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第3節 リアルライフについて1

 六月三週目、週末。

 梅雨が近いのか、今週は曇り空が多かった気がする。


 先週は学園祭があった。

 展示制作、応援、演劇、合唱という四つの行事のどれかに参加するというもので、俺は一番負担の少ない展示制作を選び、準備期間の三週間ほどは紙を切り続けた。

 残業一時間。帰りたくはあったけど、積極的に白い目で見られたいわけではないので淡々とこなした。

 出来上がった愛嬌のあるドラゴンに妙な見覚えがあると思ったら、これTFTのチョンクだな。悪くない。


 鴻乃さんおよびそのご一行は応援を選んでいた。

 これは二日目に集団で踊りを披露するという、陽キャ御用達のアレだ。三週間、朝と夕に一時間ほど練習して本番に臨んでいるとのことで、運動神経の良い者どもが集うこともあり流石の完成度だった。普通に格好良い。


 先週は本番間近ということもあってコーチングはなかった。そもそも、これまでのコーチング日も練習期間と被っているが、他の人も全部の練習に出てるわけじゃないとのことで、水金だけ直帰していたらしい。

 というわけで鴻乃さんとの不思議な関係が始まってもうすぐ一か月経つが、今週は二週間ぶりのコーチングだった。この時点で既に五回ほどコーチングを行っている。

「応援、かっこよかったよ」

「本当!? 嬉し~~頑張った甲斐があるね~~~。展示も可愛かったね! ふとっちょドラゴン」

「あれはあれで頑張った……紙を切ったり……貼ったり……」

「あはは、お疲れ様~。あ、あと誕生日のお祝いもありがとね! 今度一緒にいこ?」

「あ、うん」

 先週末は鴻乃さんの誕生日だった。ちょっとしたもんということで、スタバの千円ギフトをLINEでプレゼントしたらデートイベント発生かこれ? アイデアは姉の俺への誕プレ使いまわしである。ありがとう姉。


 さて、鴻乃さんはどうやらAI戦から卒業しノーマルを結構回しているらしく、ランクが出来るサモナーレベル30までもうあと少しというところまで来ていた。

 最初こそ初心者の多いマッチングだったが、勝率七割と明らかに初心者帯では無双しすぎる彼女に、ようやくマッチングシステムさんも「ん?スマーフ《初心者狩り》か?」となったらしく、ここ最近は経験者帯のマッチに入れられるようになっていた。

 レーンで大体CS6はとれるようになってきており、今は色々なチャンピオン対面に慣れようというフェーズだ。


 それと、しっかり炊き始めた。

「はあ? 今のCSとれないの?」

「ああーーもう下手すぎ!! 何で私今のフラッシュ押せないの!!!」

「えええーこれ寄れなくない? MIDウェーブ食べなきゃだよ? どう考えたって死ぬじゃんそこ私にピンするなー!!」

 ……きゃぴるんとしていた彼女が模範的LoLプレイヤーになっていく。でももう止められない。しょうがないんだ。

 強くチャットをオフにすることを勧めたため、敵味方からのありがたいアドバイスは来なくなっているが、このゲームにはより雄弁なピンという仕様がある。

 集団戦で負けた時に自分の死体の上に「?ピン」を打たれるのは最早ご褒美と思うようにしている。じゃないとキレすぎて血管が足りなくなるからな。


 そんな具合で、彼女はピンという非言語性コミュニケーションを駆使するソロQ戦士候補となりつつあった。

 LoLのはじめたては成長を実感できるか、それとも狩られまくる、知らないことが多すぎて萎えるかのどちらかだと思う。その点彼女は初心者にしてはかなり知識が豊富で、どんどん成長していっていた。

 CS、ハラス合戦、集団戦。特に、使いづらいアニビアのWもコンボの一環としてだけ使うやり方ならば無駄になりにくい。それと、前のめりなプレイが多いのもかなり良い点だった。

 初心者であれば委縮してハラスされ続けて何も出来ない、みたいなのが多いけど、彼女は割と積極的にコンボを仕掛けていく。前のめりなのは上達の近道だからかなり良い。センスを感じる。

 この、彼女のインゲームでの性格はちょっと意外でもあった。

 最初こそ陽キャギャルでナチュラルコミュ強と思っていたけど、会話を続けているうちに結構計算しながら喋っているような印象を受けるようになったからだ。普段は明るくて朗らかだけど根は勝気。そりゃストレスも溜まるか?


