第七聖域 諦めない強さ
まさしく稲妻による電気椅子のような処刑。
アインの電流には1000万もの電圧があると言うのにリオはそれを何十発も食らいながらも立ち上がって見せた。
アインは心の中では驚きを隠せないでいた。何せアイン自身これほどまでに『アテリオスの能力』を一人の魔族に対して使ったことはない。
悪魔の生命力とは恐ろしいものだとアインは心の中で思っていた。
「あーあ。ノリで無駄なエネルギー使っちゃったな。これ残業代くれるのかな? ま、どうでもいいや、早く仕事終えて帰ろうっと」
アインはリオを背にウラノスを探しに行こうとしていたその時だった。
「待て……この野郎……」
聞こえてくるはずのない声の持ち主にアインはギクリと反応し慌てて背後を確認する。
アインは目の前の光景に思わず口をこぼした。
「な、……ッ! バカな!」
アインの視線の先には神木リオが立っていた。
体全体が凍結したかのようにアインの動きが止まる。
「まだ……終わって……ない」
そうリオが呟くと再びリオの体には紅いオーラが立ち上り始め瞳の色も真紅に染まっていく。
アインはこの時思った。
(何故だ。あれほどのダメージを喰らって何故立っていられる? 普通の魔族でも一度触れれば即死に近いほどの電撃をあれだけ食らって何故なんだ!?)
そして、リオは一本の長いミカエリスソードを作り出し剣先をアインに向け睨む。
「俺は……ウラノスを……守ってみせる」
その時アインの心臓がドクンと跳ねた。
そしてリオの目つきに臆したのか、アインは後方へと一歩後ずさり体は震えていた。
「行くぞ!」
戦いの火ぶたは切られた。リオはミカエリスソードを構えながら掛け声とともにアインへと突進していく。
アインは全身に走る震えを吹き飛ばし、叫ぶ。
「――――凄惨する雷鳴!!」
先ほどと同様にアインの手のひらの上に轟音を轟かせながら電撃の球体が出来始める。
だが、リオは全く動じずにアインのもとへ駆け抜けていく。
その光景にまたしてもアインの体は震え、慌てて叫ぶ。
「――――碧血の楽園!!」
その掛け声とともに放たれる無数の稲妻の光線。その全てがリオ目掛けて降り注ぐ。
アインの顔には勝利を確信したかのように笑みが浮かぶ。
リオのいた辺りは煙と焦げ臭さが充満しアインも確かな手ごたえを感じていた。
「ははは、あはははは! すごいよ君! まさかこれほどまでに僕の電撃を喰らって生きていられたんだから。でも相手が悪かったようだ。能力には相性ってものがあるんだよ。そんな淡白な力じゃ僕には………なッ!」
煙が晴れていくとアインは煙の中にうっすらと見える人影に対して言葉を失うほどに驚愕した。
「何故! 何故なんだ! どうしてまだ生きてる!」
そこにはまだリオが立っていた。その姿はアインから見ても血だらけで複数の皮膚も焼けただれてボロボロの状態の神木リオがまだ立っていた。
「お前……確かにつぇよ。俺はお前に勝てるほどの力もなけりゃ……経験値もねぇ」
そう言いながらリオはミカエリスソードを再び構えアインのもとへ走る。
「だけどな。決めたんだよ……たとえボロボロになっても守らなくちゃいけないって決めたものがあるなら……それは絶対に諦めちゃいけないって! 諦めたらそこでゲームは終了なんだよ! だから俺は諦める訳にはいかない! いかないんだ!!!」
そう言いながらリオはアインのもとまで行くと力いっぱいミカエリスソードを振り下ろす。
キンッと鉄と鉄が交差した金属音が辺りに響いた。
「ようやくお前に刃が届いたぜ!」
アインはリオの攻撃を手にしていた槍で受け止めるがアインはリオの力に押されてる。
(くそっ! こいつこんなにもボロボロなのになんて力だ。お、抑えが……効かない)
まさに力比べ。だが、アインにはリオの刀を受け止めきれるほどの力はなかった。
(まずい、このままでは斬られる)
そう思ったアインはとっさに抑えていた一つの片手をリオの腹部に向けるとリオの腹部に向けられた手のひらからまるでレーザーのような光の光線がリオの脇腹付近を貫通した。
「うぐっ!」
その瞬間リオは痛みに耐えるように小さく悲鳴を上げた。
今度こそ終わりだ……とアインは小さく笑う。
そう思ったアインだがリオの力はまだ弱まらない。
「な、なにっ!?」
その事実にアインはまたしても驚愕する。むしろこれは恐怖と言っても過言ではない。
そして、リオは最後の力を振りしぼり…
「切り裂けぇぇぇぇ!!」
リオがそう強く叫んだ時、終焉が訪れたかのようにリオのミカエリスソードを押えていたアインの槍が綺麗に真っ二つになる。
そして、その勢いでリオはアインの体を斜めに大きく切り裂いた。
その衝撃でアインの体は後方へと吹っ飛ぶ。
リオは酷く荒い息をしながらその場に重たく感じる体を刀で支えながら片膝をつく。
吹き飛ばされたアインは酷く切られた傷口を手で押さえながらよろよろと立ち上がり動くこともままならない様子だ。
「どうやら……ここまでのようだね。流石に僕も死ぬのはごめんだ。いいよ、君の勝ちだよ」
そう呟きながらアインは口から出てくる吐血を手で押さえた。
「今日のところは……見逃す……だけど、僕たち天魔は……絶対に天使を破壊する。君がどこまであがくことができるか楽しみにしてるよ……」
そう告げたアインは電気の粒子となって何もなかったかのように姿を消した。