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【完結・番外編投稿中】正体不明の転生毛玉、人間嫌い皇帝の溺愛ルート入りました  作者: はなまる


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番外編 ドラゴンの帰郷

 国境を越えて、半日ほど街道をひた走る。


 ヴォルガド帝国は軍事国家だ。侵略戦争を国家戦略とし、奪い、従わせることで経済を回していた。

 五年に渡る戦争でその根本をヒューゴに叩き潰されて、今は見る影もなく勢いを無くしている。

 街道沿いの村々や街は人影もまばらで、どことなく不穏な空気が漂っている。


「……なんだ? 戒厳令でも出ているのか?」


 ヒューゴが馬車の窓から外を眺め、眉間の皺をさらに深くした。

 民の窮状を憂いているのか。それともミーヤとの街ブラの予定が狂ったからなのか。

 側仕えの装いのザックが、小さくため息をついた。


 その日の午後、立ち寄った宿屋の女将おかみが、力なく首を振って教えてくれた。


「……愛想が尽きたのさ。みんな逃げ出しているよ。おかみが、ドラゴンに悪い薬を使って操ろうとしたんだよ。この国ではドラゴンは守り神みたいな存在なのさ。いや、もっと身近な感じだねぇ。古くから伝わる“わらべ唄”があってね」


 女将が、掠れた声でわらべ唄を口ずさむ。


こりゅうのルーガは ちいさなこ

もりでひろった かわいいこ


葉っぱをかじって ミルクをのんで

こどもといっしょに ねむったよ


けれどこりゅうは おおきくなった

おおきく、おおきく、おおきくなった


これではいえに はいれない

これではむらに いられない


こりゅうのルーガは もりにかえった

みんなでないて みおくった


さみしくなったら かえっておいで

さむい日には もどっておいで


 それを聞いた小さなトカゲが、ヒューゴの肩の上でピクリと反応した。


「***(……ルーガ、か。そんな名で呼ばれていたこともあった、かのう)」


(ドラゴンさん、この歌、知ってるの?)


 ドラゴンはミーヤの問いには答えず、遠くを眺めるように目を細めた。


 帝国において、ドラゴンはただの強大な生物ではない。庶民はこの唄を歌いながら育ち、母親は子供のためにドラゴンのぬいぐるみを作る。

 古くから身近な存在として慈しまれてきた歴史があるのだ。

 それを兵器として利用しようとした帝王の所業は、庶民にとって許しがたい裏切りだった。


 翌日、たどり着いた帝都は、さらに閑散としていた。

 ドラゴンによって粉砕された王城は、見渡す限りの瓦礫の山だ。


 その瓦礫の山の隣に、ポツンと一つだけ金ピカの玉座があり、そこにひしゃげた王冠を被った帝王がふんぞり返って座っていた。


「よ、よく来たな、アウステリアの小僧……! 見ての通り、我が城は貴様の差し向けた化け物のせいで無惨な姿だ! さあ、賠償金の話をしようではないか!」


 その隣には、どことなく薄汚れたバルガス少将と、顔色の悪い使者が並んで立っていた。


 ヒューゴがクイッと顎で合図を送ると、文官に扮したザックが、流れるような動作で「帝国の罪」を裏付ける証拠を束で突きつけた。


「まずは物証です。ここにあるのは、帝国の国璽こくじが押印された狂化薬の研究記録、およびその予算執行書。帝王閣下、これはあなたの直筆のサインですよね」


 事務的ながらも冷徹な響きを含んだザックの言葉に、帝王の頬がピクピクと引きつる。


「次に、実行犯の自供です。皇帝陛下の保護対象(毛玉)を拉致・監禁した者、ならびに我が国の少年ヨシュアを暴行した兵士ら全員の証言録。さらには……」


 ザックは一度言葉を切ると、背後の馬車へと視線を向けた。


「本日この場には、我が国への亡命を希望している貴国の研究員三名が同行しております。帝国の暴挙、そのすべてを彼らの口から直接、この場で証言させてもよろしいですか?」


「知らん! そんな者など我が国民ではない!」


 帝王の言葉が聞こえたのだろう。馬車の窓がガタンと開き、中の研究員が口々に叫んだ。


「家族を盾に取られた! あんな研究などしたくなかった!」

「給料ももらっていない! 帝国に恨みはあれど、恩などひとつもないぞ!」

「家族を返せ! 給料を払え! 研究者としての誇りを返せ!」


 大人しい研究員だと思っていたが、よほど腹に据えかねていたらしい。


 帝王が絶句し、隣に並ぶバルガスと使者の顔から、急速に血の気が引いていく。

 逃げ場を完全に失った彼らを、ヒューゴの氷のような視線が射抜いた。


「さて、どう落とし前をつける?」


 静まり返っていた広間に醜い怒声が飛び交った。


「バルガスが勝手にやったことだ! 余は知らん!」


 帝王が隣の男を指させば、バルガスも顔を真っ赤にして叫び返す。


「何を仰いますか! 帝王、あなたの命令でしょう!?」


「兄上、わしも帝王から『何でもいいから賠償金をふんだくってこい』と厳命されました!」


 使者も唾を飛ばして叫ぶ。この二人、態度も姑息なやり口も似ていると思ったら、どうやら兄弟らしい。


 三人のあまりに無様な様子に、ヒューゴは吐き捨てるように言った。


「……くだらん」


 その言葉を合図にしたかのように、ミーヤの肩から小さな影が飛び降りた。今日のミーヤは人間の姿だ。道中出番のなかったよそ行き服を着て、ヒューゴの後ろで大人しくしている。


