がつまると菜採は一人ボヤいた。
雀が巣でも作っていたのだろう。
藁や枯れ枝が排水口に引っ掛かっては中をつまらせていた。
「あら、菜採。雨の中何をしているの?」
「おお、西院。おはよう……じゃなくてこんにちはだな、時間的に」
雨が降り頻るなか、菜採が雨樋の排水口をほどいた針金ハンガーでつついていると、門の所でピンクの傘をさした女、西院 多摩子が微笑みながら手を振っていた。
菜採は作業を中断して西院へ手をふりながら挨拶する。
「ふふ、こんにちは。あら? 雨樋がつまってるみたいね。今から梅雨だっていうのに……」
「ああ、大変なんだ。何度やってもつまってな。上からびしゃびしゃと溢れてきやがる」
菜採はやれやれと首を竦めた。
西院は大変そうね、と一言だけ呟く。
「で、私に何か用か、西院」
「ん、ああ、そうだった。あなたにお届け物よ」
思い出したように西院は黄色い包みを菜採へ手渡した。
「私にか? 一体誰が」
「ユナよ」
「おお、ユナか。中身は……ほう、可愛い人形じゃないか。ちゃんと首を取ってあるなぁ」
「……ねえ、菜採?」
「なんだい?」
「あの時……あ、ユナが暴れた時よ? あなたはユナを止めてワザワザ家まで送り届けてくれたらしいけど……それ以来ユナの様子がおかしいのよ」
「……そうか」
「運び込まれた時は衰弱していてやっと目をさましたら、貴方の名前を呼んで……何か変に笑うようになって」
「……心配だな」
「ええ、心配よ。貴方にも心当りはないの?」
「……無いさ」
「そう、ならいいわ。たぶんユナも寂しいと思うの。貴方になついているし……だからたまにはユナに会いに来てあげて」
「そうだな。たまには遊んで殺らないとな」
「うん……そのついでにでも私の所に寄ってくれればなおのこと嬉しいわ」
「ああ、ついでじゃなくとも行くさ」
「有り難う。じゃあね?」
「おお、じゃあな」
手を振りさって行く西院の背中を見つめながら菜採は優しく微笑む。
「ユナはホントに良い娘だな」
ごぽ……
つまった雨樋から溢れた雨水がびしゃびしゃと菜採の頭へ降り注いだ。
「あー、これは本格的に着替えないとなぁ」
――バキ
菜採は腹立たしげにつまった雨樋のパイプを蹴り飛ばした。
――
なんとも梅雨の雰囲気とは違う心暖まるお話ですねえ。
これぞハートフルコメディというやつです。
しにてぇ。