悪童3人兄弟と、雇われた使用人。ただしその者、とある魔法使いなり。
主人公が言いたい放題してます、口が悪いです。お気をつけください。
「見極めをよろしく頼む」
侯爵家ご当主にそう言われたら、頷くしかない。
仕方がなく短期で雇われ、侯爵家の使用人として今日から働き始めることになった。
まったくもってやる気も出なければ、面倒でしかないが、仕事ならやるしかないのだ。
さて、お手並み拝見といきますか。
先輩侍女に連れられて、玄関ホールの階段を上がろうとした時、上からくすくすと嫌みったらしく笑う声が聞こえた。
その声に先輩が条件反射的にビクリとしたのが、隣にいてわかった。
それから頭を下げたので、誰かもわからないまま先輩に倣って頭を下げた。
「……新人は狙われやすいから、気をつけてね」
先輩侍女の震えた小さい声が届いた時には、なぜか私は上から水を被っていた。
は。
前髪からポタポタと雫が落ちていき、顎を水が滴ったのがわかった。
いきなり宣戦布告かよ…。
顔を上げてすっかり濡れた袖口で額を拭うと、やっぱり上からくすくすと笑う声が聞こえた。
隣で先輩が顔を青くしていたが、気にせずに階段の上にいる人物を見た。
男の子が三人、綺麗な格好した少年たちだった。
侯爵家の三兄弟だろう、侯爵様に頼まれた三人はこいつらか…。
ニタニタと薄気味悪い顔でこちらを見ている。
私の横には、割れた花瓶が転がっている。
どうやら、花瓶を私に目掛けてぶん投げてきたらしい。
まったく、やることがガキくさいというか…。
早速吐きたいため息を飲み込んで、私はヅカヅカと階段を上がっていった。
私が通ったあとの絨毯にシミができていく。
先輩の「あ、待って…っ」というか細い声は無視させてもらって、三兄弟の前までやってきた。
なんともまあ生意気そうなガキなことで。
踏ん反りかえっていられるのも今のうちだぞ、小僧ども。
「今日から使用人としてお世話になります、ムウラと申します。ところで、どういった了見でこんな幼稚な真似をされているのでしょうか? 初対面の人間相手に口がついているのにかかわらず挨拶もできずに、水をぶっかけるのが侯爵家の皆様の礼儀という認識で合っているでしょうか?」
それはそれは滑らかに躊躇なくそう言ってやると、三兄弟は何を言われたのか理解していくとともに顔を赤らめていった。
あらあら、言葉は通じるようで。
「おいっ、無礼だぞ!」
「貴様、誰に向かってそんな口を聞いているんだ!」
「ぼく、こいつきらーい!」
10歳、8歳、7歳がそれぞれに文句を言ってくるが、それを言いたいのはこちらの方だ。
お前らのせいで、こんな面倒な仕事が私に回ってきたんだぞ。
「…はあ、そう言われまして、名乗られていませんし。どなたか存じません」
「仕える者の顔もわからないのか!? 使えない奴だなっ!」
「私がお仕えしているのは侯爵様だけですので」
しれっと言い返すと、次男がさらに食ってかかってきた。
「オレたちは侯爵家の息子たちなんだぞ!貴様なんかよりもずっと偉いんだからなっ!」
「侯爵子息の皆様たちでしたか、それはそれは。……ところで、皆様のどこが偉いのですか?」
「は…?」
「ですから、ご兄弟の皆様のどこが偉いというのですか?」
同じ言葉を繰り返すと、三男がキャンキャン声を上げた。
「ぼくたちはお父様の子どもなんだっ!偉いに決まっているよ!」
「ですから、どうしてですか?」
「な、にを言っているんだ…? 頭おかしいの?」
「私も侯爵様が偉い方だというのは知っております。爵位を継ぎ、領地を治め、王家にお仕えしている素晴らしい方です。ですが、ただ侯爵家にお生まれになっただけで、あなたがた個人が偉いわけでは特にないですよね? ですから、なぜ偉いのかと聞いております」
悪びれもせずにそう言い続けると、長男が顔を引き攣らせながら、髪を掻き上げた。
ポーズだけは一丁前らしい。
それなりの貴族に見える上に立つ者の雰囲気はあった、雰囲気だけとも言う。
「俺たちは輝かしい侯爵家に生まれた時点で、君とは違うんだよ。俺らより偉い人間なんて公爵家か王族か、国で重宝されている貴重な魔法使いなものさ。それがわからないなんて、可哀想な人だね」
「……ですから、お生まれになっただけで実績が何もないのに、どうして偉いのかと尋ねているのですが。問いには答えで返してもらっていいでしょうか?」
人が時間を割いて訊いているのだから、うだうだ言ってないでスパッと答えろよ。
前髪から垂れた雫が鬱陶しいし、侍女用の制服もびちょびちょで気持ちが悪い。
次男と三男は口をあんぐり開けて、長男がとうとう激昂した。
「だからっ!貴族という身分である以上、俺らは偉いんだよっ!」
「それで偉いのは、侯爵様だけです。皆様は当てはまりません」
「はああ!? 俺らはいつかこの家を継いで…っ」
「それは将来の話ですし、それもお三人のうちのどなたか一人だけですよね?」
私が淡々とそう詰めると、何か言い募ろうとしていた長男の口がグッと閉じた。
自分たちの立場がわかっていないのは、そちらではないかと言っているんだが、通じているのか?これ?
