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空界上のサンクチュアリ  作者: 葵山理輝
第1部 出逢い
3/29

第二聖域 舞い降りた天使様は亜麻色の髪をなびかせて

―――20時38分。すっかり遅くなっちまった。

 気が付けばもう夜。悪魔にとってはこの上なく幸せな時間帯と言える。

 それにしても悪魔のヒーリング力は大したものだ。あれだけ苦しかった胸焼けも今となってはたいしたことはなくなってる。

 まったく普通じゃないこの体も時には便利なものなんだな。

 そんなことを考えながら学園から出た俺は近くのコンビニで『一発かましたれ! ばなな・おれ!』という卑猥なネーミングセンスだが、味は安くてうまいと評判の飲料物と明日の朝飯用にサンドイッチとおにぎりを購入した後、家から歩いて5分足らずで着いてしまういつも来る公園へと少し寄り道をしていく。

 この場所は本当に落ち着く。人通りも少ないし、光もない。ここを照らすのは公園の出口付近に存在する一つの街灯と空に輝く星々。そして何より、この場の不陰気をさらに醸し出してくれる月明かり。本当にこの場所は好きだ。

 俺は公園にあるブランコの上へと腰を下ろしさっき買った飲料物を啜る。

 あー幸せなひと時だ。もはやここに住んでしまおうか。そう思えてくる。

 そして、今夜は本当にすごい!思わずテンションが上がる光景を目にする。

 おぉ! 流れ星だ!

 あーいうの流星群というのだろうか?俺の遥か頭上には瞬く間に流れて消えていく無数の流れ星が夏の夜空を何とも美しい光景に変えていた。

「あ、願い事!」

 願いを言わなくては! と慌てていた俺はとっさに…

「隕石が降ってきますように!」

 これは笑うしかない。自分でも何故そんなお願いをしたのかわからないぜ。あははは。

 思わず自分でも笑ってしまう。俺、はたから見ればすげー変な奴だぞ。

 そう思いながらもこの素晴らしい光景を見上げていると、何か別に光るものがキラリと光る。

 ん? あれは………なんだろうか?

 そして、『ゴゴゴゴゴ!!』という轟音を立てて飛来してくる『それ』は、瞬く間に俺のもとまでやってくる。

 え?

 ドゴーン!!

「ぐはっ!」

 その飛来物は、俺の腹部に神がかり的な確率で命中し、俺の体は一瞬くの字に曲がりその飛来物と共に地面に大きなクレーターを作り出した。

 その衝撃はすさまじく、公園の砂利を盛大に巻き上げ、砂塵と小石が降り注ぎ、辺り一面は砂煙に包まれた。

 恐らく数秒間意識が飛んでいたのだろうか? 目が覚めた途端俺は吐血し腹部の異常な痛みによってその場にうずくまる。

「本当に隕石……落ちてきやがった……うぅぅぅ……ろっ骨……逝った……」

 恐らく普通の人間なら命はなかったと思う。悪魔で良かった。

 俺は痛む体を押えながらゆっくりと体を起こし、その飛来物を確かめる。

「なんだこれ? 隕石……じゃないよな?」

 そこにあったのは特大のスイカぐらいはあると思われる卵の形をした謎の物体。

 俺はそれを手に取る。

 重! 予想以上にずっしりとくる重さ。この重さからしてこの公園がこのありさまになるのが理解できる。

 って言うよりも俺こんなものをまともに食らってよく生きてたな。自分でもびっくりだ。

 それにしてもなんなんだこれ?

 俺が隈なく目をこなして見てみるが―――どう考えてもドラゴンの卵にしか見えない。

 ちょっと振ってみるか!

 縦に振ってみる――――何も起こらない。

 横に振ってみる――――何も起こらない。

 どうやら、この謎の物体はただの屍のようだ。

「いてて、振りすぎて腕が痛い。これ本当に重たすぎ……」

 それがあまりに重たかった為、いったん膝の上に置く。すると、何をした訳でもなく突然。

「………ッ、なんだ!」

 その謎の物体が光り出す。それはこの暗闇をまるで日中に変えてしまうほどの光。

「うぅ……目が……開けてられない……」

 暗闇に目が慣れてしまっていたせいか、俺はその光があまりにも眩しくて目を閉じた。

 そして数十秒にわたって光り続けたその謎の物体から徐々に輝きが消えていきそして完全に輝きが消える。

 もう、目を開いても大丈夫だろうか? 俺は恐る恐る目を開く。すると…

 なにこれ? あれ? 俺が持っていたのって……確か……卵のような形をした物で…こんな人間みたいなものだっただろうか?

