第7話
「ブレスドって輩はただ人じゃ」
「だがな勝てばどんな願いも叶うと言われておる」
「願いを賭けた者は強い。なにより必死さが違う」
「儂らだって願いはある」
「儂は死の間際、呼ばれた。強さを求めるなら来いと」
「儂はこれでも剣を志しておる。誰にも負けぬ強さを得なければ活人剣は極められぬ」
「俺は果心居士に呼ばれた」
「亡き妻に会いたければ来いとな」
「みな願いは持ってる」
「願いは盲目にする。呑まれるな」
ドアがノックされた。
「十兵衛さま、王都に集まるようご指示が」
「あいわかった」
「鷹刀、王都に行く間、アンジーについていてやれ。あ奴は脆い」
三人が城太郎の部屋を出ると外は静寂だった。
アンジーが不安そうに俯いている。
今にも目から零れそうだ。
「アンジー、鷹刀の面倒を頼むぞ」
「儂らは先に行く」
アンジーの顔が明るくなり、大きく頷く。
十兵衛も満足そうに頷くと城太郎と共に出て行った。
アンジーと鷹刀が乗ると、馬車はゆっくりと動き出した。
目の前にいる鷹刀を暫く見つめていた。
「鷹刀おじさん…わたしのこと…覚えてますか」
「ああ」
「お父さん、よく鷹刀おじさんのこと話してました」
「お酒飲むといっつも」
「あいつは俺のおかげで生きてられるというが」
「俺こそ鷹刀に生かされてた、って」
「何かあればあいつを頼れって」
「わたし…みんなを助けたい」
アンジーが崩れ、鷹刀に抱きつく。
鷹刀は何も言わず、暫く抱きしめていた。
「お前を助けて欲しい、そう頼まれた」
「凛堂の頼みだ…お前は凛堂の娘だ」
「そのお前が守る全てを俺も守る」
「だから今は休め」
アンジーは頷くと鷹刀の隣に座り、凭れ掛かる。
静かな寝息が聞こえてくるのに時間はかからなかった。
馬車が薄闇の中進んで行く。
王都が近いのか前方が明るくなってきている。
アンジーはまだ眠っている。
鷹刀は無表情で窓の外を見ている。
路肩には何人もの人が倒れており、その周りを白い外套を纏った老若男女が動き回っている。
頻繁に白い光が輝く。
膝から下が布で包まれた男が倒れている。
布は赤黒く染まっており、地面に止め処無く流れている。
傍らには年老いた男と少年が何事か話している。
少年の言葉に年老いた男が首を振る。
年老いた男が布の上から手を当てると、白い光と共に地面に垂れなくなった。
少年が安堵の表情を浮かべた時、口から血を吐いて年老いた男が崩れ落ちた。
すぐさま少年が年老いた男に手を翳す。
淡い白い光が生まれるが、暫くすると年老いた男の手が少年の手を掴む。
年老いた男は笑顔を浮かべながら首を振った。
少年の目から涙が落ちた。
鷹刀は窓の外を見ていた。
王都の灯りが近づいて来る。
前の方が明るくなるのに対して、白い光は少しづつ少なくなって行く。
やがて白い光は見えなくなった。
やがて馬車は停まった。
アンジーが目を覚ます。
鷹刀の腕を掴んでいたことに気付き、慌てて手を離す。
「着きました。」
アンジーの後から馬車を降りる。
馬車は宮殿のような建物の端に停まっている。
宮殿のような建物は塔のように煙を燻らせている。
「無事のようだな」
何人かの女性に囲まれていた城太郎が立ち上がる。
「橋と港を見張れ」
「奴らは船と両方で来るはずじゃ」
女たちが城太郎に頷き散って行く。
「中で十兵衛が待っている」
城太郎たちは宮殿の中に入る。
長い通路を抜けると、テーブルが置いているへやに突き当たった。
テーブルには地図が広げられており、十兵衛をはじめとして10人ほどの女性が立っている。
鷹刀に気付くと手招きした。
「鷹刀、こちらがこの国の領主ジョルジーヌじゃ」
十兵衛が中央に立っている女性を紹介する。
「園長先生!」
アンジーがジョルジーヌに抱きつく。
ジョルジーヌがアンジーの頭を撫でる。
「アンジー、無事だったか」
「鷹刀おじさんがいてくれましたから」
「そうか」
「はじめてお目にかかる、新しいブレスド殿」
「私はこの国の領主であるジョルジーヌである」
「アンジーが通う学園の園長でもある」
「園長先生はお母さんの友達で、園長先生のお家で今は暮らしてるの」
「そうか」
「鷹刀も聞いてくれ」
「城太郎の話では今夜中に奴らは来るようじゃ」
「子供たちは檻に入れられ、馬車で運ばれてるようじゃ」
「十兵衛兄さま、子供たちを助けるため、私を送ってください」
若い女性が十兵衛を見上げる。
「騎士団が橋の前で止めます!」
「その間に城太郎さん達が助けてくれれば」
「回復魔法の魔法師が未だ回復できておらぬ」
「アカネ達に奴らを抑えている間に回復させる」
「それでよいのじゃな」
十兵衛がアカネとジョルジーヌを見る。
二人とも頷いた。




