第17話
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
いよいよ最終話になります。
最後までイミルの物語を楽しんでください。
今や戦場は入り乱れていた。
「右だ!距離を取れ!」
十兵衛の声が飛ぶ。
影へ、騎士が剣を振るう。
輪郭だけのそれに、刃が食い込む。
次の瞬間、血が弾けた。
銃声が響く。
魔法師の前に騎士が飛び出す。
盾が軋み、砕ける。
「回復を!」
「まだだ、防御を維持しろ!」
銀色の光が幾重にも重なり合う。
だが…決定打にはならない。
魔法師の中で明らかにアンジーが目立っていた。
アンジーの防御魔法により大幅に被害を押さえている。
凛堂の視線が、アンジーに向く。
「あの銀色の髪の少女を止めるんだ」
部下のチャンピオンに指示するが、首を振る。
「俺たちにはここの住民は見えないです」
「そうか…お前たちには見えないか」
「あの柱のそばの“影”が見えるか」
「ああ、見える」
「あそこに火力を集中するんだ」
鷹刀が、わずかに視線を動かす。
銀色の膜の隙間から銃弾が、滑り込むように飛び込んで来る。
アンジーが隠れている柱を穿っていく。
「アンジー…さっきの力は使えないのか」
振り返らず後ろにいるアンジーに声をかける。
「ごめんなさい…鷹刀おじさんのはまだ使えない」
「俺以外のなら使えるのか」
「多分使えると思う…でも鷹刀おじさん以外はわからない」
「そうか」
鷹刀がアンジーの腕を引く。
そのまま、自分の前へ引き寄せた。
「なら」
「ここにいろ」
「俺なら…お前を狙う」
アンジーの深藍の瞳をじっと見つめる。
アンジーが頷いた。
柱から、男の前に出た“影”へ銃弾が飛ぶ。
男を中心に張られた銀色の膜が、それを弾き返す。
「これじゃ埒が明かない」
「あの男、いい的なのに全部弾かれちまう」
「凛堂さん…どうするよ」
チャンピオンたちが凛堂に愚痴る。
「鷹刀…どういうつもりだ」
凛堂が少女の後ろに立つ鷹刀を睨む。
「俺が様子を見てくる」
凛堂が、鷹刀の前へ歩き出す。
「アンジー…ここで待て」
鷹刀がアンジーを背後に回し、凛堂へと向かう。
二人の距離は、数歩もない。
「鷹刀…どういうつもりだ」
「何故庇う?」
「俺はお前の頼みを果たしてるに過ぎない」
「どういう意味だ?」
「凛堂…らしくないな」
「想像が足りない」
「お前は俺に何を頼んだ?」
凛堂の目が鋭く細められる。
「…まさか」
「自分の望みに夢中で、見えなくなったか」
「アンジー!いや…良子!」
鷹刀がアンジーを呼び寄せる。
凛堂が、動きを止めた。
アンジーが恐る恐る近づく。
その一歩一歩から、目が離せない。
「……」
「お父さんだ…」
凛堂が息を呑む。
「良子…なのか」
鷹刀が静かに言う。
「そうだ」
凛堂が、ゆっくりと手を伸ばす。
震えている。
アンジーの頬に触れる。
「……良子」
その瞬間、崩れる。
「良子!」
「お父さん!」
二人は、強く抱き合った。
二人とも泣いている。
「良子…会いたかった」
「お父さん…先に行っちゃってごめんね」
「俺こそ助けてやれなかった」
「ううん。最後まで一緒にいてくれて嬉しかったよ」
「ありがとう」
「…俺の方だ」
銃声が、まだ遠くで響いている。
「お父さん…わたしたちを助けて」
「ああ。もちろんだ。俺は良子に会いたかっただけだ」
「もう大丈夫だ」
「本当に?」
「本当だ。もう終わりにする」
アンジーが頷いて凛堂の胸に顔を埋める。
その表情は鷹刀がここに来てはじめて見るものだった。
気付けば、背後に影が迫っていた。
チャンピオン達からは影が凛堂に今にも襲いかかるように見える。
「凛堂が危ない」
「撃て」
