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第2節 ノマデビュ1

『明日おうちお邪魔していい!? みせたいものがある!』

 というメッセージが来たのは六月に入った翌週の木曜夜だった。


『おっけー。どこ集合にする?』

『じゃあこの前の喫茶店で!』

『駅集合とかじゃなくていい?』

『もし歩くのが迷惑じゃなければ!』

『全然良いよ じゃあ喫茶店で』

『あざ!』

 そして翌日、金曜日。

 その後もちょくちょくメッセージでLoLの質問を受けたりして、なんだかんだで連絡が続いていた。

 それと、学校でこそ直接話すことは無かったけど、挨拶を交わしたり、ちょくちょく目線が合ったり、その度に軽く微笑まれたりと、ちょっとした変化もあった。

 そのちょっとした変化に普通にめちゃくちゃくらってるんだけど、なるべく平常心を保つ。俺はリー・シン、俺はリー・シン。

 改めて鴻乃さんのことを意識して隠れ見ると、彼女はいつものメンツもそうだし、色んな人と喋っている。彼女がいるグループは楽し気な会話が聞こえてきて華やかだ。彼女の容姿が華やかなのもそうだけど、会話している感じも純粋に楽しそうだった。

 こんな人にLoL教えてるって、何か現実感が無くて笑えるな。


 放課後、俺はいつもの俊足で喫茶店へ。鴻乃さんは五分遅れで到着する。

「お待たせ~。てか射手場くん速すぎ!」

 かっこわらい、という感じで笑われた。

「まあ、帰宅部なんで」

「あの、私も帰宅部なんですけど~」

 言いつつ、歩みを進める。

「あー……友達いないんで」

「あははっ、そんな悲しいこと言うなって。私がいるじゃないか! 射手場くんって伊野くんとか八岡くんとかと放課後遊んだりしないの?」

 陰キャ同盟を結んでいる二人だ。この同盟は休み時間等の孤立化を防ぐことを目的として締結されている、陰キャによる陰キャのための同盟であって、それ以上でもそれ以下でもない。ていうかよくその二人の名前も覚えてるな。クラスの名前全員覚えてるのか?

「あいつらとは普通に学校で話すだけだなぁ。両方ゲーマーだけど」

「あ、そうなんだ! LoL?」

「いや、あいつらはFPS」

「そうなんだー。一緒にやったりしないの?」

「ちょろっとはやったかな? 俺がLoLしかやってないせいでフェードアウトしたけど」

「あーね。そこ合わせないのは流石だね」

 キリっとした感じで鴻乃さんがコミカルに言ってくれているが、これは良い意味でもあり悪い意味でもありそう……。

「まあ、そういう関係って感じ」

「逆にLoLは誘わなかったの?」

「あー確かに。特に誘ってないな」

 あいつら二人とも、LoLが闇のゲームだということを理解してるからな……。

「ふーん。こんなに面白いのに」

 何となく、この前まで視聴者だった人のセリフと考えると面白かった。


「それで、見せたかったことって?」

 歩くこと三十分、我が家に再びギャルが来た。ゲーミングチェアに腰掛けた彼女は、慣れた手つきでプラクティスツールからアニビアを選択する。どうやらCSを練習してきたらしい。そして、驚くのに十分はかからなかった。

「自己ベスト更新!! やったーー!!!」

 画面端のCS数は71を指している。

「いや……あんたどんだけ練習したのこれ」

 つい一週間前、LoLを初めて触ってCS51だったんだよな?

「寝る前とかにちょくちょく練習してた! あと日曜はまじでLoLしかしてない!」

 だとしてもだろ。

 まだ判断するには早いが、現時点で彼女の才能はやばすぎる。CSをとれる才能がじゃない。この爆発力とか衝動力だ。ゲーマー向いてます。

「いや……普通に成長がエグすぎる」

「ほんと!? やったー! これで実戦解禁ですか!?」

「えっちょっとまって、CS練習だけずっとしてたの?」

「え、うん。だってCS70越えれたの昨日だし」

 ストイックすぎる。いや、ストイックすぎるだろ。

「ま、まじか……」

 確かに、よく見てみればサモナーレベルが全くあがっていなかった。

 今この瞬間彼女の認識を改めたくなってきている。正直、ギャルだしストリーマー入りだしで、一時の関係だろうなと思っていた。いや、関係はまあいつ終わったっておかしくないが、彼女から感じていたゲーマーとしての素質は確かかも。


「じゃあ、まずはAI戦……の前に、アニビアの基礎コンボとか動き方って分かる?」

「多分、大体わかってる……と思う! いったんまずやってみて、おかしかったところは良い感じに教えて貰う、っておけ?」

「ああ、じゃあそれでやってみよ」

 教わり方うまない?


