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空界上のサンクチュアリ  作者: 葵山理輝
第1部 出逢い
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第六聖域 アテリオスの雷(いかずち)

アインの問いに俺は、戸惑うことなく答えてやった。

「ああ。そうだ」

 それを聞くとアインは地面に転がっている槍を拾い小声が届きそうな範囲まで近づいてくる。

「そうか。悪魔か。おかしいとは思っていたよ。人間の君から魔纏いを感じたからね。それにしても珍しい。悪魔なんてものがまだいたなんてね」

 アインは、ようやくこの理解不能の現実の全てを理解したと言わんばかりに小さく笑う。

「差し詰め悪魔と人間のハーフと言ったところか?」

 どうやらアインは、もう俺が何者なのかを理解しているらしい。

「だから、なんだってんだよ」

 俺は、挑発的に口を動かした。

 そう言うとアインはフッと鼻で小さく笑うような音を立てた。

「悪かったよ。僕は君が人間だと思っていたからつい手を抜いていた」

 アインは手にしている槍を地面に向けて強く突き刺す。

「だけど。魔族なら手を抜く必要はないよね。悪魔と殺り合うのは初めてだけどまあいい。教えてやるよ。僕の『魔血族名(せいしきめい)』を……ね」

 そう言うとアインの体は、急に青白い光をまとい始める。そして聞こえてくるのはバチバチと言うまるで電線コードが弾けるような音。

 アインの体には、無数の電撃が体にまとうように走っている。

 ―――マジかよ。

 今までのん気に普通の生活をしていた俺にとってはこの上なく非現実的な光景だった。

 刹那、ギクリと体が凍りついた。

 この時俺が感じたのは悪寒だった。俺は感じた悪寒に対して後方へと一歩後ずさりする。

「アイン・シュバルス・アテリオス7世。それが僕の魔血族名。アテリオスとは、雷峯獣(らいほうじゅう)と呼ばれた雷を司る霊獣。神話ではユニコーンとも呼ばれるみたいだけどね。  アテリオスは遥か昔より天帝の守護聖人(しゅごせいと)として幾多の災いから世界を守護してきた『十二聖賢族(じゅうにせいけんぞく)』の一人。僕はその末裔なんだよ。って言っても分かるわけないか。この国は神話観が薄いから。それに実を言うと僕もよくわかっていない。ただ一つ言えることは―――」

 アインは話しながらも手を前に出して手のひらを広げる。

 何か仕掛けてくるつもりだと思った俺はとっさに身構える。

「―――めちゃくちゃ強いってことかな」

 その瞬間アインの手のひらがバチバチと言う音を立て電撃が花火のように拡散し始める。

 そして、アインがおもむろに口を開いた。

「ここでルールを決めよう」

「ルールだと?」

「もし君が僕を倒せたら今日のところはウラノスクイーンを見逃してやる。ただし、もし君が負けたらウラノスクイーンは『破壊』する。今の状況の君にはとてもいいルールだろ?  それとも逃げ出すか?」

 俺では絶対に相手にもならないというような口ぶりで、その素顔には最初と同様に不敵な笑みさえ浮かべている。

 くそ。舐めやがって。

 だが、どっちにしてもこいつと戦わなきゃウラノスは殺される。俺はウラノスを守りたい、だったら答えは一つ。

「わかった。相手してやるよ」

 俺の返事を聞いたアインは、笑う。

「いい度胸だ。責任重大だね。悪魔さん」

 今のやり取りを俺の後ろで聞いていたウラノスが袖をくいくいと引っ張ってくる。

 振り向くとウラノスは、心配そうな顔で俺を見つめていた。

「リオやめて。リオが死んじゃうの……イヤ……」

 そう言ってウラノスは悲しそうな顔をしてうつむいた。

 そんなウラノスを見た俺は不思議と気が楽になった。

 俺はウラノスの頭の上に優しく手を置いた。

「心配すんなよ、ウラノス。俺がお前を絶対に守ってやる。それにこう見えて俺、結構強いんだ」

 俺はニコッとウラノスに笑顔を見せた。

「さあ、お前はどこかに隠れていろ」

 そう言うとウラノスは最後まで俺を心配そうに見つめながら家の敷地の奥へと姿を消した。

 とは言ったものの……俺は、俺以外の『異能の力』の持ち主――いわゆる『魔族』ってやつと戦ったことがない。俺の力はあいつに通用するのか?

 それにあいつは恐らく何回も戦いの経験があるに違いない。

 俺と言えば、絡まれている女子高生を助けるために不良とケンカしたことぐらいしかないってのに。

 こんな平気で人を殺してきたような面をしている奴に俺は勝てるのか?

 そんなことを考えていた時俺の体から寒気が走った。

 あァ! くそっ!

 俺は首を振り感じる寒気を吹き飛ばす。

 つべこべ考えるのはもうやめだ! やるしかねぇよな!

 俺は体から放出されるオーラに念を込める、そして手のひらからそれは現れた。

 日本刀の形を模った二本のオーラ刀。

 名付けて――『ミカエリスソード』。無論切れ味は抜群だ。

「――――凄惨する雷鳴(エレキテル)

 アインがそう呟いた瞬間上空へとかざした手のひらの電撃が暴れるように唸り始め、電撃の球体が出来始める。

 それだけで辺りの暗闇は瞬く間に青白い世界へと変わる。

 その瞬間、俺の足が地面に杭でも打ち付けられたかのように止まってしまう。

 なんだあいつ……何するつもりだ?