チャンピオン達が凛堂の背後にいる影に向け狙いを定める。
「凛堂!後ろだ」
鷹刀の声で凛堂が振り返る。
凛堂の目に少年のような若い騎士が振り被る剣が見えた。
「お父さん!」
凛堂が剣を交わす。
「未だ!」
一斉にチャンピオン達から放たれる。
その銃撃は寸分違わず騎士達を狙っていた。
凛堂が迫る騎士を掻い潜り、前に出る。
その時、音が消えた。
銃弾は…すべて、凛堂を貫いていた。
「お父さん!」
「いや!」
アンジーが倒れた凛堂に駆け寄る。
騎士達は誰も、動けなかった。
「……助けて、くれたのか」
少年が血溜まりに倒れる凛堂を見下ろす。
鷹刀が無言で頷く。
「少年…怪我はないか」
「なんで…」
鷹刀が、ゆっくりと少年を見る。
「子供を守るのは…大人の責任だ」
「…酷いことをした」
「…すまなかった」
「良子…会えてよかった。幸せにな」
「お父さん…まだ話したいよ」
アンジーが凛堂の頭を膝に乗せる。
割れた眼鏡の奥で、凛堂の目は、穏やかに笑っていた。
「鷹刀…ありがとう」
「ああ…またな」
凛堂は血だらけの手で鷹刀と握手する。
凛堂の身体が、淡い光に包まれる。
その光は、静かにほどけるように、消えた。
チャンピオン達も、静かに光へと消えていった。
少しの沈黙。
「終わったようじゃな」
十兵衛が鷹刀の肩を叩く。
「まだこの国のブレスドがいる。鷹刀どうする?」
十兵衛が探るように見つめる。
「俺の願いは叶った」
鷹刀の肩から、力が抜ける。
そして、笑った。
「鷹刀おじさん…行っちゃうの?」
アンジーが鷹刀のシャツ袖を掴む。
「またいつかどこかで会える」
鷹刀が笑いながらアンジーの頭を撫でる。
「俺は願いを放棄する!」
鷹刀が光となって消えていく。
アンジーの手の中から、温もりが消えた。
「この戦いも終わった…儂も旅に出る」
十兵衛が周りを見渡す。
「十兵衛おじさんも…行っちゃうの?」
「さみしいよ」
「鷹刀が言ってたであろう」
「いつかまた何処かで、それが人の世じゃ」
十兵衛は笑うと去って行く。
「十兵衛兄さま!アカネを忘れてます!」
アカネが深く頭を下げ、アンジーに手を振り、十兵衛を追って行く。
「ありがとう!またね!」
アンジーは十兵衛達の背に手を振っていた。
鷹刀の携帯電話が鳴った。
親友の凛堂涼麻だった。
「鷹刀…久しぶり」
「ああ、少しは元気になったか」
「まだまだだけど…」
「良子が心配する」
「そか…そうだなどこかで心配しているかもしれないな」
「心配かけたな」
「問題ない」
「ちょっと付き合ってくれないか」
「今からか」
「会いたい。といってもいつも会っていた気がするんだが」
「わかった」
鷹刀は電話を切ると、家を出た。
外は雨だった。
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魔法師達が、騎士達が倒れている。
その中を、男が笑いながら歩いて来る。
血も、痛みも、何一つ背負っていない笑みだった。
「……それでいいのですか」
ジョルジーヌが、その男を睨む。
「あなたは、何も失っていない」
男は答えない。
ただ、天を仰ぎ、笑った。
そして、世界は生まれた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この話は30年以上前大学のサークル会報誌に載せようと書いていたものを今回の投稿用にリビルドしたものになります。
30年以上前はあらゆるものの描写が細かいものが多かったのですが、その分文字数が多くなり、なかなか話が進まなくなってしまったので、今回極力描写を省いた形になりました。
言動が誰のものかもわかりにくかったのは反省点です。
今後もう少し磨きたいと思います。




