008⇒脱出
「…あの犬だってお前に食べて貰えば浮かばれるだろう…有り難く頂けよ」
「……んぐっ…おえっ」
私は犬だと知って嘔吐が押し寄せて来た。
「こらっ!吐いちゃいかん!
勿体ない!残さず食うんだっ!」
おじいさんは私の頭を掴むと『犬汁』に顔を押し付けた。
「いやああぁぁぁぁ」
「食えぇぇぇぇーっ」
「いやだぁぁぁっ…やぁぁぁぁぁぁぁ」
「食うんだっ!馬鹿者ぉぉぉぉーっ」
更に強く押し付けられた。
「んぶぶぶぶ…」
「食えっ!食うんだぁ!」
「ぶぐぐぐ…」
私は思い切り抵抗し、
『犬汁』の入ってる器をひっくり返した。
「この馬鹿者があぁぁぁぁぁ!
お前のせいで死んで行った犬を
無駄にする気かぁぁぁぁ〜っ!!」
バシッ! ゲシッ !ゴンッ!
おじいさんは狂った様に私を蹴り出した。
「いたぁい!いたぃあよぉぉ〜っんわあぁぁーん」
ゲシッ !グシッ! ドガッ!
「犬が言葉などしゃべらぁぁぁぁぁんっ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
私は叫びながらおじいさんに体当たりをすると
おじいさんはバランスを崩し倒れ込んだ。
ドサッ。
「ああああああああ!」
そして、私はすぐに走り出した。
おじいさんが追い掛けてくると感じたからだ。
タッタッタッタッ
「…はぁ…はぁ…はぁ」
タッタッタッタッ
私は無我夢中で走った。
だが、残念な事に逃げた方向が
ますます茂って来て山の中へと入っていた。
「はあっ…はあっ」
奥に行くのは危険と感じつつ
…でも今更さっきの場所に戻るなんて……。
「…はあっ…はあっ…」
少し歩いていると、
後ろからガサガサと音が聞こえて来た。
「………!?」
「何処に逃げたんじゃい!」
おじいさんの声がしたので私はまた走り出した。
タッタッタッタッ
「はあっはあっはあっ」
「待て待て待てえぇぇ」
おじいさんは凄い早さで追い掛けている。
私は必死に逃げるものの、
場所が森なだけあって木々の間を通るだけで
体中が傷だらけになっていた。
「はあっはあっはあっ」
「待て待て待てぇぇ」
「はあっはあっはあっ」
タッタッタッタッ
ザッザザッガサッガササ
「はあっはあっはあっ」
このまま走り続ける自信のない私は
どこか隠れる場所が無いか考えた。
だが、木以外何もないその場所で
何処に隠れようって言うのだ。
「はあっ はあっ」
おじいさんが追い掛けて来る反対側、
いわゆる前の奥の方から何か音が聞こえて来た。
「…あれは何の音?」
耳を澄ますと、工事現場の様な音がする。
「もしかすると…あそこに人がいるかも…」
「待て待て待てぇぇ」
後ろからまた声がした。
向こうの人達の所まで間に合わない。
私は周りを見渡した。
「……そうだっ」
私は思い切って木に登ることにした。
ちょうど枝の多い高めの木が目に入ったから
思い付いたんだけど。
「…はあっはあっ…よし」
私は呼吸を整えると、
まず手の届く小さな枝に右手で掴み、
右足を少し飛び出てる部分に足を掛け、
全体重を掛けて足を伸ばした。
「はあっ はあっ」
そして今度は左手の届く枝を掴み、
左足が掛かる場所を探す。
「はあっ はあっ」
それを見つけると、
今度は左足に全体重を掛け足を伸ばす。
それを繰り返した。
「はあっ はあっ」
ある程度高いトコまで登ると今度は息を殺した。
「…はあっ…は………」
「待て待てえぇぇぇ」
おじいさんが木々の間から斧を振り回しながら出て来た。
私は思わず唾を飲む。
「…ゴクッ」
「待て待てぇぇぇ……あれ!?