 そして次の瞬間には、もはやビリビリだとかバチバチだとかそんな生易しい表現など皆無。

 それは、まさしく雷の音。いわゆる轟音(ごうおん)というやつだ。

 心臓がドクンと跳ねた。

 危険信号。これは間違いなく俺の体が本能的に感じた、目の前のバカげた光景に対する警告だ。

 眩しくて視界がおぼろげな状態の中、視線の先でアインは笑っていた。

 そして―――

「――――碧血の楽園(ロストエデン)!」

 再び意味不明な言動を言い放ったアイン。その瞬間轟音と共に上空へとかざされたアインの手のひらの上で発光し続けている電撃の球体からかなりの数の稲妻が俺をめがけて一斉に放たれる。

 その稲妻は、もはやレーザーに等しいほどの光線だ。

 な、……ッ!? や、ヤバッ!

 そう思ったのもつかの間。俺の周囲に稲妻の光線が降り注ぎ爆発音が響いた。

 そして辺り一面に砂煙と焦げ臭さが充満している。

 夏の今の季節に吹く一陣の涼しい風によって視界を覆っていた砂煙がようやく晴れていくと俺の存在に気が付いたアインは笑う。

『ゲホッ!ゲホッ!』と俺は大きく咳き込む。

 ちくしょう……こんなの……まともじゃねぇよ……

 俺は地面に片膝をつけた状態で焼けただれた腹部を手で押さえる。

 ミカエリスソードでとっさに体をかばったものの、稲妻の光線を何発かまともに食らったらしい。

 そして、高電圧の電流のせいか左手と下半身が痺れて上手く体が動かない。

「どうだい? 僕の稲妻は効くだろう。僕の心臓はね、1000万Vの高電圧を宿しているんだよ。言い方を変えれば膨大な蓄電器(コンデンサー)の役割をしているって訳。すなわち、僕が操る稲妻には1000万もの高電圧が流れているのさ。それにしても僕の稲妻をあれだけまともに食らってまだ意識があるとはね。なんだかショックだ。いくら魔族でも大概は、絶命コース確定なのに」

 そう言ってアインは深くため息を付く。

 俺は痺れて動かなかった指を小刻みに動かしちゃんと動くかどうかを確かめる。

 何とか動かせるまでになってきたか。だが、下半身はまだ少し不安だな。

 おぼ付きながらも俺は重たく感じる体を奮い立たせてミカエリスソードを手に取る。

 その様子を見たアインは笑いさっき地面に突き刺した槍を力強く引き抜くと槍を構える。

「それじゃあ第2Rと行きますか!」

 またしても地面を強く蹴った反動によりドンっと言う音が響いた。

 そして、矛先を俺に向けながらもう突進してくる。

「……ッ! 早い!」

 さっきよりも格が違うほど早く感じた。

 下半身にまだしびれが残っているせいか過敏に反応できなかったがなんとか直撃は避け俺の左肩をアインの槍がかすめた。

 だが、その瞬間

 バチッ……バチバチバチバチッ!

「うぐっああ!」

 俺は声を押し殺して小さく悲鳴を上げた。

 何故だか全く理解できないがアインの槍が俺の左肩をかすめた瞬間に俺の体には電流が流れた。

 俺は地面に片膝をつけながらも倒れそうな体をミカエリスソードで支えて踏ん張る。

「なんだよ…これ。どうなってんだ……?」

 そして背後でアインが笑っているのが分かる。

「言っただろ。僕の体は常に1000万もの電流が流れているって。僕が触れているものには同じだけの電流が流れているんだよ。それに金属って奴はよく電流を通すからね」

 ふざけてる。少しかすめただけでも1000万かよ……

 まずい……こちとらまだ下半身が正常じゃないってのにあんなに早い突きをかわせるのか? こんなの何発も食らい続ければ……死ぬって。

「ほらほら、行くよ!」

 そしてアインはすかさずもう突進をし四方八方から攻撃を仕掛けていった。

 脇腹、左足、右肩とあらゆる部位に俺はアインの攻撃を受け続け、その度に1000万という電流が俺の体を駆け巡った。

 やべぇ……マジで……死ぬ……

 俺は何もできないままただ槍による切り傷と1000万という電圧の痛みに頭がおかしくなりそうだった。

 だが、俺は悲鳴を上げなかった。もし悲鳴なんて出したらウラノスが来てしまうと思ったから。悲鳴を押し殺していればウラノスはずっと隠れていられる。あわよくば逃げてくれればいいと思った。

 そんなことを考えているうちに俺は血まみれで地面に倒れていた。

「あ……あああ……ああ………」

 体からはもう力がなくなったかのようにオーラが消えて瞳の色も戻っている。

 体が動かない。もう指の一本すら動かすことが出来ない。

 俺は完全なる敗北をしていた。

 (だっせー。正義感振りかざして、柄にもないことして、それで偉そうなこと言っといて負けるなんてさ。大体俺がこんな奴に勝てる訳ないのに、無謀に戦いを挑んで、体中ボロボロで、何やってんだよ俺は)

 朦朧とする意識の中でそんなことを考えていた。

 (あれ? そう言えば俺……何のために戦ってたんだっけ? こんな死にかけ状態にまでなって俺は何がしたかったんだっけ……?)

 (まあいいや。もうどうせ殺されるんだし、最後くらいは楽してたって……)

 そんな俺をアインは上から見下すように見ていた。

「悪魔の力。どれほどかと思いきや大したことなかったね。ま、安心して死になよ。もしかしたら会えるかもよ。あの世でウラノスクイーンとね」

 アインの言ったウラノスという言葉に俺は反応した。

 ウ ラ ノ ス?

 その瞬間ウラノスの顔が俺の脳裏に浮かんだ。

 そう……守れなかった少女の顔が。


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