002⇒下校
学校に着くと、さっきテレビで観た事件の話題で持ち切りだった。
「怖いよねぇ〜だって隣町だよ?」
「あたし昨日変な人見たかも〜…ジッーと見つめてんだよ?」
「あっいた!いた!放課後でしょ?あたしも見た」
だからと言ってその人が犯人とは限らない…そんな事よりも私の母親の虐待の方が社会問題だと思う…。
−私は胸の中でそう思いながらみんなの話を聞いていた。
しばらくすると教室に先生が入って来て同じ事を言い出した。
「みなさぁ〜ん!テレビでも言ってたように隣町の小学生が学校帰りに誘拐され…残念な姿となって発見されました。これは学校としてはいち問題です。明日から登下校はあなた達の両親にも協力して貰います。今日家に帰ったらこのプリントを渡して下さい。」
プリントを配る先生。
そんな事より…私は虐待されてるんだよ?目の前の生徒はどうでもいいの?
そんな感情を抱きながら先生を見つめたが、気付くはずもなく…まるで無視された気分。
…仕方ないか…。
それで人の心が通じるはずがないもんね。
その日の学校は特に変わった事は何もなく普通に刻々と時間だけが過ぎて行った。
私は家に帰りたくないので憂鬱だった。
だからと言って学校が楽しいワケではないが、家よりはマシだ。
だが、時間は止まる事なくあっという間に下校時間となった。
隣町の事件のせいで先生達は親切に校門やその近くまで見送ってくれてる。
有り難いけど欝陶しい。
一応、家に向かったものの家に帰りたくない気持ちがある為、私は本屋に入って時間を潰す事にした。けど、すぐに飽き 大して時間を潰せてない。
それでも日は沈み、夜になりかけていた。
「…さてと…帰るか…」
私は今日も苛立つ母親に覚悟を決め、帰る事にした。
しばらく歩いた頃、ふと異変に気付いた。
いや…本屋にいた時から感じていた気がする。
「………。」
…誰かの視線に……。
私はゆっくりと後ろを見た。
「……。」
人気のないいつも通る道。町並み以外誰もいなかった。
気のせいだと思い、私は歩き出した。
…ざっ…ざっ…
…やっぱり変だ…
確かに聞こえるのだ…。
私以外の足音が。
今度は物凄い速さで後ろを振り返った。
すると人影の様なものがサッと電柱の後ろに隠れた。
「…そこに誰かいるの?」
「………。」
その人影は私の声に反応する事もなく、電柱に隠れたままだった。
「………。」
普通の人ならそこで気持ち悪くなるだろうけど、私は違う。
「そこにいるのわかってるんだからねっ!!」
私はズカズカとその電柱に向かって歩き出し、相手の顔を見ようとした。
「…ちょっと!」
電柱の後ろを見た。
そこには確かに人がいた。
…制服を着ている男の人だった。
でも様子が少しおかしい。ブルブルと体を震わしているのだ。
「……?」
私は意味がわからなく首を傾げた。
「…はあっ…はあっ…」
そしてどこと無く息苦しい上に異臭がした。
「…はっ…はっ」
異臭の原因がわかった。彼は尿を漏らしていたのだ。ズボンが湿ってくっついてるのがわかる。
「…見られた…」
お兄さんは急に口を開いた。
「…はっ…はっ…あの子は僕に気付く前にイッたのに…君は…僕に気付き…僕を見た…あわわ…」
お兄さんの体は更に震え、片手で頭を掻きむしっていた。
「……?」
私はさすがに気持ち悪くなり、ゆっくりと後ずさりした。
「…はっ…はっ…あの子は僕を見る事は出来なかった…だって僕が…ヤッちゃったからね!…はっ…むむ…そうだよ……気付いてもヤッちゃえば皆同じさ……君だってそう思うだろ?」
ますます意味のわからない言動に私は恐くなり、すぐにでも逃げ出したかった。
お兄さんは背中に背負ってるリュックを下ろすと中から何かを取り出そうとした。慌ててる為、リュックのポケットから数枚の写真がパラパラと落ちた。
「…はっ…あわわ…あわわ…また…見られた…もう何やってんだ僕は…はっ…もうっ…ぅ…うううっ」
お兄さんは苛立ちからか何故か泣き出した。だけど……
そんな事はどうでもいい……
そんな事より…
今…落ちた写真…
あの少女が…
泣いてる様な叫んでる様なドアップの顔と…
腕がない写真と
足が切断されてる写真と
道に落ちてるボールみたいな写真と…
あの少女が…
「…ぅぅぅ…僕は何やってんだぁぁぁ…取り返しのつかない事やって…ひっく…ひっく…まだ17なのに…」
テレビに出てた
あの少女が…
学校で話題だった
あの少女が…
お兄さんは手が震えてる為、写真をうまく拾えてない。
「あぁぁぁ!何やってんだよぉぉっ!!もぅ〜僕のアフォ!ひっく…ひっく…」
「お兄さんがやったの?」
「…え?」
お兄さんは鼻水を垂らしながら私を見た。
「お兄さんがあの子を?」
私はゆっくりと言った。
お兄さんはしばらく私を見ていたがまた泣き出した。
「…ぅぅうっ…僕は一体何やってんだよ…本当に馬鹿だよ…馬鹿だよ…こんな小さな子にバレる様なヘマやって…ひっく…ひっく」
お兄さんは写真を拾うとリュックからカメラを取り出し、いきなり私を撮った。
パシャッ。
「きゃっ!」
いきなりの眩しさに目が眩む。
「………。」
そして目が見えた頃にはお兄さんの顔がさっきと違って不気味な笑顔で私を見ていた。