 ……………え?

「えぇぇぇぇぇ!?」

 俺は大きな声を出し驚いた。

 そして、しばらくその光景に言葉を失っていた。

 何せそこには、思わず目を疑う光景が俺を待っていたのだから。

 ようやく思考がはっきりしてきた俺は目の前の物? に対して呟く。

「女の子……だよな?」

 どう見ても俺が抱えているのは紛れもない。普通の女の子だ。いや、普通なんて言葉は使うべきではない! なら何て呼ぶ? …………宇宙人?

 その女の子は気を失っているのか、それとも寝ているのか、いまだに目を閉じたままだ。

 この子は一体………あ、

 思わず頬を赤く染めていた。

 俺はその謎の少女につい………見惚れてしまっていた。

 小柄な体型に透き通るような白い肌。恐らく腰ぐらいまではあると思われるその長い髪は、薄い亜麻色で、月明かりに照らされると美しいほどにキラキラっと輝いている。

 か、かわいい………

 そして、どこか他の女の子とは違った不陰気というか、幻想的というか、それは世界が嫉妬するかのように美しさだ。

「ん?」

 そんな少女を見惚れたように見つめていた俺は不意に……

「なっ!」

 そして俺は何故今まで気が付かなかったのだろうかとその光景に顔が爆発しそうになる。

 ちょ! この子! 裸じゃないか!

 そう、少女は全裸だった。

 そんなハプニングに俺はやり場のない顔を慌てて隠す。

 女の子の体を生で見るのは初めてだ。なにこれ? 俺どうすればいいの?

 その時、俺の中の天使と悪魔が訳の分からん抗争を繰り広げていた。

 いや、よく考えろ! 神木リオ! 女の子の体なんて滅多に見れるものじゃないぞ! ちょっとぐらいなら! ……と悪魔は言う。

 いやいや、ダメだって! 健全な高校生が何考えてんだ! このバカ! ……と天使は言う。

 そんな抗争をお構いなしに自分がもともと悪魔であることに気が付いた俺はためらうことなく悪魔に加勢し、天使を追い払う。

 だが、こういうものは見たいと思っていても、なかなか見れるものではなかった。

 そして、顔を背ける前にチラリと見てしまった少女の体を思い返す。

 女の子の胸ってあんなに小さくても綺麗なんだな……

 ほんの出来心だった。俺は心臓の高鳴りに身を任せて、隠している顔を少し、少しだけ、その子の方に向けて……その勢いで見てしまおうとした時。

「な……………ッ!?」

 心臓が止まりそうになった。そして天使に加勢しとけばよかったと後悔。

 どうやら彼女が目を覚ましたようだ。

 青く綺麗な瞳を開き、曇り一つないクールな表情で俺をずっと見つめている。

 む、無表情。まずい、変な空気になってしまった。まさか目を覚ますなんて。

 普通の女の子ならここで騒がれてもおかしくはない。一つ幸いしてか、その長い亜麻色の綺麗な髪はもっとも恥ずべき部位を隠す役割をしてはいるが、それでも目の前の少女は全裸同然の姿をしている。見られて恥ずかしくはないのだろうか?

 そんなことを思う俺だったが、この少女は騒ぐ気配もなく表情一つも変えない。騒がれないのは助かるが、これはこれで逆に怖い。

 とにかくこの空気、俺には重すぎる。変態というレッテルを貼られる前に何か策を錬らねば!

 とっさに思い付いた。

「ヘロー、ハウ、アー、ユー?」

 緊張のせいで、適切な発音になっているかどうかもわからない英語。ボケのつもりで言ってみたんだが…

「………………」

 その場の空気が息絶えたかのように沈黙した。そして、ものすごく恥ずかしい。

 どうやら俺は少女とのコンタクトミッションに失敗してしまったらしい。

 くそ! す、滑ってしまった! 情けねえ! ますます空気が悪くなる! どうすれば!

