番外編 帝国への旅 壱
びー様に大変素敵なレビューを書いていただきました。感無量でございます! 誤字報告してくれた皆様、ありがとうございます。
「陛下、ヴォルガルド帝国からの使者が到着致しました」
「うむ、対応しよう」
ヴォルガルド帝国は因縁の敵国で、しばらく前に毛玉を盾にヒューゴを誘き出し、狂化薬を使ったドラゴンに襲わせた国だ。
ドラゴンとミーヤが種族を超えた友情で結ばれて親友になったり、ミーヤがSAN値直葬の姿でヒューゴを守って戦ったりと、すったもんだの末にドラゴンにボコボコにされた。
『もう二度とアウステリアと森に手出しはしない』と、帝王が泣いて謝るまでやったらしいので、その件を国としての取り決めとすることになったのだ。
「不戦条約を結ぶのですか、それとも属国としますか」
地味な服装の側仕えが言った。髭は濃いが絶妙に人の記憶に残らない人相と佇まいだ。
「あんな国はいらん」
ヒューゴが眉間の皺を一本増やして、心底嫌そうに言った。いくら若いとはいえ、そろそろ皺が定着してしまいそうだ。ドラゴンの薬草はパックにしたら美容効果がありそうなので、使ってみてはどうだろう。三人の怪我には劇的に効いた。
* * *
「貴国は我がヴォルガルド帝国に対し、凶暴なドラゴンを差し向けて蹂躙した。これは明らかな侵略行為である。そのため、損害賠償と謝罪を請求する」
使者は偉そうにふんぞり返って言った。
「少しも反省しておらんではないか……!」
帝王が泣いて謝った話はどこへ行ったのか。いや、これが往生際の悪い瀬戸際外交というものかもしれない。
「国境の砦跡で、動物を狂わせる薬の研究をしていたこと。その薬を散布して我がアウステリアを襲わせようとしていたこと。我の最愛のペットを拉致・監禁した件――これらについては、どう落とし前をつけるつもりだ?」
「そのような事実はない! 証拠もなしで言いがかりをつけるなど、言語道断だ!」
「貴殿の国の研究員の身柄も確保しているし、国印の入った研究資料も、全て押収しているが?」
「し、知らん! 事実無根だ! 侮辱だ! ドラゴンのせいでヴァルガルド帝国の城は壊滅状態だ! 賠償金を払え! 払わんならば……」
「払わんならば……何だ? 最後まで言うが良い」
使者はもごもごと口ごもった。戦争をふっかけたところで、帝国は二年前にケチョンケチョンに負けたばかりなのだ。
「近隣諸国に、アウステリアの所業を訴えてやる! 同盟を結んで経済封鎖を……、いや! 連合軍として攻め込んでやるぞ!」
「ほほう……。言いおったな。貴殿の言葉は帝国の真意と受け取ってよろしいか? 後悔はないか?」
アウステリア皇国の食糧自給率はほぼ100パーセント、燃料の自給率も高い。経済封鎖などされても痛くも痒くもない。
これは二度と戦争をしたくなかったヒューゴが、二年かけて進めた鎖国に近い政策によるものだ。国際的には排他的であまり褒められたものではないが、アウステリア皇国は他国を必要としない国なのだ。
「自分の言葉に責任を持てるのだな?」
ヒューゴの冴え冴えとした蒼い瞳が、絶対零度の冷たさをもって、視線を泳がせている使者を射抜いた。
「待て……! わしはただの使者だ! 帝王の命令でここまで来ただけだ! この書簡を受け取ってもらえれば……わしの用件はそれだけだ!」
「そうか? では貴国まで……我が直々に送ってしんぜよう……。おい、使者殿を、迎賓館へ案内し、丁重にもてなして差し上げろ!」
途端に屈強な騎士が四人、青い顔をしてガクガクと震える使者を取り囲み「連行」……いや、「案内」のために半ば引きずるように退場した。
ヒューゴは小さくため息をつくと、足元をコロコロしている毛玉をヒョイと抱き上げる。
「ミーヤ、お前も一緒に行くか? 馬車で三日くらいの道のりだ」
それを聞いた毛玉はチョンチョンと、ヒューゴの手のひらの上で跳ねた。どうやら喜んでいるらしい。頭の花が左右にビヨンビヨンと揺れている。
「ミーヤでも連れて行かんと、気が滅入って耐えられる気がしない。構わないだろう? ザック」
「問題ないと思われますが、今の私は側仕えですから」
髭の濃い側仕えが、暗に名前を呼ぶなと言って軽くヒューゴを睨んだ。
「毛玉様の余所行きを、仕立てないといけませんね」
「俺も、今それを考えていた……。人間用と、毛玉用の両方が必要だな……!」
「お寒う御座いますから、人間用はあたたかい装いを」
「毛玉は平気なのか?」
「毛玉様は、冬毛に生え変わっておりますゆえ」
二人は楽しそうに、毛玉の旅支度を整える話をはじめた。
それを聞いていた毛玉はコテンと首を傾げ……いや、斜めに傾いた。
『さいぞうさんも、冬毛に生え変わるのかな……? あとで聞いてみようっと!』
それはあまりイジリが過ぎるというものだが……。さいぞうさん本人は、胸毛も臍毛も大人の男の象徴だと自慢に思っているので問題はない。
そしてヒューゴも胸毛には、ちょっと憧れていることを……毛玉はまだ知らない。
読んで下さりありがとうございます。
完結からたった三日で、もう番外編を書きはじめてしまいました。ちょっと辛抱の足りない作者ですね笑 しかも一話じゃ全然収まらなかった。ぼちぼち投稿していきます。楽しんでいただけると幸いです。
明日も投稿します。
《次回予告》
次話『番外編 帝国への旅 弐』
使者とバルガスのキャラが被っている件。
たぶん兄弟←雑な解決法
議会を黙らせて、馬車の旅がはじまります!