「後継者はお一人のはずです。残りのお二人は貴族でいられるか、現時点では未確定事項にございます。ですから、何度も確認しているではないですか。皆様はどうして偉いのですか?」
玄関ホールがシーンと静まり、長男は私を睨み、次男は歯を食いしばり、三男は今にも突っかかってきそうになっていた。
うむ、初日から飛ばしすぎたかもしれん。
でも、いいデータは取れただろう。
私の仕事は侯爵様に頼まれた『見極め』をすることだ。
そのためには、事実と証拠集めが今は必要だ。
この短時間だけでもたんまり映像は撮れたようだし、今日はこの辺で……。
「うるさいっ!お父様に言いつけて、お前なんかクビにしてやる!」
急に三男がそう叫ぶと、私の体を突き飛ばした。
一瞬反応が遅れて、足がズルッと滑った。
そのままひっくり返るように、私は階段から真っ逆さまに落ちていった。
「チッ」
思わず舌打ちが出たけれど、そんなことは気にしていられない。
「きゃあああっ…!」という先輩侍女の悲鳴を聞きながら、うまいこと落下速度をいなして、床に頭を打ちつけるのを回避した。
……初っ端から、殺人未遂かよ。
思い上がったガキどもめ。
起き上がって階段の上を睨んだけど、少年たちはいなくなっていた。
逃げ足だけは、早いことで。
「あ、あなたっ、ムウラ、大丈夫なの…!?」
先輩が駆け寄ってきたので、頭をさすって血が出ていないことをアピールした。
「なんか、危機一髪だったみたいです」
「危機一髪じゃないわよっ!あなた無謀なの!? ご子息様たちにいきなりあんなことをっ…!」
「言いたいことは言っていいと、侯爵様に許可をいただいていますので」
「ええぇぇ…? あなただけどういう雇用形態なのよ…?」
先輩の顔が青を通り越して真っ白だが、短期雇用の件は口外禁止なので、この家で私の本当の仕事を知っているのは侯爵様だけだ。
他の使用人にも、もちろんこの先輩侍女にも知らされていない。
だから、はぐらかしておくのが一番だ。
「それよりも、制服を着替えてきていいですか? 濡れてて気持ちが悪いので」
「あ、ああ…、そうね。床と階段の濡れたところはこちらで片付けておくから、心配しないで」
怯えながら仕事をしている割には腐っていないところを見るに、この先輩はいい人なのだろう。
この人のことを報告して、給料上げてもらうとかもできたらいいな。
「ムウラ…?」
「あ、はい。ありがとうございます、ちょっと行ってきます」
そう言って、私は玄関ホールから外に出ていった。
後ろからは「あれ…? 濡れてない? もう乾いたのかしら?」という不思議そうにしている先輩の声が聞こえた。
私はそのまま庭に出て、ガシガシと頭を掻いた。
んあああああああっっ!!!なんだ、あのガキども!
ちょっといい家に生まれたくらいで、偉そ〜〜にっ。
思っていたよりも、クソガキどもがクソガキでクソガキだった、……くそがっ!
はああ…。
……なーんてことは、この屋敷にいる間は言えないわけで、脳内だけに留めておく。
短期間の仕事の間に脳みそに罵詈雑言が溜まって、脳みそおかしくなっちゃうんじゃないか、これ…?
