《12》 城内ダッシュ
「みこさま、おしごとおつかれさまでした」
ここ最近朝のお勤めを終えると、
愛らしいファンが出待ちしてくれるようになりました。
シディちゃん6歳。熱心な信仰家のご両親に連れられて
朝早くに来ているんだけど、私がお勤め終わるまで待ってくれて
毎日お花をくれるのだ。ちなみにご両親は後ろでお辞儀をしている。
「シディちゃん、いつもありがとう」
「みこさまが、いつもおいのりしてくれるから
このくにはへいわなんだってパパとママがゆってたの」
「ありがとう。でもね、私のお祈りだけじゃ平和にはならないのよ」
「え?」
「王様と、シディちゃんのパパとママみたいに
働いてくれる人がいっぱいいるからこの国は平和なのよ」
「パパとママ、すごいの?」
「うんっ。もしかしたら、私以上にすごいかもしれないのよ」
「そんなにー!?」
ふふ。純真な子供の満面の笑みは誰にも負けない輝きを持ってる。
シディちゃんが、本当にご両親が大好きなんだって証明よね。
信心深いご両親は“巫女より自分の方が偉い”と言われて慌てているけど
本当は上で纏め上げるより底辺を支える国民の方が偉いんじゃないかと思っている。
私達は、その人たちが上手く仕事できるようサポートしているに過ぎない。
何不自由なく暮している私は、ここに来てそう思うようになった。
私が、庭でのんびりお茶できるのも安心してお祈りに専念できるのも
残してしまうくらいの料理が食べられるのも、この人たちが頑張って
私を護ったりお掃除したり食べ物を提供してくれるからだ。
だから、そんな民に輝きを与えてくれる女の子の頭をなでる。
「うん。だからね、シディちゃんも
そんな立派なパパとママを見習って何かに頑張れる大人になってね」
「うんっ。パパやママみたいになる!」
うふふ。と頭をなでてシディちゃんのご両親に挨拶して王城に帰る。
あー、お腹すいたー。朝ご飯何かなー。
「巫女様、おはようございます」
目の前に現れたのは、初老の男性。
身なりからかなりの身分だとうかがえる。
ここは、王城の公共スペースなのでココに誰がいても問題ない。
だけど、今は朝の朝食タイム。ここでは、大臣級は昼近くに登城して
夕方に帰るという日本でいう“重役出勤”てやつだ(まぁ立場似てるんだけど)
だから、この人(重役)が、朝に私に会いに来るのはおかしい。
チェランドもスイリも同様に思ったのか警戒している。
「おはようございます」
「私、国土管理しております
建造省のランドル・グレビューと申します。以後お見知りおきください。
巫女様は、このようなお早い時間にお勤めをなさっているのですか?」
「えぇ…朝起きてすぐにサラフィーナ様にご挨拶するのは巫女として当然ですわ」
「さすがは、巫女様。我々も見習わなくてはなりませんな。
それでは、お止めして申し訳ございませんでした。失礼いたします」
ん?
あれ?何事もなく去ってしまったわ。結局なんだったのかしら。
結局、私の名前を覚えておけ。
な用件だったのかしら?巫女は、内政に関与しないから
法陣省のロラ以外は関係ない気がするんだけど。まぁ、いいや。
「スイリ、さっきのランドルさんてどんな人?」
「建造省副大臣のランドル様は、センロード伯爵の三男でいらしゃいます。
次期伯爵は、兄君ジルメール様が継がれるので爵位の継承はありませんが
その手腕を買われ、若くして今の職に就かれたとか。
ご令嬢のフェイア様は、大変麗しく社交的で慎ましやかな素晴らしい方だとか。
フェイア様の兄君が、幼少のころ陛下のお話相手を務められた縁で
フェイア様と陛下もお小さいころから仲良く遊ばれていたそうですよ」
「そんんんんんんんんんんな、完璧な女性がいるなら何故娶らない」
「さぁ…詳しくは存知ません」
眉目秀麗、人当りもよく、お淑やかなんて
“花嫁”として最高の人材じゃないの。陛下!身近に最適なご婦人が!
と言って差し上げたい。いやなんか、私にかまってる暇なくね?って感じだよ。
早く娶って、バンバン子供作っちゃいなさい。
ということは、完全に私は“暇つぶし”じゃないの!フザケンナ!!
