第1話 ミーヤは森の最弱毛玉
本日は9時50分より、毎時間一本ずつ第15話まで投稿します。
ある国の、深い深い森の中。
けもの道から少し外れた場所に大きな木があった。その木の根っこの隙間に、小さな毛玉が挟まっている。
毛玉の名前はミーヤ。
好きで挟まっているわけではない。はまり込んで抜けないのだ。もう二日もこの状態だ。
(お腹がすいたなぁ……)
ミーヤは心の中で呟いた。ミーヤは鳴き声を持たない毛玉なのだ。
ギュッと丸めた動物の抜け毛がふわりと広がったような身体に、ちょこんと二つの琥珀色の目がついている。
手足らしきものは見当たらず、普段はコロコロと転がるか、チョンチョンと跳ねて移動している。
小さくて軽いので、以前、鳥に持って行かれそうになったことがある。
危険と隣合わせ。それがミーヤの日常だ。
二日ほど前の昼下がり、食べられる物を探してチョンチョン跳ねていたら、根っこに躓いて転がり、見事に挟まって動けなくなった。
一日目は木の根っこ付近に生えていたキノコを食べて凌いだ。
だが、お腹は少し膨らんだものの、眠くなるキノコだったので、ぐっすり眠ってしまって、起きたらまたお腹がすいていた。
夕方足の多い、わさわさっとした虫が通りかかったが、ミーヤは昆虫には食欲がわかないタイプの毛玉だ。
いやしかし、あと半日過ぎたらわからない。生きるためには背に腹は変えられない。
ミーヤはフルフルと身体を揺すった。弱って動けなくなる前に、何とか抜け出さなくてはいけない。
(一日目にはピッタリ挟まって動けなかったけど、今はお腹がペッタンコだ! 頑張れば抜けられるかも!)
パッと見はまん丸だが、毛玉的にはペッタンコらしい。長毛種の猫を洗うとびっくりするくらい細長いのと、同じかもしれない。
ミーヤが必死で身を捩っていると、森の入り口の方から、ビリビリと毛先が痺れるような気配を感じた。
(な、なにか……すごいのが、来ちゃう……?!)
毛玉の語彙では、あまり多くを語れない。
そうこうしているうちに、バサバサと翼音がして鳥たちが一斉に飛び立った。
リスやモモンガなどの小動物が、木の枝を伝って一目散に去って行く。狼の遠吠えが響き、四つ足の動物たちが群れをなして森の奥へと駆け出した。
どう考えても只事ではない。もともとミーヤは、森の最弱ランキングがあったらぶっちぎり一位の毛玉なのだ。危機察知能力は飛び抜けて高い。
こんな場所に挟まってさえいなければ、いの一番に逃げ出している。
ミーヤの身体のフルフルが、ガクブルへと変わった。
(ど、ど、どうしよう!)
バサッと枝が揺れ、逃げ遅れたリスが一匹、木の幹を駆け下りて来た。リスは焦っていたのだろう。ミーヤのすぐ横を飛び越えようとして、後ろ足で木の根を思いきり蹴った。
メリッ。
木の根がわずかにしなって、隙間がひろがった。
(――ぴゃっ!?)
スポン! と、ミーヤの身体が抜けた。
勢いあまって、そのまま地面をコロコロと転がっていく。
止まらない。
(ひゃ、ひゃ、ひゃ、うひゃあー!)
ポテン。
何か、かたいものにぶつかって、ようやく止まった。
(た、助かった……?)
目を回しながら、ミーヤはそろそろと顔を上げた。
すぐ目の前にあったのは、磨き上げられた黒い靴のつま先だった。
その上に、すらりと長い脚。
さらに上へ、その上へと視線をのぼらせて――ミーヤは、琥珀色の目をまん丸にした。
(お、おお、おっきい……!)
見上げた先に立っていたのは、ミーヤが今まで森で出会ったどの生きものよりも、ずっと静かで、ずっと恐ろしい“何か”だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
本作は以前連載していた『《ゲーム転生⁈》正体不明の毛玉が、冷酷皇帝陛下に育成されてます』の改訂版です。時系列を整理し、大幅に加筆しました。
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《次回予告》
恐ろしい威圧感の相手に見つかってしまった毛玉のミーヤ。
このまま食べられてしまうのか……!?
次話『第2話 怖い怖い人間さん』
毛玉、連載開始早々、大ピンチ!?




