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《10》 巫女のオシゴト

門をくぐると、大きな男の人が仁王立ちしていました。



その人を避けようとしたのに、つかまるし!!



「護衛の男と楽しかったか?」


「へ、陛っ下…はぁはぁ。急いでっる…んで、ハァ…離して下さい!」


「何?どういうことだ。チェランド何があった」


「巫女様は、民の思いを知りたく町に降りました。

そこで、レットという村の危機を知り何とかしたいと、

巫女様は、お考えになり急ぎ神殿に戻る途中であります」


すっげー。あれだけ走ったのに、息切れしない…だと?

しかも、今日一日の中で一番の長台詞!!

日本の某CMだとシャベッタァァァァァァァァァァァァァァ!!って感じだ。


「そうか。レットへの調査隊は、今日向わせた。それではダメか?」


「はぁ、ふぅ。私に出来ることなら何とかしたいんです。

調査をして、工事の有無を確認して、作業員を派遣して、なんて

そんな悠長な事言ってられないんです。急ぎます、失れぇっ!!」


いきなり担がないでよ!王様の肩に担がれてしまった!

後ろでは、ようやくスイリが到着したらしい。

でも、チェランドも私と陛下の護衛のためについてきたし。

ゴメンね、スイリ。後で何かおいしいもの一緒に食べよう。


私が走るより遥に早く、陛下は神殿まで走ってくださった。

朝あんなに、この人に対して怒っていたのに目的を見つけ

陛下に目を向けなかったからか、そんなに怒りが出てこない。

あの話題を蒸し返したら、怒り再燃なんだろうけどね。


チェランドにスイリをつれてくるよう言いつけて、先に身を清めるために

服を脱ぐ。もちろん、陛下とは入口でお別れしたわ。当然よ!

スイリに手伝ってもらい(詫びながらね)清めたあと、

神官に準備してもらって、サラフィーナ様の御前に出る。

いつものお祈りのポーズをとり、神殿長に習ったように特定の場所に向けて祈る。



「敬愛する偉大なる女神サラフィーナ様。

はるか西方の村レットに流れる慈しみの清流をあるべき元に戻してください。

聳え立つ山から流れる命のしずくを、嘆きの民に与えてください」



ほぅ…っとサラフィーナ様の像の背後が輝いた気がした。

これで願いはかなえられただろうか。もう一度、民が作物を育て

収穫できる喜びが戻るだろうか。彼らの笑顔を見られるだろうか。


「サラフィーナ様、レットのお野菜はとてもおいしいのだそうです。

おいしい採れたてのお野菜は、どんな一流料理にも負けないおいしさなのですよ。

太陽の活力と強くたくましい土壌、心洗われる清流で

育ったお野菜は、さぞおいしいのでしょうね。私も食べてみたいです。

本当は、おじいちゃんが採ったお米を食べたいです。

あれに塩を付けるだけでおかずなんていらないんですよ。


……っふ。お家に…帰りたいっ」


父方の祖父の家は、農家だった。

祖父と一番上の伯父は米を、3番目の伯父はトマトを作っていた。

スーパーで、地産地消の野菜を買っておいしいと思ったけど。

採れたての比ではないと知ったのは、父の実家に帰省したとき。

米がおいしいと感激したら、よけいにお小遣いもらったという思い出もある。


そんな事を考えたら、涙が出た。


採れたて野菜の話をしたかもしれない。

護衛の男の手の暖かさが、兄に似ていたからかもしれない。

町の温かさが、日本の暖かさに似ていたからかもしれない。

とにかく涙が、止まらなかった。


涙が…心から出てくる。



「!!」


ふわっと、温かいぬくもりに包まれた。チェランド?

違う。強引でオレ様で、我侭で自己中心的で、空気読まないけど

強く逞しく温かく、私に優しい男の人。


「サラフィーナ様の御前で泣くな。心配される」


「うん…」


「部屋に帰って、俺の腕の中でなけばいい」


「ばか」


その、“なく”が『泣く』か『鳴く』か判らないけど、どっちにしろバカだ。

そこまで、私にこだわらなくてもいいのに。


そのまま“お姫様抱っこ”されて部屋に戻った。降ろしてくれなかった。

いつぞやみたいに、陛下のひざの上に座らされた。

部屋に戻って、最初は抗議のギャーギャー言ってたけど

自然に涙が出てきて陛下に頭ポンポンされたら、涙が止まらなくて

夕食まで泣き続けてしまった。陛下お仕事よかったのかしら?