すると…

「第一聖域・アフロディテ発動」

「は?」

 訳の分からない呪文のような言葉を発した途端少女の周りには青く光り、いくつかの魔法陣みたいなものが現れる。

 その魔法陣は両腕、両足、胴体に張り付くように少女の体の一部一部に覆いかぶさると瞬く間に姿を変える。

 両腕には魔法陣が刻まれたアームレットのようなもの、両足にはベルトの付いた黒いブーツ、そして、西洋の貴族が着ているような黒いドレス。

 総合的にこれはゴスロリ姿だった。

 普通な格好ではないが、良く似合っていた。秋葉原に行けば即人気が出ることだろう。

「何が……起きたんだ?」

 俺が驚いている間に彼女は俺の腕の中から離れてその場に立つ。

 そして、もの凄く涼しい風が吹く。7月上旬だというのに。その風は、まるで目の前の少女の存在をより大きくするように公園全体を駆け抜ける。

 俺はただ、そんな少女を腰を付かせながら見ていた。

 すると少女は屈み、腰を付かせている俺をまるで珍しい生き物を見るかのように体の隅々まで見ている。

「えーと、何をしているんだいお嬢さん?」

 そして、ようやく気がすんだのか、少女は観察を止めて、じーっと俺を見つめて首を傾げる。

「あなたは、何者?」

 透き通るような綺麗な声だった。本当に綺麗な声だっだ。だが、この状況でそいつは野暮な質問だぜ。

「それはこっちのセリフだ。人にものを尋ねるときは、自分からってな」

 そうなのかぁ――と納得したかのように彼女が首を静かに上下に振る。

 そして相変わらず表情一つ変えずに、「ウラノス」

 そう一言。恐らく名前だろう。

 それにしても変わった名前だよな。外国人なのか? 言われてみれば、見た目は、そこはかとなく外人っぽいけど。

「ウラノスね。俺は、神木リオ」

「リ……オ?」

「そう、カタカナでリオ」

 そう言うとウラノスは、コクリコクリと頷き、納得したかのように、「リオ!」

 再び俺を呼ぶ。

 なんか、変わった子……だよな?

 俺は顔を引きつらせながらも、笑顔で言った。

「よろしくな。ウラノス」

 そう言うと、こちらこそと言わんばかりにウラノスは頷いた。

「で、そんなウラノスさんはこんなところで何をしているんだい?」

 少しお兄さんっぽい口調で話しかけてみる。

 すると、俺の質問とは全く関係ない音が返答をした。

『きゅるるる~』

 何やら可愛らしい音がする。

 その音に反応するかのようにウラノスは、自分のお腹を撫でてる。

 もうやだ! 男の子の前で恥ずかしい! っていうのはこの表情からしてありえないと思うが一応腹の虫が鳴っていることは気にしているみたいだ。

「もしかして、腹減ってるの?」

 ウラノスは無言で頷いた。

「はあ。しゃーなしだな」


 ………悪魔的すぎる。

 腹を空かせたウラノスを俺は自宅へ招待しこいつの為に今現在料理を作っている。

 だが、勘違いしないでほしい。これは5度目の料理だ。

 ウラノスが食卓のテーブルを箸でトントンと叩きながらこちらを見る。

「リオ、早く飯の用意を」

 どうやらこの少女は遠慮という言葉を知らないらしい。

「はいはい。もう少し待っててくださいね」

 適当に言葉を返し作業を早める。

 それにしてもなんつう胃袋してんだあいつは。手が追いつかないっての! そんなに腹空かせてたのかな? ま、別に悪い気はしないからいいんだけどさ。 

 本当に悪い気はしなかった。むしろ気持ち的には自分の作った料理を口に合うかどうかはともかく、美味しく食べてもらえているみたいでなんだか少し嬉しい。

 しょうがない。そもそも誘ったのは俺なんだし。しゃーなしだ。

 そう思い冷蔵庫を開ける。

 なに!? 食材が……もうない……だと?