ここで止まってるぞ…
…どこだ?この辺だな…」
おじいさんは犬の様に
鼻をクンクンさせながら歩いていた。
長年山にいると臭いで
人の気配とかわかるのだろうか…?
「………。」
そしてついに私の隠れている木の下に辿り着いた。
「…ふんふん…ここか…」
そしておじいさんはゆっくりと顔を上げた。
「みぃ〜つぅけたぁ」
ニヤリと笑いながら言った。
「……ひぃっ」
びっくりした私は
枝から足を滑らした。
「…きゃあっ」
その衝動で鎖が木の枝に絡まる。
ガクンッッ!!
「ぐげげっ」
鎖が枝に巻き付いてる為、
そして鎖が首輪に付いてる為、
私は首吊りの状態になった。
「ぐげげぇげげっ!」
首の圧迫が顔中の血管を止血して息が出来ない。
そして自然と目が上を向き、
舌が口から飛び出そうなくらい出て、
手が首輪を無意識に外そうとする…
…が、外れるワケがない。
足はただバタバタと
空中を泳いでるかの様に動いている。
「げっげぇぇげっげっぐぎぎぎぎぎんぐっじゅう」
もがいてる私をおじいさんは楽しそうに見ていた。
「ははは…いいぞ!いいぞ!」
「げぇぇぇぅぅぐげげ」
少しずつ視界が白くなり意識がもうろうとし始めた。
相変わらず身体はバタバタと抵抗している。
「ははは!いいぞぉ!いいぞぉ!」
手をパチパチと叩き、
楽しそうに踊りまくるおじいさん。
その時、奥から声がした。
「そこにいるのは誰だっ!」
そう声がした瞬間、私は意識がなくなった。
その日の夕刊に私の記事が載った。
『行方不明の少女、自宅から20キロ離れた山から
意識不明の重体で発見。』
死にかけたところ、
山で作業してた人達に助けられたらしい。
………。
…………。
「…はっ。」
私は夢から覚めたような感覚に襲われて目を開いた。
「………。」
「起きた?ねぇ…私が誰だかわかる?」
見覚えのある顔が覗き込んでいた。
私はただ首を縦に振った。
「良かったぁ…あんた二日間意識無かったのよ?」
「………ママは?」
「…ママは…今はいないわ…
しばらく会えないかもね。
退院したら…おばさんと一緒に住もう?」
「………まさきは?」
「…まさきくんは持病の発作で…
喘息で亡くなったわ。ここを退院したら
叔母さんと一緒に住もう?」
そこにいるのはママの姉で叔母である。
私はその叔母が嫌いだったので
「うん」とは言えなかった。
「……可愛くないガキね……
それより最近、テレビで今回の事件が
毎日の様に特集され放映されてるのよ!
アンタは今、話題の人なの。」
「…私が?」
「そ。これからいくつもの番組やインタビューに
答えなきゃいけないのよ?アンタは!
結構なギャラで契約してるから宜しく〜!」
「…でも私…何も…」
「事件の夕方から翌日までの事を
そのまま話せばいいのよ。
あっ、言っとくけどこれからは
アンタの面倒はあたしが見るのよ?
ここで少しでも金が必要なの!
だからテレビを断ったりしたら
どうなるかわかってるんでしょうね?」
「………。」
叔母は鏡を見ながら化粧をしだした。
「…さっ、先生を呼んでくるわ!
あなたの意識が戻る感動な場面だものね。」
叔母さんは目薬を差し、勢いよくドアを開け
「先生〜!意識が戻りましたぁ〜!!」
大声でそう言いながら走っていった。
私は色んな不安を抱えたまま
先生が来るのを待った。
あんなに殺されかけたのに何故か命は助かった。
神様が助けてくれたのだろうか…?
…いや、逆に私は神様じゃなく
悪魔に気に入られてるかも知れない…。
何となくそう思った瞬間、
病院の非常ベルが鳴った。
「…え!?」
the end.
これにて完了です。
ありえない展開など80年代ホラーを意識して作りました。いつか、続きを書いてみたいです!
最後まで読んでくださって有難うございました。