私は制服の二の腕あたりをパッパッと払うように手で触れた。
そうすると、みるみるうちに制服が乾いていった。
風魔法で乾かすなんて、朝飯前だが。
「……この屋敷にいる間は、人前で大々的に魔法が使えないから厄介だな」
ひとりごちて、今度こそ、はああと深いため息を吐いた。
今は訳あって侯爵様に雇われているただの使用人だが、私はこの世界に数少なく存在する貴重な魔法使いだ。
長男坊が言っていたように、魔法使いは重宝されているのでまあまあ偉い立場だ。
本来ならあのガキなんかよりも、なんなら侯爵様と同じくらいの立場なんだけれども、仕事が仕事だから今の状況はまあ仕方がない。
さっさと終わんねーかな、この仕事。
さっき階段から落とされた時も、階段を水浸しにした時も、魔法を使ってなかったことにしたけれど、できればあんまり使いたくない。疲れるから。
目の前をふよふよ浮いている透明の魔石を手に掴んで、中身を確認していく。
「……おー、ちゃんと作動してるな。映像もよく撮れてる。私が突き飛ばされた瞬間もバッチリじゃん、よしよし」
その場の状況を映像のまま写し取れる魔法もきちんと作用していると確認できたし、しばらくはこの映像魔石以外で魔法を使うのは控えたいところだ。
「まあ、あの三兄弟が使わせるような動きをしないことを祈るしかないんだが…」
もう一回だけため息を吐いて、私は先輩侍女のところへ戻っていったのだった。
だけれど、そんな希望も虚しく、次から次へと頭の痛い状況になっていった。
どうも生意気を通り越して、尊大な彼ら三兄弟は使用人を困らせることが楽しみのようだった。
気に入らない味付けだと食べ物を床に投げつけてみたり、のろまと罵って後ろから突き飛ばしてみたり、何を思ったのか侍女の制服をハサミで切り刻んでみたり、と一日だけでも数えるのが面倒なほどに遊び回っていた。
そんなもの楽しみにするなと言いたいが、いちいち注意しようとすること自体も疲れが溜まっていく。
……よく、この家でみんな働いていけるな。
他の家よりも給料がいい理由はわかったけど、納得はいかない金額だな。
そんなことを思っているうちに、初日で三兄弟に目をつけられた私は、とうとう絡まれる日がきたのだった。
「おい、なんでまだお前がいるんだよ」
談話室の掃除をしていた時に、三人揃ってやってきたので、やっぱり先輩侍女が身震いした。
暖炉の火がついているのに、寒気がするなんておかしな状況だことで。
「……」
「何無視してんだよ、貴様!」
「……え、ああ、私でしたか?」
白々しくそう答えながら、窓拭きを続けていく。
魔法が使えたら窓拭きなんてあっという間なのになぁ、ついでにガキどもの口も噤ませられるのになぁ。
「お前以外に誰がいるんだよ!この無礼者っ!」
「名前を呼ばれていませんでしたので、お前や貴様では誰かわかりかねます」
「いつまでもそんな口が聞けると思うなよ!父様に言いつけたんだからなっ!」
「…はあ、その割には私クビになっていませんし、皆様の見立ては見当違いのようでございますね」
私がわざとらしく肩を竦めると、なかなかに低い声が響いた。
「……いい加減にしろよ」
それは長男から発せられたもので、しっかりと私を睨んでいた。
この前の、「んで、お前たちはどうして偉いわけ???」は、効果があまりなかったようだ。
あそこであらためてくれたらよかったものを、はあーあ。
「お前はこの家に雇われた使用人だ。そして、俺たちは使用人を使う側の人間だ。雲泥の差があることを忘れるなよ?」
ほう、10歳にしては難しい言葉をご存知で。
勉強はできるというのだから、もったいないよな。残念残念。
「私の雇い主は、侯爵様にございます。お三方ではございませんので」
念を押してそう言うと、三男が手に持っていた本が飛んできた。
すーぐ物を投げる、これに関しては早めに直させないとダメだな。
「そんな口を聞く人間は、この侯爵家にはいらないんだよ!」
「さっさと失せろ!」
「二度と俺たちの前に顔を出すんじゃないっ!」
「……いや、そちらからこの談話室に来られたじゃないですか」
つい言い返すと、ギャアギャア喚き声が増していった。
声変わりしていない声って、キンキンしていてうるせえんだよなぁ…。
耳が痛い、先輩にも聞かせることになって申し訳ないな。
この家の使用人たちはとても仕事ができるのに、こんな小童どもに怯えて暮らさなきゃいけないんだから大変だ。
仕事ができるから侯爵様に雇われているというのが、なんとも皮肉というか。
まあ、だからこそ私が短期でここにいるわけだから、早く役に立ちたいな。
チラリと透明な魔石に目をやったが、魔力を感じるのでしっかり作動しているようだ。
この映像を持って、証拠としたいところだけれど…。