 マッチするまでもしてからも緊張する~!と落ち着かない様子だったが、インゲームでは普通に相手チャンピオンをキルするシーンもあった。

 そして三十分しないぐらいでブルーチームの勝利というアナウンス。鴻乃さんは合わせた両手を激しく揺らしていた。

「やったやったやった!」

GGグッドゲーム

「どうだった!?」

「これもうとっととノーマル(対人戦)いこっか」

「まじ!?」

 多分だけどアイアンよりは強いわ。わかんないけど。やっぱ最初に知識ブーストがあるのは結構でかい。

「鴻乃さん普通にアニビア動かせてたし、これならもう対人経験積んでいった方がいいね」

「確かに、びびっててもしょうがないもんね……! 了解! ……これ、サブロールはどうすれば?」

 ノーマルドラフトは予め希望のロールを第一希望と第二希望とで選択しなければならない。この希望を考慮しながら、ゲームは五人のチームを二つ作るのだ。第一希望の人たち十人を集めてゲームが開始出来たら最高だが、そうするとマッチング速度が遅くなってしまう。そのため、第二希望のロールを選ぶ必要がある。

「なんか希望あったりする?」

「んー……ミッドの人ってサブロールどこにするものなの?」

「JGとかTOPのイメージかなあ、あとサポとか」

「JGかあ……」

「JG微妙?」

「難しくない? あとJGの人のソロQ(ソロランク)配信とか見てるとめっちゃこわっ!てなるし」

 彼女もまたLoLの闇を見ている者……。

 JGはね。全レーン干渉できるから、風当り強いよね。

「まあ、最初はお試しでやりたいのやるといいよ。色々と試してみて、好きなレーンとかチャンピオンを見つけていけばいいし。あと、チャットはオフにした方がいい」

「なんかそれって寂しいねー……? んー、じゃあ……」

 そういいながら彼女はクライアントのチャンピオン一覧画面を眺める。まだ初心者アカウントなので、そもそも持っているチャンピオン自体が限られていた。

「気になるのある?」

「オススメを下さい、先生!」

「まあ、いきなり言っても分からんよな」

「射手場くんが私をゴールドまで導いてくれるんでしょ?」

 そんな会話はしてませんよ?

「ゴールドが目標なの?」

「やっぱり最初に目指すところはゴールドじゃない?」

 まあ、初心者が目指すところとして鉄板だ。

「……わかった。じゃあ、まずは……」

 エリスは流石に難しすぎる……アニビアと同じレンジドメイジなジャングラーってあんまいないんだよな。折角なら今使ってるチャンプと似たような性能を持っている奴がいいけど……ザイラとかブランド? ニダリーは難しい、……リリア? でもちょっとむずいよな。

「……これ、一般的なおすすめっていうより個人的なおすすめになるし、ちょっと癖があるチャンプだけどいい?」

「お、なになに!?」

 この、ノリが良い感じが眩しい。

「ブライアーはどう?」

 一番の決め手は、まずジャングラー単体の性能が高めなこと。そして、操作に癖はあるが比較的簡単で、対象指定スキルを持っているのでキルまでもっていきやすい。メインがレンジドなら、サブでメレーの感覚を覚えるのも良いだろう。あと、現在チャンピオンを持っていなくても使える期間なのも大きい。

「おーなんか可愛い! ……けどあんま使われてないよね?」

「そうだね、ストリーマー大会とか、プロだとあまり使われてない。でも強いよ」

「チームゲームには不向きってこと?」

「そう。割と明確にカウンターを取られやすいから、先出しはしにくい」

「先出しって、あれだよね? チャンピオン選択で、両チームがドラフト制で交互にチャンピオンを取っていくから、どこかのレーンは相手より先にチャンピオンを出さなきゃいけなくて、後からカウンターが出てくるようなチャンピオンはバンするか対策を考えとかなきゃいけない……だよね!?」

 言葉足らずだった自分に対して、生徒の補足が完璧だった。いや完璧すぎるが。怖いよ、すらすらそらんじられるの。

 なんか調子が狂うというか……これ、しばらく慣れないんだろうな。何回出くわしてもこのギャルからすらすらとLoLの知識が出てくるのにびびるし、そもそも目の前に眩しい美少女が座ってるのも意味が不明。

「あれ、合ってるよね?」

「合ってる合ってる。完璧すぎてびびってた」

「あはっ、でしょでしょ~?」

「ていうか鴻乃さんってオタク気質だよね?」

「…………」

 笑顔のまま固まっている。やばい、まずった?

「……うん。どうやらそうみたい。全然知らなかった」

 LoLで才能が目覚めた感じか……。でも、オタク気質はまじでLoLに向いてる。

「このゲーム、もう鴻乃さんもよく分かってると思うんだけど、とにかく知識ゲーなんだよね。もちろんミクロも大事なんだけど。キャラのAD(攻撃力)が2変わるだけで全体の勝率が2%とか上下する。で、この2%をLoLプレイヤーはかなり重めにみる。そういう情報のこともあるし、この構成とこの構成は……みたいな組み合わせの知識もあって、情報の種類自体も多い。知ってると有利になる情報は無限にあって、プロですら全てを知ってるわけじゃない。それでも、一般のトッププレイヤーと比べたら圧倒的な知識量を持ってる。……ってごめん急にめっちゃ喋って」

「いやいやいや! めっちゃありがたいよ! あとめっちゃ語るの射手場くんもオタクって感じで先生って感じした!」

 めっちゃ感じてらっしゃる。

「言いたかったことは、オタク気質であることはLoLが上達する上でいい才能なんだよねってこと。感覚派の人ももちろんいるんだけど、知識量は上達するのにめっちゃ重要。だから、鴻乃さんLoL向いてそうだなって思った」

「本当!? 嬉しいよ~~~。頑張る! では早速ブライアーについて教えてください!」

「おけ……」

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