 ドラゴンが、トカゲほどだった身体を、ゆっくりと元の大きさへと戻していく。

 見上げる絶望的な質量に、先ほどまで騒いでいた三人が、喉を鳴らして震え上がった。


「****……(泣いて謝った癖に、まるで反省しておらんのう。……呆れた奴らだ)」


   * * *


「王城を破壊したドラゴンか? 帝王に悪い薬を使われた……! そりゃあ怒るよな」


 瓦礫の影から様子を伺っていた民衆の間に、さざ波のようなざわめきが広がった。


「もう身体は大丈夫なのかい? 痛いところはないかい?」


 まるで近所の子供を心配するおばちゃんのようだ。帝国民の、ドラゴンへの愛着は本物らしい。


「***。*、**(我は昔、この国で育った。ここは我の故郷だ)」


 ドラゴンの静かな、それでいて懐かしさに満ちた唸り声を聞き、ミーヤが瞳を潤ませる。


(ドラゴンさん、ずっと帰りたかったんだね……)


 その時、ドラゴンの金色の瞳が、相棒マブダチであるミーヤを真っ直ぐに見つめた。


「***、***?(ミーヤよ、マブダチポイントというものが、貯まったらしいぞ。なんだ? これがそなたの、技なのか?)」


 どうやらドラゴンの頭の中で、あのファンファーレが鳴ったらしい。


 パンパカパーン!


 一拍遅れて、ミーヤにも聞こえる。


《“マブダチポイント”が貯まりました。二人のポイントを消費して、交流のための能力を追加、又は強化することができます》


(りゅうの、こうりゅうの、のうりょく? 早口言葉みたいだね!)


「***? ***……(うむ、たとえば何ができるのだ? ほほう、なるほど)」


 ミーヤが早口言葉に気を取られているうちに、ドラゴンの方は理解を深めたらしい。


「***?(ミーヤよ、我が“マブダチポイント”の恩恵を受けても良いか? お主も権利があるようだが)」


「もちろんだよ! りゅうの、こうりゅう、のうりょくを、きょうかしよう!」


 早口言葉……。まあまあ、言えているではないか! ミーヤの舌もずいぶんと回るようになったものだ。


「***、****(では、そのように、頼む)」


《選択を受け付けました。毛玉のミーヤ、ドラゴンのルーガ、双方の“マブダチポイント”を消費し、ドラゴンのルーガに『人語』の能力を付与します》


《実装》


 ポン!


 ミーヤの『生やす』に対応した効果音が再生される。……使い回しだ。


「うむ……。これが人間の言葉か。何やら口がこそばゆいが、悪くはないな」


「ドラゴンさん、しゃべった!」


「ふふ、毛玉のミーヤよ。われの名は“ルーガ”だ」


 ドラゴンの言葉を聴いた民衆がざわつく。


「おい、あのドラゴン、ルーガだってよ」


「ははっ、やっと帰ってきてくれたのか! うちのひいひいばあちゃんが、最後まで会いたがっていたらしくてさ!」


「うちの先祖の言葉にあるんだ! “ルーガは寒がりだから、でかい毛布を作ってやれ”って!」


 ルーガの金色の目が、カッと見開かれる。


「わ、われは、怖がられてしまうと……。帰ったら迷惑だろうと、ずっと……」


 ミーヤには、その気持ちがとても良くわかる。大好きな人に怖がられてしまうことは、とても苦しくて辛いことだ。


(良かったね! ルーガ、怖がられてないよ! みんな待ってたって、言ってるよ!)


「おかえり!」

「おかえり、ルーガ!」


 あちこちから、あたたかい声が聞こえる。


「……ただいま」


 ルーガがやけに人間くさく、照れくさそうに言った。


 ドラゴンのルーガ、百数十年ぶりの帰郷である。



読んで下さりありがとうございます。


軽い気持ちで書きはじめた番外編が、結構な文字数になりました。さあお次は、いよいよみんな大好き、ざまぁ回ですよ(作者も大好きです)! 番外編なので好きにやらせてもらってます!

次回予告はネタバレするのでナシです。あっ、番外編のリクエストなど、聞かせて頂きたいですね。書くとは限りませんが笑


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― 新着の感想 ―
良かったネ、ルーガ! ...さぁ、お前らの罪を数えろ...w
リクエストですか…。ヒューゴの川流れ的なオチのシチュを夢想しちゃいますね。ミーヤと2人で川に遊びに行って流されちゃうみたいな笑。流されてる時に眉間に皺が入ってるとグッド。
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