表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・番外編投稿中】正体不明の転生毛玉、人間嫌い皇帝の溺愛ルート入りました  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/67

第55話 最後の『生やす』

 ミーヤは檻の中で、うとうとと丸まっていた。いや、元々丸いのだが。


 湿った空気と、遠くで響く金属音が、眠りを浅くする。どうやらここは地下らしい。


(イレーヌたち……大丈夫かな……。ロボたちもいなくなっちゃった……)


 毛玉の体内時計は、もうじき日付が変わる頃だと告げている。


 ガチャリ。


 扉が開き、兵士がミーヤを檻から引きずり出した。


「おい、毛玉。出番だぞ」


(えっ……出番? やだよ、だってきっとロクなことじゃないもん)


 ミーヤはプイプイと抗議したが、兵士には通じない。小さな檻へと移し替えられて、地上へと運ばれていく。


   * * *


 大きな建物から出ると、開けた草原だった。真夜中の冷たい風が頭の花を揺らす。


 血の匂い。

 鉄の匂い。

 そして──ヒューゴの匂い。


(へーか……?)


 視界が開けると――。


 そこには、血に濡れた皇帝が夜の中心に立っていた。


 真紅のマントは裂け、肩口からも太腿からも、滴る血が地面へぽたぽたと落ちている。


 右腕が力なく垂れ下がり、左手で地面に突いた宝剣に寄りかかるようにして立っている。

 額にも頬にも傷が走り、ヒューゴの整った顔を凄惨に染め上げる。


 呼吸は荒く、胸が上下するたびに傷口から新しい血が滲む。

 それでも──青い瞳だけは、飛びかかる前の獣のように鋭い。


 ミーヤの知るヒューゴは、ハムの人と呼んでいた頃から、絶対的な強者だった。そのヒューゴが、なぜこんな姿に?


 あたりを見回すと、大猿と虎、それにロボが倒れていた。


(戦ったの? あのボスたち全部と? へーかが勝った……! すごい……、でもへーかも怪我してる……)


 ミーヤはさらに周りを見回した。誰か……、知っている人が、誰かいないのだろうか。


(さいぞうさんはどこ? せんせい(獣医師)は……? 誰か、へーかの怪我を何とかしてくれる人はいないの?)


「次は、誰の番だ? ほら、かかって……こいよ」


 ヒューゴが、不敵にニヤリと笑う。


 誰かが呟いた。


 ああ──

 これが“戦場でしか笑わない”と噂された所以ゆえんなのかと。


「ふん、強がりを言いおって! あの黒いネズミなら待っても無駄だぞ。何か地下を必死になって走り回っておった。お前より、大切なものがあるらしいぞ」


(黒いネズミ……? きっとさいぞうさんのことだ! さいぞうさんも地下で何か大切な仕事があるんだ……)


「さて、ウヒヒ……! おい、毛玉をこっちへよこせ!」


 それを聞いた瞬間、ヒューゴの顔色が変わった。その顔に浮かんだのは……。


 怒りでも憎悪でもなく──

 恐怖だった。


 バルガスはそれを見て、さも嬉しそうに笑った。


「ははっ! ようやく顔色を変えたな! しかし、本当にこんな毛玉が大切なんだな? わしには少しもわからんよ。なんなんだ、この花は?」


 そう言って、ミーヤの頭の花を引っ張った。


「やめろ! 花を引っ張るな!」


 ヒューゴが叫んだ。


 その声は、今まで聞いたことがないほど必死だった。


(へーか……! わたしの花なんて、すぐにまた咲くのに……)


「ハハッ、いい気味だな! 何が軍神だ! 下らない毛玉にうつつを抜かしているただの若造じゃないか!」


 バルガスは檻の格子戸を開け、ミーヤを乱暴に掴み出した。


「おい、アレを連れて来い! もう面倒だ。毛玉共々、踏み潰されてしまえ!」


 ペイッ!


 ミーヤはヒューゴの足元へ投げ捨てられた。


「ミーヤ!!」


 ヒューゴは宝剣を放り出し、膝をついて震える腕でミーヤを抱き上げた。


「良かった……ミーヤ……! 無事だったんだな!」


(やだやだ! 全然良くないよ! へーかは無事じゃないし、血だらけだし、いっぱい怪我してるよ!)