そんなことを思って少し目を離しているうちに、長男が暖炉に近づいていった。
そのまま燃えている薪を火ばさみで掴んで、何を思ったのかそれを部屋の真ん中へと放り込んできた。
「お前なんか今すぐ出てけーっ!」
長男に応じるように三男がそう叫ぶと、次男も加勢して、火のついた薪が空中を舞った。
……本当にいい加減にしろよ。
ブチギレそうになった時、私の制服の裾に火が移って、あっという間に燃え上がっていった。
今回は先輩侍女の悲鳴も聞こえず、一気に火に包まれた私を見て、嬉々としてはしゃいでいる三兄弟の声が聞こえてくるだけだった。
……そろそろ根性を叩き直す時がきたらしい。
これで私も本来の仕事に戻れるというものだ。
ストレスが半端なかったから、髪が禿げる前に任務が終えられそうでよかった。
殺人未遂二回目、もう情けもいらないだろう。
私は身を包んでいる炎に触って、ブワッと風を舞い上がらせた。
勢いよく舞った風は、火の粉を吹き飛ばし、そのまま暖炉へと火を返していく。
三兄弟たちはぽかんとして、瞬きしていた。
こんなことできるのは魔法使いくらいなんだから、つまらないことで魔法を使わせるんじゃないよ。
制服が少し焦げたくらいで、私自身は無事だ。
これくらいでやられるようなら、魔法使い失格ってものだ。
よかった…、先輩に悍ましい殺人現場なんて見せずに済んで。
と、思ったけれど、先輩はふらりとその場で倒れてしまったので、慌てて今使っていた風を送って体を受け止めた。
「……セーフ、大丈夫ですか先輩」
「ムウラ、あなた……」
それだけ言って、事切れるように先輩は気絶してしまった。
これからのことを思うと、そのまま眠ってくれていた方がいいかもしれない。
「さて、小僧ども。準備はいいか?」
私の悲しいくらい低い声に、三兄弟はようやく顔を歪めたのだった。
「……という感じで、今ご覧になったものが逐一撮っていたご子息たちの様子の映像になります」
私は報告とともに映像を見せながら、侯爵様の執務室で映像魔石の説明をしていた。
私の隣には映像を見ても眉一つ動かさずに座っている侯爵様と、その向かいに床に膝をついている三兄弟が身を竦めている。
悪事がぜーーーんぶ侯爵様に筒抜けになったので、さすがに彼らも言い逃れはできないとわかっているらしい。
だったら、最初からしなければいいのに。
「……なるほどね? ムウラ殿、貴重な証拠集め感謝する」
「お役に立ったようで」
「ああ、とっても役に立ったよ。ムウラ殿から、他に何かあるかな?」
「そうですね。先輩侍女さんには大変お世話になったので、報奨金などが出ればいいなと」
「心得た。今回は馬鹿な子どもたちのためにすまなかった。ありがとうございました、ムウラ殿」
侯爵様は優しい顔で笑って、私を労ってくれた。
いえいえ、こちらも仕事をしたまでですし、なんなら本番はこれからと言ってもいいですし。
さーて、この三人どうなるかな。
「──ところで、お前たちは『北のならずの塔』は知っているかい?」
にこやかな侯爵様の声に、三兄弟の肩が跳ねたのが見えた。
あーあー、可哀想なくらい縮こまっちゃって。
「き、北のならずの塔、ですか……?」
長男の繰り返した言葉に、三男が兄にぎゅっと抱きついて、三人でひしめき合うように体を寄せた。
わかりやすくガクブル震えているが、誰か失禁でもしちまうんじゃないか?
それも、仕方がない。
『北のならずの塔』は、この国では寝物語でよく聞かせられるものの一つだ。
近くに何もない極寒の地にぽつんと一つだけ建っている物悲しい塔。
「悪い子はみんな北の塔に閉じ込められていい子になるまで帰ってこられない、怖くて恐ろしい場所なんだ。だからいい子にしていないと、足を掴まれて連れていかれちゃうよ」、そう言われて育つ子どもたちにとっては、最も恐怖の象徴と言ってもいい。
「北のならずの塔はね、実際は魔法使いによって若い少年少女の、生活から態度から何まで全てを矯正してくれる更生施設なんだよ」
侯爵様はトーンを変えずにそう言って、私もそれと同じようなトーンで続きを喋った。
「ぶっちゃけて言うのなら、素行不良なんかで手に負えない若者の収容施設ですね」
「そうそう、ムウラ殿はそこにお勤めの魔法使いなんだ」
侯爵様の言葉に三兄弟は必死についていっているようで、顔がどんどんと強張っていく。
そんな人を怪物かのような目で見るなんて、失礼じゃないか小僧たち。
「ムウラ殿はとっても偉い人なんだが、今回は私の頼みで無理を言って、お前たち兄弟の監視をしてもらったんだよ」
侯爵様の優しい音色の声に、部屋中の温度が下がるようなのに、私と侯爵様はずっとニコニコ。
それに対して、三兄弟たちは歯をカチカチ言わせている。
説明の途中で、気を失わないといいけど。
話は最後までちゃーんと聞こうね? クソガキども?