 確か昨日一週間分の食材を買いだめしておいたはずなんだが……

 俺はのん気にお茶を啜るウラノスを見た。

「化け物か……あいつは」

 家の食材は一人の少女によって消滅しました。

 

 ようやく満たされたのか、ウラノスと名乗る謎のゴスロリ美少女はリビングのソファーに腰を落ち着かせのんびりと俺が用意したお茶を啜っている。

 そして、大きなガラステーブルを挟んでお見合い状態な訳だ。

「どうだ。腹いっぱいになったか?」

 ウラノスは、首を横に振る。

 あれだけの飯を食っても、なお満たされない胃袋……

「お前の胃袋は底なしのブラックホールか!」

「でも」

「え?」

「飯は美味かった。ありがとう」

 その言葉に思わず顔が緩む。

「そうか。そいつはよかったな」

 どうやら、少しは満たされてくれたようだ。それだけに笑顔の一つでも見せてもらいたかったが、俺にはウラノスという少女は普段から無口で無愛想なのだろうと感じたからそこは追求しないことにした。

 ま、少しでも喜んでもらえたならいいか。

 俺はお茶を満足げに啜る。

 するとウラノスが思いがけないことを口にした。

「リオは魔族なの?」

 ブーッ!

 思わず満足げに啜っていたお茶を吐いてしまう。そして喉を逆流するお茶のせいで大きく咳き込んだ。

「お前、なんでそれを!?」

「あなたから人間とは違う気配を感じる。でも、人間の気配も感じる。あなたは何者?」

 変わらない表情に、変わらない眼差し。それでいてその目にはほんの少しだけ警戒しているような強い眼差し。

 ま、それはともかく、そんなことは俺の両親に聞いてもらいたいもんだ。一人はもういないけど。

「俺は、ハーフ。人間と悪魔の間から生まれたんだよ。だから俺の体の50%は人間じゃないんだ」

 俺が非現実的なことをごく普通に答えると納得したのか、再びお茶を啜り始める。

 そんな事よりもこいつは本当に一体何者なんだ。

 空からいきなり落ちて来て、変な魔法を使って、おまけに俺が悪魔であることにも気が付いた。総合的に考えても、普通でないのは明らかだ。

 俺は気になる問題の解答を求めるかのように口を開いた。

「ウラノス。今度は俺がお前に質問をしてもいいか?」

 ウラノスは、持っていた茶飲みをテーブルに置き聞く体制をしている。

「同じことをそのまま言う。お前は一体何者なんだ?」

 その問いにウラノスは迷うことなく答える。

「私は、天使」

 ――――マジかよ。

「天使って……本当にいるのか?」

 ウラノスは、目を逸らすことなくと頷く。

 少し驚きだ。見た目からしては、天使というよりもまるで闇の眷族・ネクロマンサー的な感じなのに。いやいや、そう言うことはどうでもいいとして。

 今までのことから考えてもこいつの言ってることは、あり得なくもないように思える。それに悪魔もいるんだから、天使ぐらいいてもおかしくはないんじゃないか。いや、それでも俺としては、予想の斜め上だ。

 俺は半信半疑な気持ちで尋ねる。

「で、ウラノスは、なんで落ちて来たの?」

「落ちてきたんじゃない。逃げてきたの」

「逃げて……来た?」

 その不穏な言葉に俺は眉をひそめる。そして、もしかしたら俺の見間違いかもしれない。

だが、ほんの一瞬、ウラノスの表情が哀しげなものに見えた。


「私は狙われている」


「………」

 思わず飲もうと口まで運ばれた湯呑を止めてしまった。

「狙われてるって……一体何から?」

 あまりに現実から遠いその言葉に俺は神妙な面持ちで聞いてみた。

「『魔族結社』……正確に言えば、今回は『天魔』に狙われていた」

 ま、魔族結社? 天魔? なんだそりゃ?

 思ったよりピンとこない。だけど、魔族ってことはつまり俺と似たような境遇者、もしくは同族と言ったところか。

「なんで魔族がお前を狙う? 何か変なことでもやらかしたのか?」

 ウラノスは首を横に振る。

「恐らく、私の持つ力が彼らの狙い」

 力?