 ミーヤは必死にヒューゴの胸に頭を擦りつけた。何もできない。ヒューゴに抱きつくことさえできない。


 ヒューゴの怪我の治療も、背負って逃げることも、大丈夫かと、声をかけることも……。


(わたし……何もできない毛玉だ……)


「大丈夫だ……大丈夫だよ、ミーヤ……」


 ヒューゴは笑って抱きしめてくれた。眉間の皺も伸びている。


(大丈夫じゃないよう……! へーかは全然、大丈夫じゃない!)


 背後からガラガラと、車輪を転がす大きな音がする。振り向くと、巨大な檻が引かれてくる。その中からは、覚えのある気配がした。


 グオオオオオオオオッ!!


 大きく低い唸り声に、ミーヤがピキリと固まる。


「ハッハーッ! 愉快愉快! さあ皇帝陛下、ドラゴン様のお成りだ!」


 闇の奥から、巨大な影が姿を現した。


(あの時の……ドラゴンさん……!)


 それは、かつて遺跡の泉で「また会おう」と言って別れた、あのドラゴンだった。


 その目にあるのは、狂気と怒りだけ。


「見ろ、これが伝説の『竜王』! 我がヴォルガルド帝国の最高傑作だ!」


 ドラゴンは大きくのけぞり天を衝くような咆哮を上げた。その音圧だけで砦の窓ガラスが次々と砕け散る。


 狂った巨躯は、狙いを定めたかのようにヒューゴへ向かって一気に加速した。


 ドゴォォォンッ!


 巨大な前足が振り下ろされ、ヒューゴが間一髪で避けた場所の石畳が、まるで焼き菓子のように砕けた。飛び散った石のつぶてが、ヒューゴの頬をまた切り裂く。


 ドラゴンは止まらない。太い尻尾を鞭のようにしならせ、なぎ払う。


「……くっ!」


 ヒューゴは片腕でミーヤを抱きかかえたまま、宝剣を盾にしてその衝撃を受け止めた。

 だが、重戦車に跳ね飛ばされたような衝撃に、ヒューゴの体はゴロゴロと転がる。

 支えにしていた宝剣が石畳を削り、バキッと嫌な音を立てて折れた。


「……逃げろ、ミーヤ!」


 ヒューゴの掠れた声が、耳元で響いた。


「森へ跳ねて行け! お前なら逃げ切れる。ひとりでも生きていける! 大丈夫だ! 行け!」


(やだ……やだよ、わたしはへーかの“放し飼い毛玉”だもん! 森の……独りぼっちの毛玉に戻るのはイヤだよ!)


 ドラゴンは、倒れ伏した獲物を見下ろすと、ゆっくりと首をもたげた。赤い瞳が、真っ直ぐにヒューゴとミーヤを射抜く。


 前足が、再び振り上げられる。先ほど石畳を粉々にしたのと同じ攻撃だ。今度は、きっと避けきれない。


(は、『生やす』、して下さい! ポイントありますか?!)


 ミーヤは咄嗟に、システムを呼んだ。


 ピコン


 いつものお知らせ音が鳴り、いつもの無機質なアナウンスが応える。


《残ポイントを確認します。…………。17回の『生やす』が可能です。何を生やしますか?》


(う、腕を! ドラゴンさんの攻撃を受け止められる腕を、へーかを抱えて走れる足を! 強い尻尾を! 大きな爪を! あとは、あとは……、何でもいいから、生やして!》


《ヒューマンモデルに変化した時、それらが反映されますが、よろしいですか? この質問に答えると、取り消しも変更もできません》


《はい/いいえ》


(いい! へーかを守れるなら、それでいいよ。ポイント全部使って、へーかを守れる毛玉にして!)


《返答を受け付けました。今後、変更と取り消しはできません》


《『愛されポイント』全消費》


《利用可能オプション数:17》


《警告:対象の表面積が大幅に足りません》


《オプション3回分を表面積補完に自動充当します》


《実質利用可能オプション数:14》


《準備完了。実装します》



読んで下さりありがとうございます。


次話は、ヒューゴとミーヤの正念場です。

本日18:10投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミーヤ…!!! ヒューゴ……!!! 。・゜・(ノД`)・゜・。 ミーヤの決意が、ヒューゴの覚悟が尊くて涙出てくるよ… どうかふたりが末長くしあわせに暮らせますように…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