「ねぇ…スイリ、王城探検に出かけない?」
「探検でございますか?」
「うん。テレビで見るような、外国風のお城なんだもん。
外国じゃなかったら、ロープレの世界よね。あぁ、8に出てきそう!」
そうそう。ずーっとずーーーーーーっとうずうずしてた。
西洋風の…宮殿というより、教会というより要塞城というより
RPGに出てくるような、某有名テーマパークのシンボル城のような
外観の壮大な建築物で、中はやっぱり防犯上のアレなのか迷路のようなんだけど
やっぱりね、液晶越しでしか見られない城がソコにあるなら行かなくちゃ。
何とか、チャンスを狙ってたけど
最近忙しくてね(やっと目的が見つかって勝手に忙しくなってただけ)
1人で勝手に行ってもいいけど迷うのがオチだし。
「???」
「だからさ、ちょーっと覗き見したいの。
もちろん、会議場や執務室みたいな立ち入り禁止区域には行かないわ。
あの、宴会するようなホールや書庫…は文字分からないから意味ないか。
高台のテラスとか、謁見の間とか誰もいなくていいのよ
暗くていいから、そういう場所を見てみたいの。ね、行こうよ!」
そして、安定の大所帯だし。
警護兵4人と侍女3人の計7人の使用人引き連れて(本来ならその倍とか言われた)
王城内を闊歩する巫女様。
超暇すぎるんで王城内を散歩中なんて知らないから、使用人達は何事かと
足を止める。ふかぶかとお辞儀をする。だって、暇なんだもん。
欧州風の内装で、外敵を防ぐためかパーティホールまでの道のりが
軽くウォークラリーですね、スイリさん。
ここに育成型万歩計なんてあったら、すぐにでも成長完了しそうですわ。
RPGの主人公は、城内探索と宝箱およびタンスや樽物色のため
駆けずり回るけど、彼らが何気に行っていた
城内ダッシュがこんなに大変だったとは!ごめんよ、各勇者達!!
今度プレイする時は、常に最高装備と最高レベルで
ラスボスに立ち向かってあげるから許して!
なんて考えながら、ホールに着きました。
私を王妃にする!宣言したホールとはまた違ったところで、
王族が座る高台はあるけど、前いった所みたいな無駄な高さじゃなくて
5段くらい階段がついた小高いスペースだった。
晩餐会とかするホールだろうか?
大理石…ではないだろうな、異世界なんだし。
石畳でできたホールは、使われていなくてもピカピカ。
照明がなくても昼間なので太陽の光を反射させてこの部屋が明るい。
それくらいピカピカ。某有名なお姫様が、名を知らない青年と
楽しく踊りあうあのシーンが思い出される。
「すごいね!本当にプリンセスに出てくるホールだよ!!
私の世界の御伽噺ではね、こっそり参加した主人公が名前の知らない青年と
一目で恋に落ちて、こういうホールで名前を知らないまま踊りあうシーンがあるの
私、あの話し好きでね!だって、男性がスマートにエスコートするんだもん。
すごいね!巨大シャンデリアだよ!!綺麗だね。あははは…」
あまりにブッ飛んだ痛い人だと自分で思ったけど、
興奮して笑いが止まらなかったの!
だってさ、テレビや本でしか見たことないお城だよ!?
縮小された一部の画像ではなく、視界めいいっぱいに映っているの!
「それでは、私と踊っていただけますか?レディ」
振り返ると、絢爛な背景に負けないくらいの輝きを放つ陛下が手を差し出していた。
こう見ると、無趣味だと思っていた巫女様ってゲーマーだったのね(笑)
迷路のように階段を上り下りして、上から下へ
奥の部屋から2階へ渡り廊下を渡って向かいの棟へって
走り回る勇者をコントローラーで操作するだけなんだけど
アレ実際走り回ったら、目を回すわ体力尽きるわ
走っているだけでHP切れます。本当。(私の体力がないだけともいう)
今回は、伏線を放射状にちりばめただけだった。
オイ、ドン臭いお前が全部回収できるのかよ。
というツッコミが脳内から聞こえますが、ガンバリマス。
ちなみに幼児好きとメルヘンなのは、私です(オマワリサーン!!)