終話 お城へ帰ろう!
(ほら見て見て、へーか、少し高く飛べるの!)
ミーヤが得意そうに羽ばたき、ヒューゴの周囲を旋回すると、ヒューゴはうんうんと頷きながら、手を叩いた。
「ほう、すごいな! 立派になって……!」
それよりも怪我の具合や、宝剣が折れたことを心配した方がいいのではないだろうか。
しばらくすると、砦の中から足を引きずったザックが現れた。黒装束のあちこちが破れている。
「ザック!」
(さいぞうさん!)
同一人物である。
「陛下、毛玉様、ご無事でしたか!」
ザックを含め全員が、ご無事ではない。
「報告致します。パニックを起こした研究員が、動物を狂わせる薬……狂化薬の散布装置を作動させておりましたが、無事に破壊。沈黙を確認しました」
「そうか。ご苦労だったな」
「こちらは薬と散布装置の資料です。毛玉様を保護出来なかったこと、誠に申し訳ありません。ご無事で何よりです」
重ねて言うが、全員がご無事ではない。
資料に目を通したヒューゴがため息をつく。
「ヴォルガ帝国もバルガス少将も、碌なことをせんな……。いっそ、滅ぼしてしまうか?」
「陛下、ヴォルガルド帝国です。いい加減、覚えて下さい。それと、滅ぼすなら、一応は議会を通さないと……」
ザックがギリリと歯を鳴らした。この男が声に感情を乗せるなど珍しいことだ。それだけ腹に据えかねているのだろう。
「それより、全員が酷い怪我だ。城へ帰ろう。ローマン姉弟はどうしている?」
「助け出して、近くの猟師小屋へ避難してもらいました」
「無事か?」
「弟は抵抗したらしく、派手にやられていましたが、命に別状はないかと」
毛玉がヒューゴの肩にとまり、心配そうに琥珀色の目を瞬かせた。
「では荷馬車でも調達して、迎えに行こう。ミーヤの大切な友だちだからな」
「わかりました。馬と荷馬車を見つけて参ります」
(さいぞうさんも怪我してるから、わたしも探しに行く!)
ザックがシュパッといなくなり、毛玉もパタパタと飛んで行った。
* * *
その後、ローマン姉弟を荷馬車で回収し、すぐに獣医師の診療所へ向かった。
獣医師は「何ですか! この怪我人の山は! 私は獣医師だってわかっているんですか?!」とブツブツ言ってはいたが、適切に、手際よく治療に当たってくれた。
ヨシュアの肋骨は折れておらず、ひびが入っていただけだった。若いからすぐに治るだろう、とのことだ。
ドラゴンがくれた薬草を渡して経緯をヒューゴが話すと、獣医師はちょっと引くほど興奮していた。どうやら、薬草にもドラゴンにも、並々ならぬ思い入れがあるらしい。
そのドラゴンはといえば、約束通りミーヤに会いに来てくれた。森でいちばん美味しい果物をくれて、二人で並んで一緒に食べた。
ヴォルガルド帝国には『もう二度とアウステリア皇国と森に手出しはしない』と、帝王が泣いて謝るまで、キツイお灸を据えたらしい。
バルガスがどうしているか少し気になったので、今度ヒューゴと一緒に「見物」に行こうかとミーヤは思っている。
イレーヌの父は、姉弟に付き添われて出頭した。少し刑期は伸びたが、今度こそ真面目に罪を償うと、二人に約束していた。体調も徐々に回復しているらしい。
折れた宝剣アウステリアは、一応鍛冶屋に頼んでみたが、元には戻らないそうだ。
側近たちは卒倒したが、ヒューゴは「もう二度と使わずに済む」と、あっけらかんとしていた。
洗濯室には、ミーヤは今も週に一、二度は顔を出している。
最近はアイロン掛けが上達したと、マルタに褒められて上機嫌だ。
大猿もロボも森へ戻って来ている。ヒューゴにあれほど叩きのめされたのに、さすが森のボス。逞しく、そして強かだ。
けれど、ヒューゴの匂いのするミーヤに会うと、ものすごく嫌そうにしているのでミーヤの森での生活は少し安全になった。
虎も時々ロボと縄張り争いをしているのを見かけるので、元気にしているのだろう。
ヒューゴは相変わらず、毎日惜しみなく『愛されポイント』をくれる。ミーヤの『だいしゅきポイント』も順調に増えているので、いつかまた、あのファンファーレが鳴り響く日も、あり得る未来だろう。
ミーヤは今も『タイプA汎用毛玉』のままだ。何者でもない。けれど『汎用』は『凡庸』と似ているけれど違う。様々な用途や分野に、広く使えることを意味している。
つまり、汎用毛玉は全ての子供たちと同じ存在なのだ。
子供と毛玉は、大した根拠がなくても、自分の未来を信じて良い生き物だ。
ミーヤが城の中庭で、無邪気に過ごすのを見ていると、ヒューゴはふと思う。
かつての自分には許されなかった、子供と毛玉のあまりにも甘く、貴い特権。
いつかは現実と向き合い、厳しい冬を越えねばならない日が来るのかもしれない。だが、その日こそが、ヒューゴの出番なのだろう。
(その時までは……どうか健やかに、ただ明日を信じて笑っていてくれ)
それが守護者としての、自分の役割なのだと、誇りにすら感じている。
ヒューゴは最近庶民に『人間嫌いの毛玉好き皇帝』と呼ばれているらしい。その『人間嫌い』が取れる日も、案外遠くはないはずだ。
『なりたいわたしには、自分でなる』
システムとのその約束通り、ミーヤは今日も、少し高く羽ばたき、少し素早く転がり……そしてアイロンがけに精を出している。
ミーヤはチョンチョンと跳ねて、けもの道を横切り、茂みの中をコロコロ転がっていく。
ミーヤは今日も、森で最弱の毛玉だ。
〈完〉
読んで下さりありがとうございます。
これにて本作は完結です! 最後までおつき合いいただき、本当にありがとうございます。
完結とは致しますが、まだまだ書きたい場面がたくさんありますので、ぼちぼち書いて投稿していくるつもりです。どうかブクマはそのままで! そして――。
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またお会いしましょう!
作者 はなまる




