三島と山田
「ふぁ……んぅっ」
大きくのびをする。全身がピンッと硬直し、無意識に声がこぼれる。
数秒の後、フッと力が抜けてまた後ろへボフッと倒れこんだ。
「はぁー、朝かぁ。バイト、行かないと……」
口ではそんな風に言っているが、体は一向に起き上がる気配をみせない。
ぼーっと天井を眺め、ただただ寝起きの気だるさと朝独特の空気を噛み締めている。
このまま二度寝しちゃいたい……そんな考えも頭をよぎる。
低血圧というワケではないが、私は寝起き直後の覚醒が遅い。
頭ではあーだこーだ考えているのに、体が動きださないのだ。
自分でもなかなか困っている。
「んむ……頭、いたい」
それと理由がもう一つ。
実は昨夜に一人宴会を開いたために二日酔い気味なのも今朝の目覚めの悪さに関係していた。
ウコンなんか効かないくらい呑んだ結果だ。
ともかく私はどうしようもなく午前中に入っていたバイトをサボりたかった。
「あいつに……山田くんにシフトを……」
枕元のケータイに手を伸ばす。
今の時間帯ならきっとまだシフトを変える余裕があるはず。体調不良とか言って甘えた声を聴かせりゃ山田くんは簡単に代わってくれるはずだ。
ケータイの電話帳をひらき、その中の『山田くん』に通話ボタンを押す。
「頼む……山田、起きていてくれ」
プルルルと何度か呼び出し音が鳴る。
30秒くらい待ったがなかなか出ない。
それでも諦めずに待つこと45秒。ついに奇跡は起きた。
『はい? もしもし?』
キタァーッと心のなかで絶叫。良くも悪くもない平凡そうな声に安堵の息をもらす。
すぐさま用件を言うために声の調子を整える。
「んっ、あのぉ……山田くん? 朝早くゴメンね?」
『おお、三島? なんか様子が変だな? 大丈夫か』
さっすがは山田くん。私の異変に即座に気付き対応してくれる素晴らしい男子だ。
私は声の調子を保ったまま続ける。できるだけ甘く、弱々しくがpointだ。
「うん、ちょっとね風邪をこじらせちゃったみたいなの……」
『そうか、心配だな……あ、そういえばお前、午前にシフト入ってたな?』
「そうなの。でもかなりキツくて行けるかわかんないんだ」
ここで私はあえて「代わってくれないか?」ではなく、「行けそうにない」という言い方をした。
何故ならば、こう言うことで優しい山田くんは勿論「バイトのことは心配するな。お前は一日ゆっくり寝とけ」と言ってくるはず。これなら山田くんが自主的に動いただけで、私には何がどうなっても責任は無いからね。
我ながらなかなかの策士だと思うよ。
私が心中でほくそ笑んでいることなど露知らず、山田くんは優しく私を慰めるように労るように声をかけてくる。
勿論私の思惑通りに。
「……三島、バイトのことは心配するな。お前は一日ゆっくり寝とけ」
「え、でも山田くんに悪いし……」
予想通り、まさにドンピシャな言葉に顔の緩みが止まらない。
しかし、私はここでもあえて素直に好意を受けとることはしない。
軽く思われてしまうからだ。
本当に辛くて、でも罪悪感で休んだり任せたりすることに躊躇してしまう……そんなか弱く健気な少女を演じる。
山田くん(カモ)はそのシチュに弱いのだ。
『心配するなって言ったろ? 大学のレポートも出せるのは代わりにやっといてやるよ』
「山田くん……ホントに良いの?」
『ああ、俺と三島の仲だろ?』
「……ありがとう。大好きだよ山田くん」
『っ……講義終わったらできるだけ早く行くから』
ヨッシャーイッ!とガッツポーズ。ちょろいぜ山田ぁ!
あ、ちなみに山田くんこと山田 慧は一応私の彼氏だ。まだ日が浅いので苗字で呼びあってるが。
私の愛の囁きで完全に僕と化した山田くん。
まさか講義のレポートまで出してくれるとは。嬉しい誤算。これで一日遊んでられるぜ。
『んじゃ、店長にも一応連絡いれとくから。暖かくして休めよ』
「うん、ありがとう。ホントにゴメンね」
『いいって。じゃあな』
「うん……」
プッと音がして、通話が切れる。
……瞬間。
「よっしゃーッ!! 溜まってたギャルゲ消化するぜーっ!!」
さっきまでの眠けと気だるさは吹き飛び何故か別の目的を打ち立てていた。
三島 遊莉
・20歳
・身長:162㎝
・体重:??
・スリーサイズ:不明:不明:不明
山田 慧
・21歳
・身長:172㎝
・体重:60k