 さて、昼飯を食べてインQし、本日もさくっと三連勝。

 昨日は負け越しだったが、全体を通してみると、順調に成長していく彼女に引っ張られるかのように、自分も好調が続いていた。

 考えられる理由としては二つある。

 一つは、休み時間などでも惜しみなくLoLの勉強をするようになったこと。

 二つ目は、鴻乃さんにLoLを教えることで、自分の知識を整理するようになったこと。

 ……いや、三つあるか。一緒の趣味を共有する友達が増えて楽しい。

 LoLはe-sportsで、特に何がスポーツといえるかというと、メンタルの影響が大きい点だ。

 ADCとしてメンタルだけはかなり鍛えられてると思っているけど、やはり多少の影響は受ける。楽しいという気持ちが自信のあるポジティブなプレイに繋がっている面はあるのかもしれない。試合中にはそんなこと考えてないけど、やっぱり周囲の環境がなんだかんだでメンタルに影響してるのは多分にあると思う。


 なんてことを考えていると、クライアントからチャン、とメッセージが届く音がした。

 フレンドのひびきからだ。


『ひびき:調子良さそうね』

『ひびき:暇だったらデュオどう?』

『Archer:お、久しぶりじゃん』

 ふと気になって彼女のプロフィールを確認すると、ダイヤ1だった。

『Archer:お、ダイヤ1来てるじゃん』

『ひびき:そうだよ、このままマスターまでいく discoいける?』

『Archer:いける』


 ディスコ《通話アプリ》を起動すると、すぐにひびきからコールがかかってきた。

『やっほー。元気か少年』

 女の人にしては低めの声だ。低めの声とマッチするかのように口調はダウナー。地味に彼女の声好きなんだよな。

「元気だよ。春休みぶり、どうしたの?」

『ああそっか、そうだね。春休みぶり。いや、たまには才能ある子と関係値でもあげとこっかなって』

 ついこの間、初めてきょうさんと出会った時のことを思い返す。声に反して身長は低めだけど、ふわっとしたボブに垢抜けた服装をしていたのが印象的だった。LoLをやってる人間に対するステレオタイプとして、もっとオタクっぽい人を想像してただけに意外だった。俺みたいなね。

「なんじゃそりゃ。響さん大学は慣れたの?」

『んーぼちぼちかな。今のところ普通に真面目に通ってるよ。あと時間めっちゃ出来たし、LoLも結構やってる。てわけでキャリーよろしく~』

 そういい、響さんはメインロールをADCからSUPに変更する。

「いいけど、SUPでマスターあがるでもいいの?」

 この人のメインロールは俺と同じADC。初めてお互いを知ったのはレーン戦での敵同士という出会いだ。そっから次の試合に彼女がSUPに来て、めっちゃくちゃ負けた上にお互い若かったのでフレンド申請をして、そこからチャットでありえないぐらい罵倒しあった。お互い若いって言っても彼女はその時高2なので、普通に若すぎない?

 ちなみにこのゲームではフレンド申請は文句を言うために送る、って話を伊野と八岡にしたら普通にびびられた。やっぱこのゲーム治安が悪いっぽいし、故にあの二人はLoLをやらない。

 閑話休題。そこからも何回か響さんとはマッチし、それで気付けば普通に友達になってるのだから不思議なものだ。

『あ、全然いいよ。なんなら最早私ってSUPなんじゃね?ってレベルでサポートやってるから』

「ああ、めっちゃ送られる?」

『しかも普通にADCより勝率高いしね。むかつくわ……」

 サブにサポート入れちゃうとね、サポートやらされるよね。それが嫌で俺はサブロールミッドだしね。

 彼女はゲーム理解度が高めのプレイヤーなため、その技能をより求められるサポートの方が勝ちやすいのだろう。ミクロが低いわけじゃないんだけどね……どんまいだ。

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