《15》 異世界散歩
「今日から、神殿にてお過ごしいただくことになりました。」
…私が前々からそう言ったのに。
陛下と宰相が、執務室に篭って4時間後。
一方的に“そうなった”と、宰相が告げにやってきた。
私の周りでは、決定事項だとばかりに支度を始めています。
侍女さん達が。左様か、結局貴方達も私の意思など無視じゃない。
自由に振舞っているようで、世のお姫様達もこんな窮屈な生活だったのかな。
あれよあれよと言う間に、神殿2階の一番奥。
入口入って右が男性の住むエリア、左が女性の住むエリアなので
「キャー、チカ~ン!」という心配も無く
暇しております。
本は見る気にならないし、いつもはスイリとしゃべったりしてたけど
元々は、国王付き侍女なのでここにはいません。さて、どうしたものか。
「よし、出よう」
なにが“よし”なのかわかんないけど、
金髪ウィッグ付けて、町へ繰り出しました。
神殿の人たちは、何かと忙しく日中は居住区には来ないので簡単に出られた。
最初に来た時は、監視付きで自由に行動できなかったので
城下町探訪と行きますか。
「ソコのお姉ちゃん。食べてかないかい?」
「ありがとう」
棒付きウィンナーにパンが巻き付けてあるんだけど、
中がスパイシーでおいしい。お、野菜も練りこんである。
おいしい~
「おいしいかい?」
「ふん。おいひぃ」
「じゃ、15レコいただきます」
「ふん?…お、かね?…お金…ゴクン。お財布忘れた」
そういえば、前回はスイリが出してくれたんだ!
どどどどどどどどうしよう。
私、無銭飲食だ!!お金出す行為に無縁な生活送っていたとはいえ、
犯罪行為じゃん。神職にあるのだから、余計に犯罪行為駄目だってば!!
じゃなくて、どうしよう。
「財布を忘れたぁ?どーすんだよ、姉ちゃん。どこの人?」
「あ、あ…」
こういう場合、“神殿の人間です”とか言っていいわけ?
心象悪くされないかな。というか、言わなきゃ捕まる!
でもでも、巫女が、無銭飲食しましたなんて!どうしよう。
「どこの人なんだよ、姉ちゃん!」
どうしよう!黙ってるから、店員が怒り出した!
どうしよう。周りのに人が集まり始めてざわざわしてるよ。
“役所に突き出そうぜ!”とかニタニタ顔で“俺が払ってやるよ”とか
言い始めたよ。いや、アンタは15レコ払う代わりに
私に不埒な事しようとしてるでしょ!嫌よ、そんなの!!
ごめんなさい、神殿で働く皆さん。神殿のイメージ壊しちゃったらごめんなさい!
「わた…」
「すみません、妹がお騒がせして。はい、15リコ」
「おぉ、いいよ、いいよ。毎度あり」
「駄目だろ、ケイ。財布玄関に置きっぱなしだったぞ。せっかちなんだから」
「そうかそうか、ゴメンねお嬢ちゃん。
俺が強く言いすぎたから泣かせちゃった。今度は財布をちゃんと持ってきてね」
「いいですよ。コイツには、いい薬です。また来ます…すみませんどいてください」
大きい背中。
太い腕。
分厚くて暖かい手。
足も長いのに、私の歩調に合わせてくれる。
「うっ…うう~…チェランドぉ」
町の隅にある夕日が見える丘…のような公園で手を離し振り向いてくれたのは
普段、無口なのに今日はやたら饒舌な巨漢警護兵・チェランド。
あまりに自分がふがいなく、心細く怖く…色んな感情があふれて
大きなからだにしがみついてわんわん泣いた。
頭の撫で方が、お兄ちゃんにそっくりで更に泣いた。
「…っぅ…うっ…ごめっ…チェ、ふ、ランド…うぅ…」
「今度お出かけになる際は、詰め所にいる私にお声をかけてください」
「うぅ、うん…」
やっぱり、チェランド…暖かい。
「ごめんなさい、騎士服びしょびしょにしちゃった」
「気になさらないでください。それより何故町に降りられました?」
「暇だったから。でも、巫女の給金ってどうなっているのかしら?
ここに来て、お小遣いとかお給料とかもらったこと無いから」
「さぁ、私も存知ません。神殿長にお聞きになるのが一番でしょう」
「チェランド、後で請求してね。ちゃんと返すから」
「いえ、これくらいは問題ございません。
巫女様、他にまわりたい所はございますか?」
「特定の所は無いの。だから、ブラブラしたいんだけど…
でも、この目で出歩くのも嫌だから、帰ります」
「では、お供いたします」
こうして、どたばた散歩は終わった。
早く一人で出歩けるようこの世界の常識を学ばなくちゃ。
ちなみに、この世界に“試食”というものはなくて
ああいう風に差し出されて、手に取るとそれは“買います”という
意思表示なんだって。歩きながらチェランドに教えてもらった。
あとは、ショルダーバッグが主流なんだとか
女が色んな勧誘があり、1歩歩くたびに誰かしら声を掛けられるくらいだから
やめた方がいいとか、外にゴミ箱はなくゴミは持ち帰る。
捨てると、運が悪いと逮捕される可能性があるとか色々教えてもらった。
それから、明日も散歩につきあってくれるよう頼んだ。
「明日、10時にこの場所で」
って言われた!これってデートっぽくない!?キャー!!
他国でも、日本の常識が通用しないことがありますよね。
歩んできた歴史が、学んで改善した所が、人の感性がそれぞれ違うから。
この国では、試食に混じって商品も食べちゃったりするので
試食というものはありません。
そして、巫女の給金の件は後日と言う事で。
巫女と近衛兵の距離が近くなっていますよ、陛下!(笑)
あ、陛下と宰相の関係書くの忘れた。それもまた後日で(それを後回しと言う)
次は、ラブラブデートです。どうします、陛下?ww