そして、そのまま食堂まで連行されて…何故隣で食べるし。

いつものように端と端だと話しづらい。とか分けわかんない。

おいしい料理を食べてたら、眠くなっちゃった。

だから、早く帰ろうと先に退席したはずなのに、付いてくるし。


後ろには、スイリとチェランドがいる。

スイリは私の着替えを手伝うから、部屋まで入るけど

女性の部屋なので、チェランドは入口でお別れだ。


「チェランド、今日はありがとう。また一緒に行こうね」


すると、コクリと頷く彼。しかし、明らかに怒気オーラを出す隣の男が言い放つ。


「これからは、俺と一緒に行くんだ」


「何で陛下と…警備問題で準備に時間がかかりすぎるから嫌です」


「何故、こいつとだけ行くんだ」


「自然な雰囲気で歩いてくれるからですよ。

陛下と行ったら、無実の民まで視線で殺しそうなオーラで行くでしょう!?

私は、“お忍び”で行きたいんです。平民らしく行動できない方とは

行動をともにしたくありません!」


「それくらいならできる。俺は、時々町に降りてるんだぞ!?」



「ほぅ…それは聞き捨てなりませんな」



冷たぁい声色を台詞に乗せて陛下に放つのは、宰相レイディール。

いつも温和な童顔なのに、怒らせるとなんかドS顔になるのなんで!?


「御身を狙う不届き者が多くでるのですよ!?

今後は、ご自重なさいませ。それから、巫女様もですよ」


「わ、私!?」


なんで、私まで!?完全にとばっちりじゃない。


「巫女様が、陛下のお傍を離れると

陛下はすぐに巫女様のもとに行かれてしまうからです」


「それを、お止めするのが宰相殿のお仕事なのではなくて!?

巫女個人では、街に行くのは何も問題ないはずです。

だいたい、民が嘆願するには町の教会で神父さんに相談してそれを

ここの神官たちに、要望書を出して精査して私に言うんでしょ?

私のところに来るまでに何日かかると思っているの?

それなら、直接私が出向いて民から聞いてそれを女神様にお願いしたほうか早いじゃない。」


「神官を使えばいいだろうが。アイツらはどうせ暇なんだから」


「…陛下、言葉をお慎みください。

言葉は、あれですが私も陛下のご意見に賛同します。

巫女様ご自身が出向かわれなくても、教会の人間を使えばよろしいのでは?」


「直接聴いて、感じてどれが火急の用件なのか知りたいの。

人は、言葉通りを伝えてくれるものではないわ。

そこには、自分と回りの思惑を重ねて曲げて捻じ曲げて話してくる人もいる」


「……そんなヤツがいたのか?」


「その目怖いです。

自分の受け止めた言葉と相手の気持ちが違うときもあります。

っていうのが、向うでありましたので…………

それに、誰が信用に足る人なのかまだ知りませんし」


私の言葉が、相手には違って届いていて

気づいた時には修復不能にまでなっていた。まだ癒えない私の傷。


「ならば、チェランドに行かせてはいかがでしょう。

彼個人ならば、誰も警戒しませんし巫女様のお傍に常に居た人物です

巫女様も、彼なら信用してくださるでしょう。

そして、警護長の彼が不在の場合は

巫女様も軽はずみに部屋からお出になりませんよね?」


なんだろう、この説得力ある台詞。つーか、笑顔が怖いわ宰相。

そりゃ、常に傍にいる彼がいないなら怖くて外には行かないけど…


「なんだそれは。俺よりコイツのほうが信用できるというのか?」


「はいはい、痴話喧嘩はもうやめてください。

チェランド、君も災難だったね。もう戻りなさい」


えー。チェランド私たちに礼をして去っていきました。

頭なでて欲しかったのにー。


「そんなに、アイツのことがいいのか?」


「はいはい、陛下もそんな狭量な発言されてばかりいると

本当に、巫女様に見限られてしまいますよ。お仕事に戻りますよ、陛下」


慌てて拒否る陛下を、引きずるように執務室に連行する宰相。

どっちが上司なんだかわからないわね。

そして、部屋に帰って寝た。ふぁぁぁ…今日はいろんなことがあったなぁ。

陛下も、何で私にばかり執着するのかしらね。珍しい輸入品扱いかしら。



早く飽きて欲しいものだけど。

巫女としての重要な職務の話。


本当は、調査は神官の仕事なのですが

誰に頼んでいいものか分からないので、それなら自分で!

ということなのでしょう。

今後はチェランドの仕事となり彼の仕事が増えました(笑)


陛下の嫉妬増大中!

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