「なんだよ。その力って?」

 そして、言いたくないのか、言うのが面倒臭いと思っているのかどう思っているのかは知る由もないがウラノスは顔を伏せたままだった。

 俺は何かまずいことを聞いてしまったのだろうか?困っているなら力になろうと思って聞いたんだが。

「まぁ、話したくないなら別に無理には聞かないけど……」

 

「私は―――世界を滅ぼす力を持っている」


「……………………………エ?」

 本当にまずいことを聞いてしまったようだ。

 顔を伏せていたウラノスがとんでもないことを暴露し出した。

「すいません。少し考える時間をください神様」

「私は神様じゃないけど、許す」

「ありがとうな……」

 俺はウラノスに背を向けて考えた。

 え? 何? 世界を滅ぼす力を持ってる? なにそれ? 美味しいの? いやいや、美味しくはないけどさ。

 そして、もう一度ウラノスを見る。

 ?マークが良く似合いそうな面で首を傾げている。

 ますます分からなくなってきやがった。こいつは一体何を言っているんだ?

 俺は混乱していた。普通の俺ならそんな話は一切信じない。世界を滅ぼす? やってみろや!

 だが、俺には何故かウラノスが嘘や冗談を言うような子に見えなかった。

 俺はウラノスに背けた背を返し何とも微妙な気持ちで言う。

「仮にだ! 仮にお前が世界を滅ぼすほどの力を持っていたとして」

「?」

 俺は普通の質問をしているのだろうか? それでも何となくこれだけは聞いてみたかった。

「お前はその力で何をするつもりなんだ?」

 俺は真剣な表情でそうウラノスに訪ねた。

「別にどうもしない。私はただ………ッ」

 何かを言いかけたウラノスは何かを感じたかのように体をビクッとさせ、ある一定の方向に視線を送っていた。

 どうしたのだろうか?

 すると腰かけていたソファーを立ち、無言のままそそくさと部屋を出て行こうとする。

「おい。どこ行くんだよ?」

「世話になった。私は帰る」

「帰るって、お前行く宛とかはあるのか?」

 ウラノスは、背を向けたまま、その申し訳なさそうな顔だけ俺に向けた。

「ごめんなさい。私がここにいたら、あなたの運命を大きく変えてしまう。いえ…もう変えてしまったのかもしれない」

 運命?

 半信半疑な気持ちの俺を背にそう言ったウラノスは早々と廊下を歩いて行き玄関の戸が閉まる音がリビングに届いた。

 俺はリビングのソファーにぐったりと背を押しつけ上を見上げる。

「世界を滅ぼす力ねぇ~」

 別に今日知り合ったばかりで、そんなに友好的な間柄になったわけでもなければ心配する義理だってない。彼女が何を抱えてるのかも知ったことじゃない。

 それで……

 なんで俺はこんな真似をしているんだ?

 俺の体は、知らず知らずのうちにウラノスの後を追いかけていた。

 家の門を出てすぐの場所にある街灯の近くをゆらゆら歩いているウラノスを発見する。

「おーい! ウラノス――」

 俺の呼び声に反応したウラノスはふとした表情で振り返る。

 俺はウラノスの側まで行くとさっき買ったコンビニのおにぎりをポケットから取り出し、ウラノスに渡す。

「ほらよ」

 それを受け取ったウラノスは不思議そうに俺を見ている。

「あのさ、世界を滅ぼすだの、運命だの、そういうのはよくわかんないけど、もしまた腹が減ったら家に来いよ。そん時は……」

 鱈腹食わせてやると言いたかったが、少し言葉を詰まらせながら言い方を変えた。

「鱈腹とまではいかないが、また飯食わしてやるからよ」

 俺………何を言ってんだろ。

 自分でもなんでそんなことを言っているのかわからない。

 俺自身、女の子を自分から誘うことなんて滅多にない。

 ただ、俺はウラノスのことが少し気にかかっていたのかもしれない。

 表情一つ変えないその顔に秘められた何かがそう俺に語りかけているような。

 ウラノスは何かを考え込むように顔を伏せると呟いた。

「ありがとう、でも……」

 そしてウラノスは顔を上げると、

「これ以上、私に関わらない方がいい」

 そう言ったウラノスは、暗がりの道を歩いて行き姿を消した。

「…………」

 俺は何も言えずただ、突っ立っていることしか出来ないでいた。

 何せその時のウラノスの顔は印象的なぐらい悲しそうな表情をしていたように思えたから。



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