第1節 ゲーマー・ミーツ・ギャル4
その後、三回CS練習を行い、最後はごりごりにスキルも使いつつ、CS51までスコアを伸ばしていた。プラクティスツールとはいえ、初日で1分あたりCS5.1って普通に悪くないんじゃないか?
「あの、本当にゲームやってないんだよね?」
「だからやってるって!」
「FPSとか、アクションゲームは?」
「プラウドさんを見て覚えました」
「……運動とかしてる?」
「あー中学は吹部だったから体力はあったよ! 今はめきめき落ちてる」
まじか。ゲーマーとしてのバックグラウンドはまじで無いのか? ……いや、皆こんなもんなのか? 初心者の人をこうやって見るのは初めてだから判断がつかないけど、伸び代が見えて全然才能を感じてしまっていた。
「なに、もしかして私才能ある!?」
「いや……ある……かもしれない?」
「なんか……めっちゃ微妙な反応なんですけど。てかさ、射手場くんもやってよ! 本当にこれCS70とかとれるの?」
とれました。
画面の端には91と書かれている。結構落とした感じがあったけど、まあ及第点か。
鴻乃は最初こそうますぎうますぎと囃し立てていたが、途中から集中できるように気を遣ってくれたのか静かになっていた。そして、十分を過ぎて椅子にもたれかかると、左後ろから座って見ていた鴻乃さんが久しぶりに口を開く。
「……なんか、まじでレベチなんですけど。ていうか射手場くんうますぎない? プロじゃん。アニビアメイン?」
「いや、ADCメイン……」
アニビアメインとかどこのストリーマーだ。
「えっ、てかもしかして射手場くんめっちゃうまい?」
「いや……うーん……ちょっとうまいくらいかなぁ」
マスターに留まっている現状、めっちゃうまいとは口が裂けても言えなかった。
「ゴールドとか……プラチナとか!?」
「いや……えっと……マスター」
なんかちょっと気まずいけど、口を濁すのもダサいかなと思い、結果淀みながら言うという、最もダメな結果にいたった。
「え゛っ」
帰ってきたのは濁点のついた「え」だった。
「え、マスターって、マスター?」
そう、と答えつつクライアントからプロフィール画像を見せる。ソロ/デュオという文字の下に、マスターという文字と紫のエンブレムが輝いている。
「……射手場くん、まじのまじで上手い人だったんだ……」
クラスメイトにLoLのマスターですと伝えて引かれる状況、これまた今生で一回きりだろうな。
「……それでちょっとうまいは謙遜しすぎじゃない?」
「いや、マスターでスタックしてるから……」
「いやいやいや……えっ、てかそんなガチな人に教えてよ!とか私急に詰めて、めっちゃ迷惑だったでしょ……?」
「いや、なんか普通に生きてたら経験しないこと経験出来てラッキーって気持ちでいるよ」
「えっ、クラスの美少女が急に家に押しかけてラッキー!みたいな?」
「ああうん」
「淡泊な反応やめてね」
「…………」
「無言やめてね」
「いや……普通にさ、俺周りの人間とLoLの話なんかしたことなかったから。新鮮だし、めっちゃ良かったな、って」
「そう言ってくれるとまじでありがたいよ~~。えっ、また遊びに来ていい?」
「それは……全然大丈夫だけど。もしまだLoLやりたいんだったら、余ってるノート貸そうか?」
元々は親が買って実質的に俺のものになっているノートがある。やたらパソコンあるからね、うち。
「えっ……いいの?」
「LoLも入ってるから、ネット回線があれば出来ると思う」
「え、本当にいいの?」
「いいよ、全然。まじで余ってる奴だし。けど、鴻乃さんって家でゲームする時間とかあるの?」
「全然あるよ、帰宅部だし!」
「ふーん……じゃあいいよ、飽きるまで貸すよ。ちゃんと返してもらうから」
「本当!? でも飽きなかったらどうする?」
「まあ、その時はその時じゃない?」
返されなかったらどうしようかなとふと思ったが……まあ、別に大したことにはならんか。死ぬわけじゃないし。鴻乃さんへの信用が死ぬだけ。
「わかった、じゃあ一旦借りるね! でも多分一か月とかは普通に返さないかもしれないよ? いい?」
「いい、いい。鴻乃家でずっと放置されてるなら返してもらいたいけど、使われてるなら本望だろ」
「わーーーまじか。えっめっちゃ嬉しい。ありがと。今度コーヒー奢るわ」
「ああ……よろしく」
その後PCのパスワードと、LoLのアカウントを新規作成するところまで行い今日はお開きとなった。時刻は十九時半。
「ていうか、こんな遅くまで大丈夫だったの?」
「あ、うん。そんなに厳しい家じゃないしね~。あと今日帰り遅いってもう連絡入れてるし」
いつの間に。しっかりしてるな。
