表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正体不明の転生毛玉、人間嫌い皇帝の溺愛ルート入りました  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/35

第27話 尻尾の使い途

(あとは……どのくらい力持ちかな!)


 何かを持ち上げてみたい。ミーヤはヒューゴの寝室の中を見回して、持ち上げられそうな物を探した。


 花瓶……は、見るからに高級そうだし、見上げるくらい大きくて水も入っている。おそらく、とても重たい。


(それに、落として割れたら大変だよね……)


 ミーヤはパタパタと羽ばたいて、ベッド脇の文机へと移動した。ヒューゴの読み差しの本が何冊かあったはずだ。本なら落としてしまっても、そうそうは壊れないだろう。


 シュルシュルと巻きつけて、そっと持ち上げる。


(出来た! ちゃんと力持ちだ!)


 驚いたことに、ミーヤの身体よりも大きいハードカバーの分厚い本が、軽々と持ち上がった。そっと下ろして元の場所に戻す。繊細な力調節も難なく出来る。


(これ……すごく便利かも!)


 ヒューゴが本を読む時に使う、サイドランプにぶら下がってみた。尻尾の長さを変えながら、ブラーンブラーンと揺れてみる。


(た、楽しい!)


 調子に乗って、鉄棒の大回転のようにグルグル回っていたら、酔ってフラフラになってしまった。だが、念願の『尻尾でぶら下がる』が出来たので、ミーヤはとても満足だった。


 吐き気と眩暈がおさまると、ホクホクと文机の上のインク瓶へと尻尾を伸ばした。瓶の蓋にシュルシュルと巻きつけてキュッとひねる。カポンと小さな音を立てて、蓋が外れた。


(筆みたいに、上手く使えるかな?)


 ミーヤはチャポンと尻尾の先を、インク瓶の中に差し入れた。美弥だった頃の、小学校の習字の時間を思い出す。筆の先を揃える要領で尻尾を瓶の縁に押しつけて、ついでに余分なインクを切る。


 皇帝陛下の寝室にあるのは、もちろん高級仕様のメモ用紙だ。以前ヒューゴが、経費削減のために裏紙の使用を提案したが却下された。『皇帝の品位の問題です』と説明されたが、ヒューゴは納得いかなかった。


『皇帝の品位』。そんなものはミーヤの頭の花よりも役に立たない。


 現に、国旗の透かし模様が入った『皇帝の品位を保つための高級メモ用紙』は、毛玉がつたない文字を練習するために使っている。


 ミーヤはまず、自分の名前を書いてみた。


 何度か書いて練習してみる。お世辞にも上手いとは言い難い幼さのにじむ文字だが、読めないことはない。指で床に書いた時と、そう変わらない出来栄えだ。


 次にヒューゴの名前を書く。


(へーかの名前、長いんだよなぁー)


 ヒューゴ・ヴァレリウス・アウステリア


 一枚ではとても収まらず、二枚使った。


 さて、宛名も差出人(毛玉)の名前も書けたので、いよいよ本文に取り掛かる。


 ヒューゴへの最初の手紙だ。


(何を書こうかなー)


 ミーヤはふと、美弥だった頃のことを思い出した。


 美弥の父親が仕事で遅くなる日が続いた時、交換日記をしていたことがあった。

 その日にあったことを書くだけで、お父さんはすごく喜んでくれたのだ。


(今日、あったこと……尻尾が生えたことかな?)



 きょう、しっぽがはえました。ものをつかんだり、ぶら下がったりできます。とてもべんりです。

 このおてがみも、しっぽでかいています。


 わたしは字がよめるので、へーかもおへんじをくださいね。


みーやより



(ふう〜! 書けた! あとは封筒とかあるといいんだけど……)


 ミーヤが尻尾を使って、インク壺の蓋をしめようとした、その時。


 ヒューゴの部屋の扉が、ガチャンと音を立てて開いた。


 ノックをしないで入ってくるのはヒューゴだけだ。ミーヤはちょっと慌てた。

 手紙を書いている時に、その相手に会ってしまうのは、なんとなく気恥ずかしい。


 慌てて、インク壺の蓋をグリグリと回すと、インク壺は蓋だけでなく本体がクルクルと回り……。


 ゴトンと音を立てて、文机の下に落ちた。インクが毛足の長い、高級絨毯にこぼれ出る。


「ミーヤ、どうした?」


 ヒューゴが長い足でどんどん近づいて来た。


 ミーヤは拭くものを探した。雑巾とか、使い捨てのペーパータオルとか、そういったものだ。


 だが、皇帝陛下の私室に雑巾はない。あるのは高級手拭いや絹のハンカチばかりだ。


(だ、だめ! 洗い物が増えちゃう!)


 ミーヤは洗濯下女なので、汚れものを増やすことを歓迎はできない。すでに高級絨毯に大きなインク染みを作ってしまったのだ。インクの染みは落ちにくい。


(わたし、洗濯下女なのに!)


 そんな職業意識が、ミーヤをパニックに陥らせた。オロオロと転がり、文机から落ちて、ピチャンと絨毯のインク溜まりに嵌まった。


 インクが飛び散り、ますます染みが広がる。ミーヤは、もうどうしていいかわからずに、インク溜まりの中で固まった。


 すると、ヒョイっと、ヒューゴがミーヤを持ち上げた。インクでヒューゴの手が黒く汚れる。


「なんだミーヤ、いたずらか?」


 ヒューゴは軽い調子でそう言うと、備え付けのバスルームへと行き、洗面器にお湯を入れる。皇帝陛下のバスルームには、帰る時間にあわせてお湯を張ってあるのだ。


 ミーヤを洗面器の中にそっと入れ、高級石鹸を泡立てる。優しく揉み洗いだ。石鹸の香りが心地いい。


 だが、ミーヤはそれどころではない。絨毯のインク染みが気になって仕方ない。早く染み抜きをしないと、落ちなくなってしまう。


 ミーヤは泡を付けたまま、ヒューゴの手の中から飛び出した。


(この、石鹸の泡で、絨毯の染み抜きをする!)


 見上げた洗濯下女魂だ。マルタがいたらきっと、褒めてくれるだろう。


 だが、洗濯下女魂よりも、ヒューゴの反射神経の方が上だった。


「こら、ミーヤ!」


 空中で捕獲されてしまった。


「あんな染みのこと、気にするな。洗濯係がきれいにしてくれる。城の洗濯下女たちは皆、優秀だ」


 ミーヤはびっくりした。ヒューゴは洗濯下女のことなど、考えたこともないだろうと思っていたのだ。


『城の洗濯下女たちは皆、優秀だ』


 ヒューゴの言葉を、みんなに聞かせてあげたい。


 皇帝陛下は、みんなの仕事を知っているよ。どんな染みもきれいにしてくれるって、信頼してくれているよ。


 ミーヤの洗濯下女魂は、春の日差しで花が綻ぶように、咲き誇った。


 だが『それはそれ、これはこれ』だ。インクの染みは、早く落とすに限る。


 その後、ミーヤの書いた手紙を見せたヒューゴとすったもんだがあり、インク染みを落とすために大量の指示を書き……。


 ――皇帝陛下が『インク染みの叩き洗い』を完璧にマスターしたのは、また別の話である。




読んで下さりありがとうございます。


洗濯機がない時代に生まれなくて、本当に良かった。下女たちの洗濯の様子を書くたびにそう思っています。庶民の家事労働を考えると、ちょっと気が遠くなりますよね。


《次回予告》

意外な場所で、意外な人物と出会います。

作者お気に入りのキャラが登場ですよ!


次話『《幕間》 影の人』

その人の名は……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