「そういうわけで、ムウラ殿。この子ら三人とも北のならずの塔に入れてもらうことはできるだろうか?」
「そっ、そんな、父上…!」
「父様、本気ですか…!」
「イヤだ、ぼく行きたくないっ…!」
すぐに喚いた三兄弟だったが、冷ややかな侯爵様の目に気づいて、口を噤み始めた。
ほーほー、侯爵様の言うことは聞くのか。
まあ、それも今日までだろうけど。
「私はムウラ殿に訊いている。お前たちに発言を許した覚えはないよ?」
侯爵様は優しいお顔で私の方を向いて首を傾げられたので、私は頷いた。
「こちらとしては収容しても問題ありませんが、よろしいのですか?」
「ああ。家として汚名だが、使えない馬鹿を後継ぎにするわけにはいかないからね。処分するなら早い方がいい」
「ですが、塔でも更生されていないと烙印を押された場合、奴隷落ちになりますよ?」
私の説明に、三兄弟の引き攣った顔が視界の端に見えた。
だって、そういう施設だし。
だからこそ、寝物語で散々言われてきたでしょう? 『いい子になるまで帰ってこられない』って。
そして、足を掴まれて連れ戻されていくんだよ、魔法使い相手だから君らに勝ち目はないし。
「それも仕方がないことだ。崇高な魔法使いたちに見限られた人間など、この世にいないも同然だ」
おや、嬉しいことを言ってくれる。
魔法使いは他の人間よりも仕事をさせられまくっているが、能力を認められるのはそれに釣り合うというものだ。
そう思うと、この侯爵家の使用人たちの仕事と対価が釣り合っていないのは、やっぱりいただけないよな〜。
私は三兄弟の顔を確認して、もう一度侯爵様の方を向いた。
そして、ひらりと手で三兄弟を指した。
「ご子息たちは顔がいいので、労働奴隷よりも性奴隷として求められちゃうと思いますよ?」
はあ、はあ…、と三人のうちの誰かの過呼吸が聞こえ始めた。
さすがは貴族の子、知識だけはあるようだ。
つまり、私と侯爵様の大人の会話の内容も、きちんと理解できているわけだ。
「おや、奴隷になっても利用価値があるなんて有難いことだね」
「いるんですよね〜、生まれがいい人間をぐちゃぐちゃにしたがる物好きなジジイとかババアとかぁ。あと、子どもしか相手をしない変態とか」
「そうか。では、更生しなかった場合はそのようにしておくれ。……まあ、我が家に三人の息子なんて、きっといなかったんだろうけどね」
最後まで優しい声の侯爵様に、私は頭を下げて礼を尽くした。
侯爵様もまた私に頭を下げたから、子どもたちの虚ろな目が、今度こそしっかり私を捉えた。
ほほーん、今更だけど目が合った。
私を一人の人として、…いや魔法使いとして認識したか。
残念ながらお前らよりはずっと偉いし、『偉いから認識する』ではダメなんだよね〜、わかるかなぁ〜?
取り返しのつかないことになってから、その目で見られても意味ないけど。
「余計なお世話ですが、もしよろしければこちらをお使いください。餞別です」
私は侯爵様の前に小瓶を置いて、くるりと三兄弟の方へと歩いていく。
「魔法使い殿のお土産なんて、嬉しいね」
「それは奥方様が飲むと妊娠しやすくなります、あと男児が生まれやすくなる媚薬になります」
「そうか。ではまず新しく後妻をとらないとだめですね」
「もういらっしゃる予定なのでしょう?」
私が意地悪く笑うと、侯爵様もニコリと微笑んだ。
「ムウラ殿にこちらに来てもらう手筈と一緒に進めてはいましたからね、新しい妻の打診は」
こりゃあ、この三兄弟に希望が微塵もない。かわいそうに。
私は三兄弟の前に仁王立ちして、腕を組んだ。
そうして、手のかかるクソガキどもを見下ろしたのだった。
「さーーて、ガキンチョども。これからはしっかり教育していくから、よろしくな」
了
お読みくださりありがとうございました!!
275日目。