「とりあえず駅まで送るわ。家どこらへんなん?」
「あざ! おうちは笹丘!」
隣駅じゃん。意外とご近所さんだった。
「あ、そうなんだ。目的地は駅でいい?」
「うん、大丈夫だよ! ありがと~」
自転車を押しながら駅まで向かう。カゴには鴻乃さんの鞄とPCの入った鞄が入っている。
道中もLoLの話をした。ストリーマー界隈の話だったり、ゲーム内の話だったり。三か月前までLoLを知らなかった視聴者勢ということを考慮すると、かなりLoLのことを調べてるんだなという印象を受ける。
……ゲームの内容を把握するために、推しの配信からMID・JGの視点に切り替えるだけあるな。普通にLoL視聴者としての才能は間違いない。そうなんだよ、LoLって面白いんだよって気持ちと、いやそんなギャルが見ててハマれるようなゲームかこれ?という気持ちが錯綜する。
会話が途切れたタイミングで、ずっと気になっていたことを聞いた。
「……けど、よく俺がLoLの動画を見てたってだけで声かけたね。コミュ力凄すぎない?」
「あーね。いや、本当そうだよね」
少しの沈黙を経て、彼女はこう切り出した。
「射手場くんってさ、多分学校生活を切り捨ててLoLやってるよね?」
グサッ。
「なかなか辛辣な意見だな……」
「いやごめん! ちがくて……なんだろう。どう言えばいいかな」
鴻乃さんは夜空を見上げ、釣られて上を向く。片田舎の夜空はそこそこに星が見えて悪くない。
「まず私は今、めちゃくちゃLoLのことが気になっていて、ハマっています」
「はい」
「そして、学校ではあまり人付き合いをしていない人が、LoLの動画を見ています。あっ、この人多分LoLのことガチなんじゃない? 今までは接点が無くて喋ったこと無かったけど、もしかしてLoLのことについてお話できるんじゃない!? そう私は思ったのです」
「なるほど。……でもそこでよく話しかけられるよな。そもそも、陽キャの人が陰キャに声かけるのってハードル高くない?」
「あはっ、自分で陰キャとかいう?」
「じゃあなんていうの?」
「んー……修行僧とか?」
JGの盲目チャンピオンが頭に浮かぶ。
「学校生活捨ててるのをマイルドに言い換えるな。俺はリー・シンじゃない」
「あははっ。えっ、LoLの話出来るのめっちゃ楽しいね!」
隣の可愛い女の子が笑ってるのを見てどぎまぎしてしまう。修行僧がこんなんじゃ、多分怒られるだろうな。まあでも実際、楽しいし新鮮だ。
「……そうだな」
「ていうか射手場くんって陰キャじゃないよね?」
「え、そうなの?」
「うん。そう……やっぱ、ゲーマーって感じ!」
「陽キャ、陰キャ、ゲーマー?」
「あはっ、そうそう。……ていうか、陽キャとか陰キャとかカテゴライズするのあんま良くないよ~?」
「そうなの?」
「そうだよ。なんか感じ悪いし」
「それはそう」
「でしょ?」
なんか、普通に性格が良さそう。こんな子がLoLに興味持ってるの? 本当に?
「あ、そだ、射手場くんLINE交換しよ!」
「ああ、おっけー。……えーっとどうするんでしたっけ」
ここ押して、QR出して、おっけー……はい申請した、とインストラクションに従い、ものの五秒で鴻乃さんが友達になる。アイコンは丸っこくて白いシマエナガだった。まじで鳥好きだな。
「ありがとね、送ってくれて! あとパソコンも!」
「いえいえ。また分からないことが出てきたら気軽に聞いて」
「らじゃ、また報告します! じゃ、また来週~」
「ああ……また来週」
きまぐれに帰り道も自転車を押して歩く。
なんとなくというか、かなり明確にうきうきしてしまっている。そもそも女の子と仲良くなった経験が乏しすぎてどぎまぎするし。LoL一筋でやってまいりましたけども、そりゃ私だって女の子に興味はありますよ? 正直、えこんな話しかけてくるなんてこの子もしかして俺に気があるのか……?なんて思っちゃってもしょうがなくない? でも冷静に考えてみ? 陽キャのギャルな方が陰キャのこと好きになるわけないでしょ? バカが!
……浮ついた脳内が阿呆らしくなり、自転車に乗ろうとしたところで携帯が震える。
『今日はありがとね! 楽しかった! もし迷惑じゃなかったらまたおうち邪魔させてね~』
という文言と、シマエナガのスタンプ。こいつ俺のこと好きじゃね?
あ、あかん……もてない男の妄想が爆発してしまった。
『こちらこそ楽しかった! また来たくなったらいつでもどうぞ』
と返し、自転車に乗る。運動不足だからか、がむしゃらに漕ぎすぎたのか、まあ両方なんだけど、息を整えるのに少しかかった。
良いことがあるとパフォーマンスが上がるという単純な男だったのか、その日のLoLは四連勝だった。




